マヌエル・マルティン・クエンカ監督によるスペインで絶賛されたらしい人肉食いの物語。静かなトーンと独特のリズムでストーリーが進んでいき、視聴者の心理に訴えかける煽りの演出は評価できるものの、恐怖を誘いたいのか、ラブロマンスにしたいのかいまいちはっかりしない、宙ぶらりん映画。45点(100点満点)
映画カニバルのあらすじ
スペイン、グラナダのアパートで一人で生活している仕立て屋のカルロス(アントニオ・デ・ラ・トレ)。紳士然とした彼だったが、その正体は美女を拉致しては人里離れた山荘でバラバラにし、その肉を食すという連続殺人鬼だった。
そんなある日、彼は行方不明となった双子の妹を捜し出すために東欧からスペインに来たというニーナ(オリンピア・メリンテ)と知り合う。彼女の美しさに殺人と食人の衝動に突き動かされる一方で、カルロスは愛というこれまでに知らなかった感情にも支配されてしまう。
シネマトゥディより
映画カニバルの感想
「カニバル(人食い)」なんていう大それた題名をつけたんだったら、もういっそのこと食って食って食いまくればよかったんですけど、主人公であり、殺人鬼の男に勢いがあったのは序盤だけで、後半は女にあっさり恋心なんて抱いたりしている彼の弱さにがっかりしました。「それでも連続殺人鬼か、お前は」と正座させて説教したくなりました。
女を殺して肉を食う。その行為は主人公カルロスにとってはただの好奇心や衝動ではなく、生活そのものだったのではなかったのか。彼の冷蔵庫を見る限り、カルロスの主食は人肉で「これが赤ワインとよく合うんですよ」みたいな顔して人肉ディナーを食べていました。
そんな男がニーナと会ってから急に優しくなって、金の面倒は見るは、家の面倒はみるはで、ただのいいおっさんになっていく辺りがダメでしたね。ホラーだと期待していたのが、徐々に男の気持ち悪さが薄れていって、劇中にあの男の個性が死んでいくのが分かりました。
双子の姉妹をルーマニア人に設定したのは現地に家族がいない異邦人のほうがストーリー的に行方不明にしやすいからでしょう。ただ双子にする必要があるかどうかは疑問でしたね。
ルーマニア人女優に一人二役をやらせているため、双子の姉妹のスペイン語の話し方もレベルも全く同じで、二人ともマッサージもでき、でも性格だけは違う、という都合のよい設定になってしまいました。
双子にするなら、カルロスが妹のアレクサンドラを殺して食べるまでの一連のシーンを省かないでちゃんと見せたほうがよかったですね。そのシーンをちゃんと見せたうえで、その後姉のニーナとなに知らぬ顔で付き合っていく、というふうにしたら恐怖が増したんですけどね。
同じ人肉映画「肉」もそうでしたが、人肉を食うことに対する登場人物の喜びに触れていないのが物足りなさを感じます。
カルロスみたいな男は特に歪んだ性欲が危ない方向に行っちゃったタイプのような感じがするだけに、性を描かないことには彼のカニバリズムを描き切れないんじゃないかと思いました。
「肉」でもすでに紹介しましたが、日本に実在する人食い男、佐川一政は「今は食べたいというより食べられたい。できることなら生きたまま少しずつもだえ苦しんで死にたい、綺麗な女性に殺してもらいたい」というようなことを言っていました。
実際に人の肉を食う男が言うことはやっぱり普通の人とは違うのです。そういった狂気をそもそも正常の監督が描くのはやっぱり難しいのでしょう。どうしてもフィクションが現実を超えられないジャンル、それがホラーですね。
コメント
食人嗜好をもった人間がそんなに沢山の人を殺しまくるわけないじゃん
もうちょっと勉強して、どうぞ
>人嗜好をもった人間がそんなに沢山の人を殺しまくるわけないじゃん
ロシアの連続殺人鬼のアンドレイ・チカチーロはで52人の女子供を殺害して、その死体を食べましたけど