トランプが権力を掴んでいくにつれてどんどん調子に乗っていく様子がものすごく人間的で、なんだかとっても惹かれてしまう作品。特に何が起こるわけでもないのにずっと見ていられる心温まらないヒューマンドラマです。64点
アプレンティス・ドナルド・トランプの創り方のあらすじ
1973年、若きドナルド・トランプは、ニューヨーク市の高級レストランで、ロゼンバーグ事件の起訴で知られる凄腕弁護士のロイ・コーンに出会う。そのときトランプと彼の父で不動産で成功していたフレッド・トランプは、アフリカ系アメリカ人テナントに対する差別をめぐって連邦政府から目をつけられていた。そのことをコーンに話し、ぜひコーンに弁護を担当してくれるようにトランプは頼み込む。
するとコーンはトランプの熱意と行動力を買って仕事を引き受けることにする。コーンは検事を脅迫して和解に導き、人種差別の証拠があるにもかかわらず、わずかな罰金で済ませることに成功。トランプは喜び、コーンを自分の師と崇めるようになる。コーンはトランプに、服装やメディア対応のテクニックを教え、「常に攻撃する、間違いを決して認めない、たとえ負けても勝利を主張する」という3つのルールを教え込んだ。
トランプはコーンのパーティーに出席し、コーンの同性愛を目撃する。やがてトランプはミッドタウンの廃れたコモドール・ホテルを買い取ってハイアットに改築したいと考える。しかし多くの投資家はなかなか首を振らなかった。そこでトランプはニューヨーク市長が税金の控除をしてくれるとはったりをかます。このときもコーンが役人に対して脅迫テープを使って、1億6000万ドルの税控除を獲得したのだった。
トランプは父フレッドの許可を得ずにどんどん事業を進めていった。コーンを味方にした彼は鬼に金棒だった。まもなくしてトランプタワーを開発すると、父の小さな業績を軽視するようになっていった。プライベートではトランプはチェコ人モデルのイヴァナ・ゼルニチェコヴァと出会い、根気よく彼女にアプローチし、やがて結婚にまでたどり着く。しかしトランプはイヴァナが自分の仕事に口を出すことや強い影響力を持ち出したことで彼女に嫌悪感を抱くようになる。
トランプタワー建設を実現したことでメディアはトランプを大成功した実業家として扱うようになっていた。コーンは労働組合や福祉を批判し、アメリカ精神の擁護者として自らを位置づける。レーガン時代、トランプは外国に軽んじられるアメリカを強くする必要があると主張した。トランプは、レーガンのスローガン「アメリカを再び偉大に」に強い共感を抱いた。
大成功したトランプはすっかり自信家になりコーンの助言を聞かなくなっていった。そのせいもあってアトランティックシティのトランプ・タージ・マハルなど、無謀な不動産開発に手を染めて損失を被ることになる。そしてかつて師と仰いでいたコーンとの仲まで険悪になっていくのだった。
アプレンティス・ドナルド・トランプの創り方のキャスト
- セバスチャン・スタン
- ジェレミー・ストロング
- マーティン・ドノヴァン
- マリア・バカローヴァ
アプレンティス・ドナルド・トランプの創り方の感想と評価
「ボーダー 二つの世界」、「聖地には蜘蛛が巣を張る」のアリ・アッバシ監督によるドナルド・トランプの半生を描いたバイオグラフィー。トランプと彼の師匠ともいえるロイ・コーンとの師弟関係を描いた人間ドラマで、トランプがいかに度胸とはったりと交渉力で成り上がってきたかが分かる興味深い作品です。
時は1973年、トランプがまだ27歳だった頃のニューヨーク。セレブ御用達のレストランに行ったトランプはそこで敏腕弁護士のロイ・コーンと運命的な出会いを果たします。彼がかの有名なローゼンバーグ事件の裁判でローゼンバーグ夫婦を追い詰めた検事だったことを知ると、トランプはロイ・コーンに自分を弁護をしてくれるように頼みます。それをきっかけに二人は親子のような師弟関係になっていくものの、やがてトランプはビジネスで成功し権力を得ていくとそんなロイ・コーンにまで背を向けるようになる、というのがあらすじです。
決して美しい義理人情の物語ではなく、いわば裏切りと恩を仇で返す薄情者の話なんだけど、いかにも権力大好きアメリカ人的なリアリティーがあっていいですね。トランプが主人公なのにトランプを美化していないところにもすごく好感が持てます。それは監督がイラン人だからなんでしょうか。アメリカ人が撮ってたら聖人みたいな描かれ方してたかもしれませんよ。
序盤からすっと物語に引き込まれていってはセバスチャン・スタン扮するトランプが本物に見えてくるから不思議でした。彼の演技がいいから物語に引き込まれるのか、それとも物語が面白いから彼の演技がリアルに見えるのかどっちなのでしょう。どっちともいえそうですね。さらにロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロングもいい仕事をしていましたね。どちらかというと彼のほうが主役級の怪演だったと思います。イケイケの頃から病気になって弱っていくあの変化を上手に表現できるのすごいね。二人ともアカデミー賞にノミネートされそう。
ほぼほぼストーリーはトランプか、それともロイ・コーンかのどっちかというぐらい二人だけでかき回している感があって、トランプの家族のことやそれ以外のエピソードが薄く感じるぐらいロイ・コーンがぶっ飛んでました。裁判に勝つためなら手段は選ばず、相手のプライベートな問題を餌にして脅迫しまくるという悪徳弁護士ぶりが笑えます。あれが通用してたのは時代性もあったんでしょうね。
また、ゴリゴリの体育会系かつ男性優位主義者なのに実はゲイというのも面白いですね。あるいは自分がゲイであることを隠すためにああいうキャラを演じていたのか、なんならホモフォビックな発言もガンガンするし、そこにアイデンティティの問題を抱える人間の孤独や悲しさが見えるようで一層彼に惹かれました。
トランプはトランプで、ほら吹きだったり、差別的だったり、手の平を返すこともあって性格はいけすけないんだけど、貪欲でパワフルだし、自信家だし、やっぱり魅力的だなあと思いました。自信家なのに体型だったり、薄毛を気にしてるところとか可愛いいじゃないですか。
ワンマン社長にああいうタイプ多いですよね。自分を大きく見せることが大好きで、とにかく少しでも自分に有利に交渉を成立させることにエクスタシーを感じるみたいな人。個人的には関わりたくないけど、端から見てる分には面白いし、なにより頼もしさがありますよね。
そうやってビジネスの交渉の場で切った張ったの大勝負をしてきた人が政治家になったらそりゃあやっぱり強いよ。いきなりキレたり、冷酷になったかと思ったら、急に優しくなったり飴と鞭の使い分けがすごいし、ああいう人間と付き合ったら絶対に振り回されることになりそうです。
日本人が愛する謙虚とか、尊敬とか、協調とかとは無縁の世界で生きてる男。そしてずっと不動産業界で滅茶苦茶やってきた男が大統領にまで上り詰めることができるんだからやっぱりアメリカはすごい国ですよね。もし最近の日本の首相の伝記ドラマを撮ったとしても絶対こんな面白い話にならないもんね。
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