大人の女性向けの芸術路線フランス映画。中絶をめぐりどれだけヒロインが地獄を見るかを、ものすごいリアリティーと共に描いた良作です。66点
映画「あのこと」のあらすじ
1960年代のフランス。大学の寮に住みながら文学を専攻しているアンヌはある日、自分が妊娠していることに気づく。相手は行きずりの男性で恋人ですらなかった。
アンヌは勉強を続けたかったため今は子供を産むことはどうしてもできなかった。しかし中絶な重罪で、どの産婦人科医に相談しても門前払いされてしまう。それそのはず中絶に関わった者は刑務所送りにされてしまうからだ。
こうしてアンヌは仕方なく一人で中絶する方法を模索していくのだった。
映画「あのこと」のキャスト
- アナマリア・ヴァルトロメイ
- ケイシー・モッテ・クライン
- ルアナ・バイラミ
- ルイーズ・オリー=ディケロ
- ルイーズ・シュビヨット
映画「あのこと」の感想と評価
オドレイ・ディワン監督による、法律で禁止されている状況下での中絶をテーマにした人間ドラマ。ヴェネチア国際映画際金獅子賞受賞作品です。
中絶映画といえば、最近では「17歳の瞳」が思い浮かびます。ちょっと前の作品だと「4ヶ月、3週間と2日」がありますね。本作はそれらの作品とかなり共通していて、舞台がフランスの1960年代に移っただけと言えなくもないです。
中絶が法律で禁止されていた時代、という意味では「4ヶ月、3週間と2日」と被るところが多く、闇医者を探して四苦八苦する様子を描くという面でも、特別な新しさはありません。
ストーリーを簡単に説明すると、女子大生が妊娠する>医者に行って中絶を断られる>手あたり次第助けてくれそうな人にあたる>闇医者で中絶手術をする、というものでストーリー性はそれほどないですね。
しかし不思議とそんなストーリーでもほかの作品とどんなに似ていても、これはこれで作品として質が高いことに変わりなく、それなりに見ごたえがありました。ヒロイン目線で進んでいくカメラワークやリアルな演出のおかげで特に女性が見たら自分事のように考えてしまう臨場感があるんじゃないでしょうか。
物語は、大学生のアンヌが妊娠し、中絶したい意思を友人、医師、相手の男などに相談するも全員から総スカンを食らい、自分一人で奮闘する姿を描いていきます。
誰も助けてくれないのは、中絶を手助けしても重罪に問われるからで、子供おろすことは絶対的にタブーである雰囲気が伝わってきます。
そんな時代を生きる女性はどうやって自分の人生と向き合っていくのかが一つの見どころで、諦めて産まないといけないのか。刑務所に送られることになるのか。あるいは自分の命すらも危険に冒さないといけないのか、といった究極の選択を迫られる様子が手に汗握ります。
僕の住むブラジルでも中絶は法律で全面的に禁止されてるので、望まない妊娠をした女性たちは闇医者で子供をおろすようです。なので今現在もこのヒロインのように助けを求めてさまよってる人々は世界中にいるわけで時代設定は昔でも現在にも通じる話になっていますね。
そういう意味では女性として生きることの大変さ、理不尽さを女性監督が女性目線で描いた映画という感じになっていて視聴者を選ぶ作品といえるかもしれません。もちろん男が見てもいいんだけど、女性と同じような感覚で見ることはできないでしょうね。
結局、ヒロインは自分自身で中絶を試みたり、闇医者にお願いしたりするんですが、その様子もこれでもかというほど見せていくのが特徴で、主演女優の体の張り方もすごいし、中絶シーンの痛々しさといったらないです。まず邦画では作れないレベルものだし、あそこまで見せるからこそのリアリティーがあってどのシーンにも必要性を感じます。
ヒロインが困惑しすぎて、なにがしたいのか分からなくなるところも若干あるものの、それはそれで様々な思いが駆け巡る中での迷走シーンなのかなとも思いました。中絶前に知り合いの男とやっちゃうくだりとか、妊娠させられた男のところに行って喧嘩して帰って来るところとか、激情型なんですね。まあだからこそ衝動に駆られて子供作っちゃったんだろうけど。
中絶が禁止というだけでなく、婚前交渉もあまりよく思われていない時代のようで、女子大生たちはやりたいんだけど実際やってしまうのはとても恥ずかしいこと、という葛藤があるのも興味深かったです。世界を代表するエロい国フランスにもそんな時代があったんですね。
ひとつ注意しておくと見ていて楽しい映画ではないです。それよりもヒロインの悩み、苦しみを一緒になって感じるタイプの痛み共有映画で、それを理解したうえでお金を払って見たほうがいいかもしれませんね。もちろん考えさせられるものはあるんだけど、「あー面白かった」とはならないからね。
コメント
中絶のシーンはいくつかの作品で似たような描写を見ているので特に驚きはなかったのですが、やっぱり痛みが想像出来るだけに何度見ても辛いですね。
とにかく早く堕ろす、が最大の目的となり、後の身体の事や自分の命さえも顧みる余裕がないところが見ていて苦しかったです。
ヒロイン役の女優さん、『ヴィオレッタ』の子なんですね。子役の頃から難役をこなしていてすごい!
中絶のシーンは男の自分にとっても痛くて怖かったです