「アナザーラウンド 」のトマス・ヴィンターベア監督による冤罪ドラマ。無罪の男がひどい扱いを受ける見ていてつらい話です。67点(100点満点)
偽りなき者のあらすじ
親友の娘クララの作り話が原因で、変質者のレッテルを貼られてしまったルーカス(マッツ・ミケルセン)。クララの証言以外に無実を証明できる手段がない彼は、身の潔白を説明しようとするが誰にも話を聞いてもらえず、仕事も信用も失うことになる。周囲から向けられる憎悪と敵意が日ごとに増していく中、ルーカスは自らの無実を訴え続けるが……。
シネマトゥデイより
偽りなき者の感想
アカデミー賞外国語映画のノミネート作品。ただのいい人が変な噂を立てられ変態扱いされる可哀相な男の物語り。男が見たらフラストレーションが溜まり、心苦しくなること間違いなしの一本。
保育園で働くルーカスは面倒見もよく、子供たちに大人気。特に親友の娘クララは彼に恋心を抱くほど、慕っていました。
しかしある日、口にキスをしてきたクララを注意したことでルーカスはクララの反感を買ってしまいます。
そしてあろうことかクララはルーカスに性的にいたずらされたなどとありもしない話をでっちあげ、たちまちルーカスは田舎町で大人たちから変質者扱いされてしまいます。仕事も友人も失ったルーカスは村八分にされ、身の潔白を証明することの難しさに苦悩する、というのがあらすじです。
保育園の園長を始め、親友たちまで「子供が嘘をつくはずがない」という先入観を持ち、まったくルーカスを信用していないところが腹立たしかったです。
特に園長は本人にろくに確認せず両親たちを集めて事件を報告してしまったり、ルーカスの元妻にまで喋ったりと、死刑に値する冤罪を引き起こした張本人です。あの薄っぺらい人間関係がなんとも歯がゆく、また田舎ならではの村人たちの一致団結の仕方恐ろしいですね。
この手の話は文明の発達していない国ではよくある話で大変リアリティーがありました。ただ、教育レベルも高いであろうデンマークからこの映画が生まれたというのには少なからず驚きがありましたね。
この映画では何かの事件が起こったときに市民が司法を通さずに人を裁いてしまうことの恐ろしさが描かれています。
日本映画「それでも僕はやってない」をさらに深刻にした映画といえます。証拠もないのに片側の供述だけで誰かを犯人と決めつけ、その人の人生をめちゃくちゃにしてしまう。僕の住んでいるブラジルではこういう冤罪事件が起こると、犯人にされた人は問答無用でリンチに遭ってしまう習慣があります。
この映画を見てブラジルのファベーラに住むある家族の話を思い出しました。その家族は両親と5人の子供の7人家族でした。5人兄弟の中に一人14歳になる少女がいたのですが、この子には妄言癖があり、例えば学校を休みたくなると「頭に腫瘍ができた」などといったことを平気で言う子でした。
反抗期もあってか少女は父親と度々口論していました。そしてある日、少女はあろうことか「父親にいたずらされたされた」などと近所に言いふらして回ったのです。父親はすぐに逮捕され、案の定拘留中にリンチに遭いました。
なんの証拠も挙がらなかったことから、運良く撲殺される寸前に釈放されたのですが、ファベーラでは「娘をいたずらした男」のレッテルを貼られたため、二度と自分の家には帰れません。それでも今でも遠くから養育費を送って家族を支えているそうです。
この映画は終盤でルーカスが徐々に村人の信頼を取り戻していくようなオチにしていました。しかしあそこは甘いなあ、という気がしましたね。たとえ村人がルーカスにどれだけ謝ったとしても、普通ならルーカスが彼らを許せないんじゃないでしょうか。あんなふうに失った友情がまた修復するとも到底思えません。
なぜ疑惑をふっかけられた時点で、彼があの村を出て行かず、留まったのかも疑問でした。仕事もできないんだし、あそこにいる意味が果たしてあったのか。あれだけ変人扱いされたら、逆に本当に変態になってしまう、というのでも面白かったかもしれません。
スーパーで逆ギレして、下半身裸で走り回って出てくるとかね。しかしたとえどんな内容、エンディングにしたとしても、後味の悪さが残るのは避けられない、そんな映画ですね。
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