出来の悪い漫画のような現実感のかけらもない人物設定を基に繰り広げられる戦争家族ドラマ。大手映画館で上映するだけの一定のレベルに到底達していないお子様映画。15点(100点満点)
映画少年Hのあらすじ
昭和初期の神戸。洋服仕立て職人の父・盛夫(水谷豊)とキリスト教徒の母・敏子(伊藤蘭)の間に生まれた肇(吉岡竜輝)は、胸にイニシャル「H」が入ったセーターを着ていることからエッチというあだ名が付いていた。
好奇心旺盛で曲がったことが嫌いな肇だったが、オペラ音楽について指南してくれた近所の青年が特別高等警察に逮捕されるなど、第2次世界大戦の開戦を機にその生活は暗い影を帯びていく。やがて、彼は盛夫に対するスパイ容疑、学校で行われる軍事教練、妹の疎開といった出来事に直面し……。
シネマトゥディより
映画少年Hの感想
降旗康男監督による極めてクオリティーの低い失敗作。
登場人物がみな宇宙人的なのでSF映画として見たらいいと思います。そもそもこの映画は妹尾河童の自伝を基にしているそうですね。
自伝の内容もこれと同じだとしたら、ちょっと眉唾ものですね。特に主人公の少年妹尾肇とその父妹尾盛夫のキャラクターがウソっぽ過ぎて、とても戦時中のことを描いているとは思えない描写ばかりです。
国中が一丸となって日本の勝利を疑わなかったあの時代に小中学生の子供が、一枚のNYの絵葉書を基にアメリカの発展度を予想して、開戦直後に「アメリカに勝てるわけない」なんていう発想になるなんて信じがたいです。肇が賢すぎるのです。
その賢さがまた他の生徒より頭がいいとかのレベルではなく、およそあの時代に考え付くはずもないような未来的思考がこの子供には備わっているのです。
そうかと思えば、家が火の車になって逃げるしかないような状況で重いミシンをお母さんと一緒に「よいしょ」とか言いながらのんきに外に運んだりと、とても緊急時の行動とは思えない馬鹿なことをしたりもします。
挙句の果てには苦労して火の中を運んだミシンを「死んだら元も子もないから」と言って外においてきちゃう意味不明さ。それに黙って従う母親がアホすぎます。
あれだけの軍国主義の中を生きている子供が両親にタメ口きいてたり、ときには上から命令口調で話しているのにも抵抗を覚えました。
まるで生意気なアメリカ人のガキみたいで、どうせ西洋かぶれにするんだったらもっとジェスチャーとかを大げさにして、口癖を「オーマイゴッド」とかにしたほうがよかったですね。キャラが意次元の世界の子供でした。
それもそのはずこの小説は1997年に発行されたからです。すでに民主主義にどっぷり使った日本のビジョンを基にキャラクターを作り上げているから到底リアリティーが出せていないのです。戦時中に書かれて終戦直後に発行された「アンネの日記」などの書物とは訳が違うのです。
リアリティーがないのは登場人物だけじゃありません。あのセット丸出しの風景はなんですかね。予算がなかったのか、それとも大道具さんのレベルが低いのかは分かりませんが、見ていて物語の中に引き込まれることはまずなくなる、いかにも新しく建てた「昔の建物」がひどすぎます。
子役たちの演技も全然だめ。おそらく監督は「もっと声を張れ、声を」などと指導しているに違いないです。少年たちの声が無駄に大きすぎて日本語なのに聞き取れない箇所が多々ありました。
しかし全てはこの映画の監督の名前を聞けば納得がいきます。降旗康男。そう、あの歴史に残るリアリティーゼロ映画「単騎、千里を走る。」の監督です。ああ、じゃあ文句を言ってもしょうがないかって思います。悪いのはむしろあなたにリアリティーを求めた私のほうです。
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