主人公が願いを叶えてくれるお薬を注入した結果、とんでもない代償を払うことになるブラックユーモア漫画のような物語。どこかで聞いたことがあるような設定や要素が多々含まれているものの、その中にオリジナリティーが感じられる作品です。60点
サブスタンスのあらすじ
かつて名声を誇ったものの今では落ちぶれたハリウッド映画スター、エリザベス・スパークル50歳は、長年続いていたエアロビクス番組からプロデューサーのハーヴィーによって年齢を理由に突然解雇される。
動揺したエリザベスは、自分の看板が撤去される様子に気を取られて車を衝突させてしまう。病院で、若い看護師がこっそりと「ザ・サブスタンス」という名のブラックマーケットの製品を宣伝するUSBメモリを彼女に渡す。それは「より若く、美しく、完璧な自分」を約束する血清だった。
興味と絶望に駆られたエリザベスは、ザ・サブスタンスを注文し、一度きりのアクティベーター血清を注射する。彼女の体はけいれんし、背中に切れ目が現れ、そこから若い自分「スー」が生まれた。2つの体は必ず7日ごとに意識を交代しなければならず、非活動時の体は無意識状態で、週に一度の食料供給で点滴によって栄養が与えられる。スーを劣化から守るためには、元の体から抽出される安定化液を毎日注射する必要があった。
スーはエリザベスの代役として番組のオーディションを受け、一夜にしてスターとなる。やがてハーヴィーから大晦日の特別番組の司会を任されるまでになる。一方でスーが自信に満ちた享楽的な生活を送る中、エリザベスは自分を憎み引きこもりになっていく。
ある週の切り替え間近、スーはパーティーを楽しんで男性を家に連れ込み、切り替えを遅らせるために安定化液を余分に抽出する。これにより、エリザベスの右手の人差し指が突然老化する。エリザベスは供給元に連絡し、切り替えプログラムを守らないと元の体が急速に不可逆的な老化を遂げると警告される。
同じ意識を共有しながらも、エリザベスとスーは別々の存在として互いを嫌悪し始める。スーのスケジュール無視による老化に苦しむエリザベスと、自己嫌悪と暴食に溺れるエリザベスを軽蔑するスーの間に緊張が高まる。やがてスーはザ・サブスタンスのルールを破り安定化液を溜め込み、切り替えを拒否する。
3か月後、大晦日の特別番組の前日、スーは安定化液を使い果たし、供給元に連絡する。彼女は切り替えが必要だと言われ、切り替え後、エリザベスは年老いたモンスターに変わっていることに気づく。スーによるさらなる老化を防ぐため、エリザベスはスーを終わらせるための血清を注文する。しかし、スーの名声に対する憧れから完全に注射を終えられず、スーを蘇生させ、2人とも意識を取り戻す。スーを終わらせようとしたエリザベスの意図を知ったスーは彼女を殺害し、大晦日の特番を務めに向かうが、、、、、
サブスタンスのキャスト
- デミ・ムーア
- マーガレット・クアリー
- デニス・クエイド
サブスタンスの感想と評価
「REVENGE リベンジ」のコラリー・ファルジャ監督によるSFホラーブラックコメディー。年老いたかつてのハリウッドスターが美貌と若さを取り戻すために禁断の薬に手を出す様子をつづったシュールな映画でアカデミー賞ノミネート作品です。
物語は、年齢を理由に芸能界で居場所を失った往年の女性スターが、ベイビードライバー「より若く、美しく、完璧な自分」を求めて、使ってはいけないお薬に手を出すところから本題に入っていきます。最初こそ薬のおかげで栄光を手にするものの、ラストは薬の副作用によってバッドエンドを迎えるというのはあらすじだけでも分かるでしょう。そういう意味ではお約束通りの話なんだけど、そこにグロさとユーモアと社会風刺などが散りばめられていてエンタメ映画としてなかなか面白くできていました。
音や音楽の使い方が特徴的で若干「ベイビードライバー」みたいな編集の仕方がされているので好き嫌いが分かれそうです。僕は「ベイビードライバー」は嫌いだけど、この映画は特に嫌悪感を覚えませんでしたね。
おそらくASMRをかなり意識して作っていて、ヘッドホン、または映画館の大音量で聞くとゾクッとした感覚が味わえます。それに加えてスタイリッシュな映像とデミ・ムーアとマーガレット・クアリーの体当たりの演技がうまくミックスされて近代の童話的なストーリーになっていました。
デミ・ムーアとマーガレット・クアリーの出演シーンなんて大部分は全裸だからね。でも裸こそが一番年齢や外見の美しさが比較できる絶好のコントラストだから必要性があるし、不思議と色気はないんですよね。それにしてもデミ・ムーア、60歳過ぎてよくやるよ、本当に。これ主演女優賞、デミ・ムーアに勝てる人いる?
デニス・クエイドのキャラもいいですね。食べ方汚いところとか、大げさなしゃべり方するところとか嫌悪感を煽りまくってて好きです。
禁断のお薬ザ・サブスタンスは、寓話でいうところの欲張って身を滅ぼすという教訓にぴったりの題材で、それを知りつつ整形手術にはまったり、ボトックス注射がやめられなかったりするハリウッドや社会におけるルッキズムに対する風刺や皮肉なのかなあとも考えられました。あるいはドラッグそのものによって快楽や満足感を得た後にゾンビ化していく昨今の人々ともかぶります。
ザ・サブスタンスを注入すると、自分自身の肉体が若返るのではなく、背中から脱皮をするようにもう一人の若い自分が出て来ます。その発想が面白くて笑っちゃいました。そして若い自分が活動している間、年寄りの自分は抜け殻となってただ床に倒れている絵も滑稽で可笑しかったです。
二人の自分は一心同体のはずなんだけど、途中から別々の意思を持つようになり、やがて対立するというストーリー展開になっていて、どこまでこのぶっ飛んだ話に付き合えるかがポイントとなりそうです。
注射シーンがやたら多いので針が苦手な人にとっては不快なものになるでしょう。それ以外にも切ったり、殴ったり、臓器が出てきたりといったグロいシーンが多くて気持ち悪かったです。 それでも楽しく見れちゃうのは監督の腕でしょうね。ただ、終盤になるにつれてエンディングを迎え損ねる箇所が多々あって、最後は引っ張りすぎた感がありました。
実際はエンディングから40分前にはすでにオチがついてるんですよね。そこからはもうオチがついた後のおまけのようなシーンの連続で破壊、または破滅に向かっていく過程はモロAKIRAでしたね。
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