スポーツドラマ化と思いきや、実際にあった事件をもとにした怖い話。41点(100点満点)
フォックスキャッチャーのあらすじ
大学のレスリングコーチを務めていたオリンピックメダリストのマーク(チャニング・テイタム)は、給料が払えないと告げられて学校を解雇される。失意に暮れる中、デュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から、ソウルオリンピックに向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。
同じくメダリストである兄デイヴ(マーク・ラファロ)と共にソウルオリンピックを目指して張り切るが、次第にデュポンの秘めた狂気を目にするようになる。
シネマトゥディより
フォックスキャッチャーの感想
レスリングをテーマにしたスポ根ものかと思いきや、先の読めないスリラーに仕上がっている意表をついた実話を基にした作品。
レスリングチームをスポンサーする大富豪ジョン・デュポンの行動が気味悪く、権力が才能や夢を打ち砕いていく様子に思わず眉をひそめてしまう一本です。
オリンピックメダリストのマーク・シュルツとデイヴ・シュルツ兄弟の五輪への挑戦&殺人事件を追った作品ですが、いわゆる死ぬ気で練習して、みるみるうちに強くなって、金メダルを獲る、といったありきたりのストーリーではありません。
純粋にレスリングに打ち込もうとしている兄弟の前にある日、練習施設やお金など必要なものならなんでも用意するという大金持ちの男ジョン・デュポンが現れます。
好条件やアメリカの威厳や栄光を取り戻すなどの大義名分を掲げられて、すっかりその気になった弟のマークはジョン・デュポンの敷地内で生活を始め、トレーニング漬けの毎日を送るはずだったのが、次第にジョン・デュポンはレスリングチームやマークを私物化していき、レスリングチームは怪しい方向に進んでいく、というのがあらすじです。
お金のないアマチュアスポーツの選手からしてみればスポンサーは頭が上がらない存在でしょうね。支援が途絶えればバイトをしながらでも練習と両立しなければならず、パフォーマンスに当然ひびいてくるはずです。
そんな中、自分の好きなことに没頭するために応援してくれる、生活を面倒見てくれる、なんて人が現れたらその人がちょっと変な人でもぐっと堪えて付き合っていく、なんてことはほかのスポーツの世界にもあるはずです。
また、縁を切りづらい上下関係が一度できてしまえばスポンサー企業の社長がアイススケート選手に手を出したり、相撲のタニマチのご婦人が力士をホテルに呼び出したりなんてこともなきにしもあらずですね。
劇中ではとにかくもう金持ちってなんでもできちゃうんだなって思わせるようなシーンの連続で、その気持ち悪さにどれだけ耐えられるかで好き嫌いが割れそうです。
ただ、お金持ちのおじさんが若い女の子にいたずらしちゃう話ではなく、お金持ちのおじさんが若くて筋肉隆々の男たちを振り回していく話なので、ストレートの男女が見てもいかがわしさも、色気も感じないはずです。ゲイの人たちなら興奮するかもしれませんが。
この当時のアメリカの五輪レスリングチームの異様な環境を映画の題材にしてくれたのは嬉しいですね。日本でもボクシングジムの悪徳会長に私物化されている選手や高校野球の監督の独裁的な指導風景など、ネタになりそうなものはたくさんあるけど、本に書かれても映画にはなかなかならないですね。
ああいった特殊な環境を鋭く描くのは難しいんでしょうか。気持ちわるぅって思わず言ってしまうような権力者たちをもっとネタにしていったらいいんですけどね。
さて、この映画に出てくるマーク・シュルツはレスリング引退後、総合格闘家に転校して初期のUFCにも出場したようです。
その後、40歳過ぎてお金に困って、アントニオ猪木の興行ジャングルファイトにも出場したそうです。マーク・シュルツはこの試合をプロレスだと思っていたのに直前になって総合格闘技だということを聞かされて、結局八百長をして負けることにしたという説が囁かれています。
彼がスポンサーに頭が上がらないというのはなにもレスリング時代だけじゃなかったようです。かつて五輪で金メダルを獲ったような選手が引退後も生活のためにこうして戦い続けないといけないというのも大変なことですね。
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