アカデミー賞ドキュメンタリー部門受賞作品。虐殺を実行した張本人たちにインタビューし、彼ら自身が役者となって歴史ドラマを撮影していく様子を追った衝撃の記録映画です。47点(100点満点)
アクト・オブ・キリングのあらすじ
1960年代のインドネシアで行われていた大量虐殺。その実行者たちは100万近くもの人々を殺した身でありながら、現在に至るまで国民的英雄としてたたえられていた。
そんな彼らに、どのように虐殺を行っていたのかを再演してもらうことに。まるで映画スターにでもなったかのように、カメラの前で殺人の様子を意気揚々と身振り手振りで説明し、再演していく男たち。だが、そうした異様な再演劇が彼らに思いがけない変化をもたらしていく。
シネマトゥディより
アクト・オブ・キリングの感想
「ルック・オブ・サイレンス」のジョシュア・オッペンハイマー監督による、反政府の人間たちを殺したことを自慢する出演者の姿に虫唾が走ること間違いなしの不穏な映画。
日本にも過去の喧嘩自慢などをする元不良がよくいますが、インドネシアのその手の美徳を持ったおっさんたちが次々と登場し、「おれはここで、首にワイヤーを巻いてたくさん殺したんだぜぃ」などといった武勇伝を語っていく、気持ち悪い映画です。
僕はずっと戦争や殺戮に参加した人たちはあまり人を殺したときの話などはしたがらないと思い込んでいました。しかし彼らは違います。
政府も、国内メディアも、彼らを英雄視していることから、ついつい調子に乗って「俺も昔はここでよく殺したなあ。死体を全部この川に投げたんだよっけ、今となってはいい思い出だよ」といったノリでペチャクチャ喋ってしまうのです。
インドネシアではスカルノ政権時代の共産主義にアレルギーがあるようで、1965年のスカルノ政権崩壊以降、政府に反対する者は「共産主義者」として扱われ、長年迫害の対象となっていたそうです。
そしてその虐殺を請け負っていたのがそれぞれの地域のギャングだったり、民兵組織だったりで、そのメンバーたちにこの映画の監督はインタビューすることに成功したのです。内容ははっきりいって退屈だけれど、衝撃度と貴重な資料という意味では大変価値のある映像でしょう。
この映画によると、インドネシアではギャングメンバーなどで構成された民兵組織が今でも力を持っており、政府もそういった組織を支援しているとのことでした。
民兵組織パンカシーラ・ユースのイベントに元副大統領モハマッド・ユスフ・カラが出席し、「この国にはギャングが必要だ、ギャングとはもともと『自由の人』という語源から来ている。もしみんなが政府のためだけに仕事をしていたら官僚主義になりすぎてなんの仕事もできなくなってしまう。そんなときにギャングたちに仕事を果たしてもらう必要がある。筋肉を使って働いてもらいたい。筋肉といっても、誰かを殴るためじゃない。もちろんときには殴ることも必要だけれど」なんていう仰天のコメントを公の場でしてしまいます。見た感じバリバリの軍国主義なのです。それもかなりタチの悪い。
政治家がギャングとつながっていて、汚い仕事は全て請け負ってもらう。ギャングたちはそれこそ日本のヤクザのようにみかじめ料をもらいに地元の商店を回ってオーナーたちを脅して回ります。
そこに警察が介入する様子はありません。虐殺にかかわった人間の中には悪夢にうなされるという人と全くなんのトラウマもないという人がいます。
そして自分がやったことを悪いとも思わないと豪語する出演者の男が実に興味深いことを口にしていました。
「別に国際法なんかに従う必要なんてないと思ってる。ブッシュが大統領だったときはサダム・フセインが大量兵器を持っているといってイラクに攻め込むのも正義だった。けれど今ではあれは間違いだったといわれている。
ジュネーブ条約も今でこそ正しいモラルかもしれないけど、来年どうなるかなんてわからない。もしかしたらジャカルタ条約になってるかもしれない。戦争犯罪なんていうのは勝者が決めたこと。私は勝者だから、自分でルールを決められるんだ。国際法のルールなんて関係ない。」
この映画はアカデミー賞を受賞したことで、多くのアメリカ人の目に触れるでしょう。そして多くのアメリカ人はインドネシアの腐敗した政治体制に批判の声を浴びせるかもしれません。
しかし歴史をさかのぼると世界各国で共産主義狩りを推進していたのはほかでもないアメリカだったのです。
1965年にスカルノ大統領を政権から引きずり下ろすためにアメリカ政府はCIAを使って反政府派を支援していますが、この時代アメリカはベトナム戦争はもちろん、世界各国で反共産主義の運動に関与していましたね。
インドネシア人たちがそのときの思想を今でも素直に信じ続けているという皮肉。この映画はインドネシア人の狂気ばかりにスポットを当てるんじゃなくて、監督はアメリカ人なんだから、もっとアメリカの関与にも触れるべきでした。
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