小津安二郎の「東京物語」の現代リメイク(モチーフ)版。東京に息子たちに会いにやって来た老夫婦を通じて日本の家族、親戚の関係性を巧妙に描いている家族ドラマ。
既婚者、子持ち、高齢者におススメできる一方で映画にスピード感を求める若者には向いていない年齢層によって感想が変わってきそうな一本。54点(100点満点)
東京家族のあらすじ
瀬戸内海の小さな島で生活している夫婦、平山周吉(橋爪功)ととみこ(吉行和子)。東京にやって来た彼らは、個人病院を開く長男・幸一(西村雅彦)、美容 院を営む長女・滋子(中嶋朋子)、舞台美術の仕事に携わる次男・昌次(妻夫木聡)との再会を果たす。
しかし、仕事を抱えて忙しい日々を送る彼らは両親の面 倒を見られず、二人をホテルに宿泊させようとする。そんな状況に寂しさを覚えた周吉は、やめていた酒を飲んで騒動を起こしてしまう。一方のとみこは、何か と心配していた昌次の住まいを訪ね、そこで恋人の間宮紀子(蒼井優)を紹介される。
シネマトゥディより
東京家族の感想
山田洋次監督の日本的なほのぼの家族ドラマ。
内容は小津安二郎の「東京物語」とほとんど同じだと言っていいと思います。いろいろ付け加えたり、削ったり、膨らませたりしている部分はあるものの、伝えたいことは同じじゃないでしょうか。
しかし現代版にするならするで、山田洋次監督はあのテンポも現代に合わせるべきだったような気がします。セリフの言い回しやシーンのつなぎなど今の時代にはあまりにもスローに感じます。上映時間も2時間を超え、じれったくなる人も少なくないはずです。
ただ、なんてことのないエピソードだけで淡々と日常を描いていく、あの手法は嫌いじゃないです。
小津安二郎の「東京物語」にはなかったエピソードで、次男・昌次(妻夫木聡)が母親に恋人を紹介する下りは、これまで山田洋次監督の作品に何度か出てきた「息子の恋人紹介シーン」の使いまわしですね。「おとうと」でも、「息子」でも、恋人役の女の子が美人で優しく、しっかりした性格というキャラ設定がかぶっていますね。
あれはおそらく山田洋次監督の女性の理想像なんじゃないかと思います。そりゃあ男なら誰でもあれだけ可愛くて、優しくて、しっかりしてて、正直な女性には憧れますよ。でも世の中に存在するかっていったら夢の中にしかいないんじゃないのかというようなよくできた女たちばかりです。特に「息子」の和久井映見の可愛らしさといったら半端ないです。今すぐ聾唖の女性と合コンしたくなること間違いなしです。
この作品が気に入ったという人はオリジナルの小津安二郎の「東京物語」をぜひ見たらいいと思います。つまらなかったという人は絶対に見たらいけません。時間の無駄です。
僕の住んでいるブラジルでも度々文化センターなどで小津安二郎の「東京物語」は放映されます。そのときには映画好きのブラジル人が、あの世界的に有名な小津監督の名作って一体どんなものなのか、といった顔で見に来ます。
僕もブラジルで初めて「東京物語」を見ました。今回、山田洋二監督の現代版と比較するために、また鑑賞し直してみたんですが、一体なぜ日本だけでなく海外にまで高い評価を受けているのか改めて考えてしまいました。
というのも特にブラジル人を始めとする熱々家族を持つラテン系の人々の大部分には到底理解できない日本の家族が描かれているからです。
この映画の老夫婦と息子、娘夫婦たちの距離感といったら彼らにとっては異次元なお話で、田舎からわざわざ出てきた両親をないがしろにする子供たちの気持ちなんてちっとも理解できないんじゃないかと思います。普遍的な映画だなんていわれているけれど、おそらくこれを理解できるのは先進国のドライな家族を持つ国民だけじゃないでしょうか。
昔アメリカの英語学校の授業で、「1ヶ月家族と付っきりで過ごす旅行と、1ヶ月毎日たくさんの宿題をやらされるのはどっちが嫌ですか」といったような質問をアメリカ人の先生がしたのを覚えています。
「家族と1ヶ月旅行するなんてごめんだ」といった皮肉を込めた先生の質問だったのですが、そこにいたメキシコ人の生徒たちはその意図を理解することができず、家族と旅行することのなにがそんなに嫌なんだ?といった顔をしていました。家族とベタベタの関係で育ってきた彼らには分かりようがないのです。
たまにブラジル人の中でも、「私、芸術に造詣が深いんです」的な人たちが、好きな映画に小津安二郎の「東京物語」を挙げたりしますが、僕はいつも「嘘つけよ」って思っています。
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