題材、出演者などポテンシャルは十分なのにうまく素材を生かし切れていない邦画。監督のセンス、実力不足ですね。41点
ある男のあらすじ
里枝は前の夫と離婚したことをきっかけに実家に戻り、息子を一人で育てていた。そんな中、寡黙な男、大祐と出会う。大祐は老舗の温泉旅館の息子ということだったが、なぜか田舎に来て林業に携わり、一人で趣味の絵を描くなどしてひっそりと暮らしていた。彼は過去のことを多くは語りたがらなかった。
里枝と大祐は、里枝が働く文房具屋で知り合い、意気投合し、やがて結ばれた。二人の間には娘も生まれ、里枝の連れ子と幸せな4人家族を築いた。順風満帆だった家族の生活がある日、突然もろくも崩れていった。大祐が仕事中の事故で、木の下敷きになって死亡したのだ。里枝は未亡人になってしまった。
葬儀の際、大祐の兄がやってきて線香をあげようとしたとき、大祐の写真が違うことに気づく。そう、里枝の夫だった男は大祐になりすましていた別人だったのだ。里枝は、自分が愛した男が言った誰だったのかを知るために、かつて離婚したときに世話になった弁護士の城戸に大祐の身元調査を依頼した。すると、予想だにしない事実が発覚するのだった。
ある男のキャスト
- 妻夫木聡
- 安藤サクラ
- 窪田正孝
- 清野菜名
- 眞島秀和
- 小籔千豊
- 真木よう子
ある男の感想と評価
読者のらすこさんのリクエストです。ありがとうございます。
「愚行録」、「蜜蜂と遠雷」の石川慶監督によるヒューマンミステリー。戸籍を変えて他人になりすました男たちをつづった人間ドラマで、同名小説の映画化です。
序盤はものすごく惹きつけられるものの、本題に入ってから無駄なシーンが増え、どんどんテンポが悪くなり、リアリティーを失っていく惜しい作品。いろいろともったいないです。
安藤サクラをはじめ、出演者の演技はいいです。息子を病気で失ったシングルマザーが治療方法を巡って夫と対立したことで離婚し、田舎でもう一人の息子を一人で育てるという設定はなかなか自然で、そんなところにひょっこり現れた男と男女の関係になり、再婚するという流れも素晴らしかったです。
物語が本題に入るのは、再婚相手の大祐が事故死したことがきっかけで実は彼は大祐じゃなく別人だった、ということが発覚してからです。じゃあ私が愛してた男は一体誰なんだよ?といった苦悩を抱えるヒロイン安藤サクラをその後も楽しめるのかと思いきや、そこから突然視点が妻夫木聡扮する弁護士の視点に代わります。これが本作の最大の失敗点です。
どう考えても、視聴者はそれまでに里枝と大祐、そして二人の子供たち家族に感情移入しているわけで、彼らのことがもっと知りたい、彼らが亡くなった父親の正体がわからない状況でどんな心境に陥るのかに興味が向いているのに、なんでそこに特に関係性のない弁護士が登場し、主役の座を奪うんだよって。
「愛したはずの夫は全くの別人でした」
これこそがこの映画の最大のポイントなのに、なんで弁護士がしゃしゃり出るんだよ。弁護士が在日韓国人で、彼もまた国籍を変えたり、名前を変えたりして生きてきたから、戸籍を変えて他人になりすます人の気持ちが理解できるみたいな背景はまじでいらないです。もしそれを持ってくるんだったらサラッと紹介する程度で、あんなにしつこくアピールする必要ないんですよ。
それに大祐の身元調査の仕事があまりにも大がかりで時間と手間がかかりすぎて、一体この仕事に里枝はいくら支払ったんだよ、そんな金あいつにあるのかよとまで心配してしまいました。あのぐらいのステータスのある弁護士があんなにがっつり働いたら報酬はまあ高額になるでしょう。その辺りから現実味をかなり失ってるんですよ。それに弁護士の仕事というより、もはや探偵の仕事の域じゃない?
一つ引っかかったのは、里枝の夫は殺人犯の息子だから別人の戸籍を手に入れたいのは理解できるとしても、温泉旅館の息子が戸籍まで変える必要が全くないんですよ。家族と縁を切りたいなら家を出て行って連絡しなければいいだけなんだから。なんでそんな無意味な犯罪を犯してまでリスキーな絶縁をする必要があるよ?
それに里枝は夫と再婚する際に家族に挨拶しに行かなかったのかよ。
「結婚するならちゃんと家族に挨拶に行かないとね」
「いいよ、いいよ、うちはそんなタイプじゃないから」
「あら、そうなの」
こんな感じでやるべきことすっ飛ばしてたとしたら、ああ見えて結構いい加減な女になってしまうし、いろいろと辻褄が合わなくなるでしょうよ。
評価できるポイントは、里枝が自分から大祐にキスしに行ったくだりですかね。あそこはなかなかアグレッシブで、地味な見かけによらず、欲求を抑えきれなくなったシングルマザーっぽくてよかったですよ。
全体的には別人になりすまして生きる人々っていうテーマ自体は面白いんだけど、ちょっと詰めが甘いなあ。日本特有の戸籍というシステムをうまく題材に入れたようで、逆にそれがプロットに穴をあけていましたね。
ラストもちょっと謎を残して終わったりして、なんか嫌らしいですよね。だから弁護士のお前の人生はどうでもいいんだって。なんでそこを膨らませようとするんだよ。妻夫木のパートはあれの半分でいいよ。それにあいつの嫁、真木よう子にするんだったらもっとぶっ飛んだ女にしないと。エアガンで夫を撃ちまくるとか。不倫の下りまじいらねえから。
コメント
こんにちは。本作、私は好きな作品なんですが、「劇中での視点の切り替え」はあまり効果的ではなかったと思います。
仰るように、中盤の城戸の話が長くて、中弛みが目立っていました。ずっと主人公の里枝の視点で行って事件が解明される流れが良かったように思います。
これ、小説なら「第◯章」と分けて視点を切り替えることはできますが、映像化して繋げると難しい所ですね。
ほんと、ずっと里枝の視点で見たかったです
最初はサスペンス要素と里枝との想いの交差が面白く、映画男さん、私これ面白いかもです!って思っていたんですがw途中からサスペンスの要素が無くなって、惜しいという意味がよく分かりました。
原作にはあった原と谷口が入れ替わる経緯の説明がばっさり切られてるんですよね。
だからか、ただの城戸が他人の人生を生きることに想いを馳せちゃう無難なヒューマンドラマに着地しちゃいましたね。
邦画っぽいまとめ方だなあという感じでした。
あのボリュームの原作をバランスよく2時間にまとめるってなかなかの力量がいるんじゃないでしょうかねー。
序盤はよかったんですけどねえ