アンソニー・チェン監督による、シンガポールのリアルな日常を描いたセンス溢れる人間ドラマ。72点(100点満点)
イロイロぬくもりの記憶のあらすじ
1997年シンガポール、共に働きに出ている両親と暮らす一人っ子のジャールー(コー・ジア・ルー)は問題児で、母親の悩みの種だった。そんな折、住み込みで雇われたフィリピン人メイドのテレサに反発するジャールーだったが、真剣に自分と向き合おうとする彼女と次第に心を通わせていく。一方、父親はアジア通貨危機の影響でリストラされ、母親はテレサに対して嫉妬のような感情を持ち始め……。
シネマトゥディより
イロイロぬくもりの記憶の感想
中国系の家族と彼らの家に住み込みで働きだしたフィリピン人メイドによる家族ドラマ。シンプルで、リアリティーがあり、過剰な演出がなく、淡々と話が進んでいく国際映画祭向けの芸術志向映画。
前半は登場人物が嫌味で意地悪でイライラさせられますが、時間と共に家族とメイドが打ち解けていく過程が絶妙でした。特に問題児の息子とメイドが仲良くなっていく過程と両親とメイドが雇う側と雇われ側の距離をしっかり保っている関係性なんかは真実味があってよかったです。
物語が進むにつれ、癖があって嫌味な人たちも決して悪い人たちではないことが分かります。みんなそれぞれの悩みや問題を抱え、人に優しくする余裕がないだけなのです。特に母親は妊娠中ということもあり、情緒不安定でメイドに対して強い嫉妬を覚えたり、怪しいセミナーにのめり込んだり、ヒステリックになったりと、不機嫌なキャラで通していました。
母親がメイドに冷たくしたり、必要以上に厳しくしたりするシーンに嫌悪感を覚える視聴者もいるかもしれません。
しかしあれは実はそうしなければいけない理由があるのです。僕の住むブラジルでもそうですが、雇い主がメイドに優しくなんてしたら、メイドが勘違いして調子に乗って、全く仕事をしなくなるというのが常だからです。
仕事をしないだけならまだしも、家の物を盗んだり、いつのまにやら失踪したりするのは日常茶飯事なので、上下関係や立場をはっきりさせるためにああいう教育をするしかないのです。
テレサも真面目で優しい子だけれど、勝手に人の口紅を使ったりと、他人の所有物に対する感覚がずれている部分がありましたね。あの感覚がゆるゆるになっていくと怖いのです。
知り合いの人の話なんですが、メイドを雇っていたら最初の数ヶ月こそ真面目に働いていたのに慣れてきた途端、調子に乗り出して仕事もいい加減になり、挙句の果てには家に誰もいないときにペイパービューでアダルトチャンネルを鑑賞しまくり、後からものすごい請求が来た、ということがあったそうです。
女のメイドがそんなチャンネル見てるっていうのも笑えるんですけど、そのときの言い訳が「リモコンの操作が分からなかったから」だそうです。もちろん首にしたそうです。
全くの赤の他人が一緒に生活すれば雇う側にも雇われる側にもやはり色々あるでしょう。それだけ知らない人を信用することは難しいことで、この映画は人間同士のその辺の不信と信頼を上手く描いてました。
ラストなんかはそれぞれの人間味が出て心温まりました。特に笑えるわけでも、泣けるわけでも、興奮するわけでもないですが、普遍的な人間模様をしっかりと表現しているまともな映画です。
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