刑務所にいる夫とその家族の毎日を追った人間味のある芸術ドラマ。スローなテンポで、苦しみながらもたくましく生きていく家族の表情を繰り返し繰り返し映し出した傑作です。88点(100点満点)
いとしきエブリデイのあらすじ
ノーフォークの村で暮らすステファニー、ロバート、ショーン、カトリーナの兄妹は、まだ暗いうちに母カレン(シャーリー・ヘンダーソン)に起こされる。その日は兄弟二人が刑務所にいる父イアン(ジョン・シム)の面会に行く日で、姉妹は隣家で留守番をすることになっている。母子三人は長い時間をかけてバスと電車を乗り継ぎ、ようやく刑務所までたどり着く。
シネマトゥディより
いとしきエブリデイの感想
「ナイン・ソングス」、「Genova」などちょっとイイ映画を撮り続けるマイケル・ウィンターボトム監督による、完成度がとにかく高い、しんみりさせられる家族ドラマ。
この映画を完成させるまでマイケル・ウィンターボトム監督は撮影になんと5年間も費やしたそうです。
年に二度みんなが時間の取れるクリスマス時期と夏に2週間ずつぐらい集まって撮影し、それを5年繰り返したそうです。すごいですね。
子役は全員素人の本物の姉弟で、家も彼らの実家、刑務所も実際の刑務所。それだけ夫が刑務所にいる間に子供たちが成長していく過程をちゃんと描きたかったんでしょうね。そのこだわりが素敵です。
体が大きくなっていく子供たちを映すことで、家族にとって永遠に感じる刑務所生活の長さを上手く伝えていました。
そもそも実際の撮影期間と映画の中の時間が同じなのです。セリフが少なく、ストーリーも単純で映画というより、家族のポートレートを記録したフォトアルバムを見ているような感覚を覚えます。
シナリオにアップダウンが少なく、特に劇的な場面がないのが特徴で、映像とセリフの少ない演技だけで勝負している極力無駄を省いた内容でした。
演技に関しては特に子供たちにはかなり自由にやらせていたようで、面会所で泣きだしたりするシーンも演出じゃなくアドリブらしいです。
夫が刑務所に入るなんてことになったら離婚する選択肢もあるのに、そうせずに苦しみながらもじっと待ち続ける妻カレンの姿が強く美しかったです。
子供のことを考えてというより、彼女の場合なんだかんだいって自分自身が夫のことを好きだから別れたくない、といった印象を受けます。
1日だけ仮出所で夫が出てくると、夫婦して子供を公園に置いたままホテルに行っちゃうシーンなんかが二人の熱い関係を表していました。
その一方でカレンは夫が不在の間、実はほかの男と不倫関係にあり、罪の意識に苛まれてやがてそのことを夫に話してしまいます。あそこで黙っておけないところが女だなあ、という感じがしましたね。早く言って自分がすっきりしたいみたいなあのズルさは男からしたらたまりません。
そういえば「マイ・ブラザー」でもそんなシーンがありましたね。なんで言うんですかね。しかしもとはといえば刑務所に入って家を長年不在にしていた夫が悪いのであって、それを重々知っているからこそ余計につらいカミングアウトとなりました。
ただ、乗り越えてきた障害が大きいだけに今更浮気のひとつやふたつぐらいどうでもいいよと言える状況ではあります。
極端な話、とにかく家族がまた一緒に暮らせればいいのであって、女が浮気してもまあしょうがないな、と誰もが許せそうなケースですね。 あれを許せない男は刑務所にいたほうがいいでしょう。
家族ドラマといえなくもないですが、僕はこの映画はラブストーリーだと理解しました。子供たちと親子の関係を強調するのではなく、夫と妻の関係がまず第一にあって、その後に子供たちの存在があり、夫婦の愛が自然な形で家族愛につながっている情景がそこにありました。夫婦って、家族っていいなあ、と思わせる珍しい映画です。
コメント
この映画大好きです。
いとおしい映画。
「6才のボクが大人に・・・」の方は、
長く撮り続けたことをやたら
ピックアップされて、高評価だったけど、
こっちもたいしたモンなのになー、
って思ってました。
両方素敵な映画ですよね。