サスペンスあり、ドラマあり、適度なストレスありの上質な会話劇。これは映画祭で賞を獲って当然のクオリティーです。75点
落下の解剖学のあらすじ
グルノーブル近くの孤立した山小屋で、小説家のサンドラ・ヴォイターはインタビューアーの学生と話していた。その最中、夫のサミュエルが屋上で爆音で音楽を聴き始める。サンドラは仕方なくまた今度取材を受けることを提案し、インタビューアーは帰っていった。
その後、サンドラとサミュエルの盲目の11歳の息子、ダニエルは、ガイド犬と一緒に散歩に出かけて行った。しかしダニエルが散歩から帰宅すると、サミュエルが家の前に血を流して倒れているところに遭遇する。彼はすでに死亡していた。
サンドラが驚いて降りてきて警察に通報。警察は事故として処理せず真っ先にサンドラを疑ったのだった。サンドラは仕方なく古い友人であり弁護士のヴィンセント・レンジを呼び、自分は彼を殺害していないと弁護を依頼する。
サンドラはサミュエルが6か月前にアスピリンを過剰摂取しようとしたこと、抗うつ薬を中止した後だったことをヴィンセントに伝えた。一方でヴィンセントはサンドラの腕に痣があることに気づいた。彼女はそれはカウンターにぶつかったことによるものだと説明したが、どうもしっくりこなかった。
検察はサンドラが彼を鈍器で殴打し、3階のバルコニーから突き落としたと主張した。対するサンドラは夫は自殺したと主張するも決定的な証拠がないまま裁判で不利な状況に立たされる。そんな中、盲目のダニエルがついに証言台に立つことになったのだった。
落下の解剖学のキャスト
- ザンドラ・ヒュラー
- スワン・アルロー
- ミロ・マシャド・グラネール
- アントワーヌ・レナルツ
- サミュエル・タイス
- ジェニー・ベス
落下の解剖学の感想と評価
読者のひよこさんのリクエストです。ありがとうございます。
ジュスティーヌ・トリエ監督による、夫の突然死をめぐって妻が殺人罪で起訴されるフランス産大人の裁判ドラマ。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品です。
「事件」を映像を中心に見せていくのではなく、弁護士と被告人の会話、検察と被告人のバトルを通じてじわじわと全貌を浮き彫りにしていく手法が斬新で見ごたえがありました。
それだけ脚本と演技が完成されているのと、シチュエーションや設定も面白いです。周囲に何もない孤立した雪山。被害者を最初に見つけたのは盲目の息子。容疑者の妻はフランス語が母国語ではなく英語のネイティブで、フランス語に強い誇りを持つフランスの裁判ではそれだけでも不利だし、文化や習慣の違いもあって印象も悪い。そんな中で果たして妻は無罪を勝ち取れるのか、というのが物語の見所となっています。
さらに物語が進んでいくにつれ、あれ待てよ、そもそも本当に妻は白なのか?という疑問まで生じてきます。一番そう感じるのは両親のトラブルのはざまで揺れる盲目の息子で、彼の複雑な心境を通じて視聴者まで妻を有罪にするべきか、無罪にするべきか迷ってしまうような臨場感がありました。ここまで入り込める裁判劇は久しぶりですね。
クライマックスが二つあって夫婦喧嘩のシーンと息子の最後の証言のシーンですね。前者は熱い山場で後者は静かながら裁判の判決を左右するほどの重要な場面になっていました。どちらも見事な出来栄えでした。
妻が黒か白かっていうシンプルな見方もできるんだけど、同時に妻は夫を愛していたのかどうか、またそれを証明することは可能なのかっていうのも裁判の裏テーマになっているような気配があって、夫婦愛や夫婦関係の難しさが伝わってきます。二人にしか分からないことだらけの関係をどうやって陪審員に伝えるよっていう話なんだよね。
判決に関しては、ネタバレになるから言わないでおくけど、逆の結果だったほうが面白いっちゃあ面白ろかったんですけどね。最後の最後で新事実が明かされて、ぞっとする終わり方にしてもよかったかもしれませんね。ただ、そういういかにもなサプライズをしないのがフランス映画だともいえるんですけどね。
間違いなく良作なんだけど、強いて文句をつけるとすればちょっと長いかなあ。上映時間は2時間半ぐらい。それもフランス映画のテンポで進むのでそれ以上に感じてもおかしくないです。もっとじゃんじゃん話を進ませて2時間で締めくくればなおよかったです。あれ、このシーン必要かな?ってシーンもちらほらありました。裁判が終わってもまだ結構続くし、幕を閉じるベストなタイミングを若干逃してしまった感もあります。
あと、ヒロインと弁護士の危なっかしい関係性はいりますかね。もう今にもキスしちゃいそうな距離感で二人が話す、じらしの演出いりますか?
コメント
評論、拝読しました。
ありがとうございます。
確かに最後、スパッと終わらないというか…メインコースが終わったのにカメラだけが回り続けているようなシーン、ありましたね。あれ、私は個人的に、うーん…なるほどーと唸らされました。フランス映画の「エスプリ」という名の後味でしょうか?(笑)
やはりアカデミーにノミネートされていますが…果たしてアメリカの審査員にも受けるのでしょうか…?
主演のスーザン・ヒュラーに主演女優賞を受賞してほしい。あとは脚本賞かな。
Killers… も候補に入っていますが、何か受賞できるのかは微妙ですね。
後味が続く映画でしたねえ。アカデミー賞行けそうな気がしますね
ラストのダニエルの台詞が静かなどんでん返しに思えました
私も同じ意見です(以下ネタバレ)
・息子が親の口論を聞いた場所疑惑があった
・その決定的な瞬間?の直前のシーンがあった=息子は目撃していた
・このため最後の最後で迷ったが、付き添いのアドバイスで方向を決めた
・なのでラストでお母さんが帰ってくるのが「怖かった」
日本だと「ミステリー」みたいに宣伝されていますが、正直「裁判劇」としては面白いけど、警察や検察の主張が状況証拠ですらない推論ばかりなので、ヒロインが有罪か無罪か?という疑問は殆ど湧かなかった。
そういわれてみれば直接的証拠なかったですね
ただの犯人探しのサスペンスではないその一つ上を行く、かなりリアリティのあるドラマでした。
けれど最後まで観ても、妻犯人説も絶対無いとは言い切れないところがサスペンスとしてもちゃんと面白かったです。
確かにちょっと長くて、くどい感じでしたね。
あの夫婦げんかのリアリティさw
結婚生活が長い人なら、十二分に理解できるんじゃないかなと思います。
こういう映画ってハリウッドにはなかなかないから、やっぱりフランス映画すごいなって思いますね
本当にそう思います。
地味なのに濃厚なこの感じは絶対にハリウッドでは出せない味ですよね。
長いし、テンポが悪い。夫婦げんかのシーンにおける夫の不満は、自分を見てるようで共感しかない。
ダニエルの証言で、父親とのくだりは彼の創作なんじゃなかろうか?
それが彼が、決めた事なのではないかと。
良い映画でしたね。ただやっぱりちょっと長かったです。ワンちゃんが可愛かった。
テンポの遅さはフランス映画って感じでしたね