果たして人に値段をつけることができるのかどうか、という問題を911の被害者遺族を通じて考えさせられる、ちょっといい話。地味だけど無駄がなく面白いです。68点
ワース命の値段のあらすじ
2011年9月弁護士のケネス・ファインバーグはコンビア大学で教鞭をとっていた。ところが9月11日に同時多発テロが発生、多くの犠牲者を生んだ。
アメリカ政府は犠牲者に補償を支払うためすぐ様基金を設立した。そうすることで犠牲者が航空会社などを相手に民事訴訟を起こすのを回避する目的があった。ケネスはこれの責任者に任命された。しかし補償金の額を決めるのは命に値段をつけることと同じで容易ではなかった。愛する家族を亡くしたばかりの遺族たちはただでさえ深い悲しみの中にいるのに、そんなときにお金の話をするのは反感を呼ぶのだった。
ケネスに課せられたのは遺族の80%を説得し、サインさせること。さもなければ集団訴訟を起こされ、航空会社が倒産し、甚大な経済的ダメージを受けることになる。期限は2003年12月22日にまで。果たしてケネスは遺族を説得させることができるのか。
ワース命の値段のキャスト
- マイケル・キートン
- スタンリー・トゥッチ
- エイミー・ライアン
- テイト・ドノヴァン
- タリア・バルサム
- ローラ・ベナンティ
ワース命の値段の感想と評価
サラ・コランジェロ監督による、911の裏で起きていたアメリカ政府と遺族によるドロドロ法律バトルをつづった社会派ドラマ。弁護士ケネス・ファインバーグが書いたノンフィクション本の実写化です。
簡単に説明すれば、911後にアメリカ政府が遺族に補償金を払って集団訴訟を回避しようとしたところ遺族たちが「お前らの基準で命に値段をつけるな馬鹿野郎」と怒り出してしまい、それを弁護士たちがなだめるストーリーです。
それをリアリティー溢れる脚本と安定の演技で見せていて、これまでの911映画とはまた違ったジャンル、アングルでのアプローチに成功しています。
アクションなし、バイオレンスなし、色気なし、それでも話にどんどん引き込まれる良質な人間ドラマに仕上がっていて見ごたえがありました。
主演のマイケル・キートン、よかったですねえ。彼は優しい役がぴったりですね。どこか「マイ・ライフ」を彷彿とさせる演技でした。
アメリカ政府がテロ被害者遺族に補償金を出していたことについては考えたことがありませんでした。でもその理由が集団訴訟を起こされたら困るから先手を打っておこう、というなんともアメリカ的な発想で善意というより、コスパを考えた結果だというのが興味深いです。
もしそうしないと、政府やら航空会社やらが次から次へと訴えられて敗訴すれば経済ダメージが計り知れないからです。だから訴えられる前にいくらかのお金をあげて口封じをしようというのです。
ただ、いかんせん自分の愛する家族を失ったばかりの遺族たちからすると、このタイミングでお金の話をされるのはしゃくに触るわけですよね。「あなたの旦那さんの補償金は100万円です」なんて言われたら、「うちの旦那の命にはそれしか価値がないの?」ってなるのが普通なわけで、それが1000万円だろうと、1億円だろうと納得するのは難しいでしょう。
そしてそんな難しい交渉を引き受けたのが敏腕弁護士のケネス・ファインバーグで、本作は彼目線で話が進んでいきます。
ケネスは至って冷静に客観的に物事を見て独断で補償額を決める基準を設けて遺族に対応しようとしますが、どうしてもうまくいきません。それもそのはずどんな基準を設けようと遺族それぞれに背景、事情があって誰も納得なんかしないからです。
ある意味汚れ仕事を引き受けた男のつらい立場を描いた作品といってもいいでしょう。嫌われ者を買って出てしまったばかりに、人々から憎まれ口を叩かれ、政府からは圧力をかけられ、社員たちからはひどい上司だと思われる、という可哀想な男。それでも遺族たちがなにももらえないよりは、いくらかのまとまったお金をもらったほうがいい、と信じて奮闘する彼の姿に同情するのは難しくなかったです。
似たような話を日本航空123便墜落事故についての本でも読んだことがあります。確か日本でも学歴とか年齢とかをもとに生涯賃金を換算して補償金を決められるんじゃなかったっけな。それがある意味スタンダードなのかもしれませんね。
でもそうすると必ず遺族は「じゃあ高卒の息子の命は、大卒のほかの人の命よりも軽いってことですね?」ってなるわけで、結局のところどんな値段になってもフェアにはならないんですよね。
でもアメリカ政府はまだ補償に関しては大分まともなほうでしょう。国よっては全くもらえないか、もらえても数百ドルとか微々たるものという国も少なくないでしょう。
それならいくらでももらえるならありがたいし、助かるよね。遺族のその後の生活だってあるんだから。でも家族を亡くしたばかりで感情的になると、その辺も冷静に考えられなくなるんでしょうね。中には逆上して「お金なんていらねえよ、この野郎」と断る人もいたみたいです。
また、同性愛者のパートナーはもらえるのかどうか、という問題が浮上したり、被害者に愛人と隠し子がいたりするケースでは、遺族に補償金が均等に分配されるシステムだから奥さんに愛人の存在がバレたりと色々大変みたいですね。
そういう様々なドロドロの人間模様をお金を通じて浮き彫りにする、という手法は見事でしたね。お金って一番人間性が出るからね。
コメント
これは劇場で見損ねたー。
まあまず面白いだろうな観たいなと思ってました。
マイケルキートンがまあバードマンで鼻吹っ飛ばしてたくせにこんないい映画に出ちゃって、いやー、観ますよこれは。
シビアな命とお金がテーマですがフワリと感動をさそういい作品でしたね。
きっとお金が支払われる事に関してはなんだかんだ誰も異論はないと思うのです。ただ、そこにどれだけ敬意があるか。
見えないものだけに難しいですね。
最初は完全にビジネス思考だったケンが、家族に寄り添う感情的な思考になっていく様子がマイケルキートンの抑えた演技で表現されていて、想いとは裏腹に上手く進んでいなかい苦悩がよく伝わりました。
結局ケンだけでは結果が出ずにウルフが後押しをして成功する、というのも実話なだけにリアリティがありましたね。
お金が絡むと人間ややこしくなる、というのを上手く表現していましたね
こんにちは、大分前ですが、本作を観ました。
本作の911当時の様子、とても怖かったです。すごく衝撃的な事が起きると、感情が吹っ飛んで思考が停止してしまうのが伝わりました。(ソニーのウォークマン、時代を感じました。)
確かに計算しなければ補償金額は出ない、でも計算式よりも人の心にどれだけ寄り添えるか、地道で確実なものが大きな意味を持つことがあることを教えてくれた作品だと思います。一方で、「救えなかった」人もいたのがリアルでした。
日本だとやはり航空機事故や災害でこういう問題が起こるだろうと考えてしまいます。本作を観たことで、「当事者意識」を持つきっかけになったかもしれません。
実際、JAL墜落事故のときも同じように補償金の話で揉めたそうですよ。