大事なのはお金じゃないんだ、夢なんだよっていう人たちが協力して競走馬を育てていく嘘っぽい話。最後のオチにずっこけること間違いなしです。37点
ドリーム・ホースのあらすじ
ウェールズ南部の田舎町でバーテンダーやスーパーのレジといった複数の仕事を掛け持ちして慎ましく暮らすジャンは今の生活に物足りなさを感じていた。夫は無職で両親は高齢で介護を必要としていて彼女は日々のやるべきことをこなすことで精いっぱいだった。
そんなある日、職場のバーに客としてやってきたハワードがかつて競走馬を所有していた話で盛り上がっていた。その話を盗み聞きした彼女は突然自分にも競走馬を育てられるのではないかと考える。
もちろん全くのド素人の彼女には資金もノウハウもなかった。そこで地元の支援者たちを集めて出資を募り、経験のあるハワードの協力を受けてかつてサラブレッドの馬を一頭買うことにするが、、、
ドリーム・ホースのキャスト
- トニ・コレット
- ダミアン・ルイス
- オーウェン・ティール
- ジョアンナ・ペイジ
- ニコラス・ファレル
ドリーム・ホースの感想と評価
ユーロス・リン監督による競走馬サクセスストーリー。素人の女性が思いつきで馬を育て、大きなレースで優勝するまでの軌跡を描いた実話ベースの話です。
よくあるイギリスの素朴で地味なほのぼコメディで、メインキャラクターたちはもれなくおじちゃんおばちゃん、またはお爺ちゃんお祖母ちゃんです。そういう意味では若い人向けというより、中年の視聴者をターゲットにしている感じですね。
雰囲気はどこかイギリス映画「フル・モンティ」と似ています。爆笑するほどじゃないけど、細かな笑いを多く散りばめていて、クスクス笑うことはできるんじゃないでしょうか。
とにかくテンポが良く、地味さを展開の速さでカバーしようとしているようなところがあり、ヒロインが繁殖牝馬を買うことを思いついてからドリーム・アライアンスと呼ばれるようになる子供が生まれるまでものの30分ぐらいです。
そのため細かい部分はかなり省略していて見ていて引っかかる場面は少なくありませんでした。まず競走馬を育てよう、という素人の思いつきを実現させるまでの流れがかなりいい加減でしたね。
地元の出資者を集めるところまではいいんだけど、実際リターンはどれくらいなのかなどの説明が欠けていて、それぞれの出資者が善意でお金を出したみたいな感じになっているのには違和感を感じました。
金持ちの道楽としてやるっていうのならまだしも出資者の多くが普通の労働者たちで質素な人たちばかりという設定になっていたのでなおさらもっとお金にシビアなはずですよね。
それと共同オーナーとしてドリーム・アライアンスを所有しているはずなのに結局のところはヒロインの感情論で全ての決断が下されるみたいな流れも「あれあれ?」と思いました。
とんとん拍子に最高の調教師が見つかったり、レースに出れるようになったり、もっとその過程を描かないとダメですね。見ている感覚だと練習もなしでぶつけ本番でレースに出たら勝てちゃいましたぐらいの感じなんですよ。
そして気づいたときには動物愛に舵を取っていくのには唖然としました。ヒロインはなによりもドリーム・アライアンスの体のこと、健康のこと、幸せのことを考えているんだそうです。もう馬というより家族、いや自分の息子のような感じなんだそうです。そんな偽善的な描写が増えていき薄ぺっらいストーリーに成り下がっていくのが残念でした。
ちょっと待てと。そもそも競馬なんていう競技は馬に鞭打って無理やり走らせるのを見世物にして賭けの対象にする、という人間のエゴの上に成り立っているのに、そこに動物愛とか感動とか持ってくんなよって。本当に馬のこと考えてるなら自然に帰してやれよ。なにが「この子は走るために生まれてきたんだ」だよ。あいつらのそういう都合の良い解釈とエセ感動ドラマ演出がこの映画を見事に台無しにした感がありますね。
こういう話はむしろ安い投資額で競走馬を買って一儲けしてやろうぜっていう強欲な人たちの話でいいんですよ。それなのになに意義とか、大義名分とか、セカンドチャンスとか訳の分からないことを言い出すんだよって。
散々ドリーム・アライアンスのためだなんだ言ってた奴らが、生死を分ける怪我をしてせっかく回復した馬にまた過酷なレースに出場させるってすごいなって思いましたね。どんな正当化の仕方だよ。
この映画の最大のオチはラストのテロップですね。
「ドリーム・アライアンスはキャリアを通じて13万7000ポンドの賞金を獲得しました。それによって出資者はそれぞれ1430ポンドの配当を受けました」
出資者多すぎて取り分少なっ。あんだけ大騒ぎして1430ポンド?伝統ある大きな大会で優勝してる馬なのに生涯13万7000ポンドしか稼げないって。スケール小さっ。なにがドリーム・アライアンスだよ、全然夢ないじゃん。
コメント
こんばんは。本作、評判は良いですよね。ウェールズの情景や俳優のコメディカルな演技はとても印象に残りましたが、彼らの考えについては結構モヤリました。
ジャンもハワードも、自分達の問題を馬にすり替えているように見えてしまうのです。ジャンは大きくなったドリームアライアンスの世話は厩舎に任せっきりなのに、「マジモンの教育ママ」になって、「私達の手柄!」と大きな顔をしているし、ハワードはギャンブル依存が治らないのに、これが成功したら家族と仲直りできると思っているように見えました。
ドリームアライアンスは所謂「経済・産業動物」です。彼らの安楽死に対する考え方なら、「人間の気持ちひとつで一生を左右されるもんだ。馬の気持ちが完璧にわかったら、俺ら気がおかしくなるかもしれん。」と人間のエゴを認めている漫画『銀の匙 Silver Spoon』(第1巻参照)の方が、余程誠実性があるように思いました。
ちなみに、実際のドリームアライアンスは今年の4月末に22歳で死去したそうです。
ドリームアライアンス死んじゃったんですね。ほんと馬にむらがる奴らにモヤモヤさせられました