モラルの欠片もないドクターによる、おぞましい事件をつづった衝撃の記録映画。街で有名なドクターが不妊治療で生まれた多くの子供たちの父親だった、というアンビリバボーな話です。69点
我々の父親のあらすじ
家で簡単にできるDNAテストが流行したのをきっかけにジャコバ・バラードはさっそく自分のルーツを調べるべくテストをしてみた。彼女は母親から自分は精子ドナーで人工授精して生まれた子供であることを聞かされていた。
DNAテストをするときジェコバはもしかすると自分には一人か二人兄弟や従兄がいるのではないかと期待した。ところが結果を見てジェコバは自分の目を信じられなかった。なんと7人の親戚がいることが分かったのだ。
母親から同じドナーの精子は3人以上には使われないと説明を受けていたからジェコバは驚いた。やがて彼女はテストの結果に出てきた親戚たちとコンタクトを取り、ルーツをたどると自分の父親が母親に人口受精を施したドクター・ドナルド・クラインであることを突き止める。そう、ドクター・ドナルド・クラインは患者に嘘をつき、自分自身の精子を提供していたのだった。
我々の父親のキャスト
- ジェコバ・バラード
- デビー・ピアース
- ジャン・ショア
- ロバート・クローバー
我々の父親の感想と評価
ルーシー・ジュルダン監督による、気持ち悪くて恐ろしいリアルホラードキュメンタリー。不妊治療専門医が患者に内緒で自分の精子を提供し、何十人もの女性に自分の子供を産ませていた、というショッキングな話です。
実際の音声と再現VTRを上手にミックスした記録映画で誰が俳優で、誰が実際の人が分からなくなるぐらい精巧にできています。作り方もさることながらテーマがぶっ飛びすぎてて、すぐに話に引き込まれました。
1970年代から80年代、不妊治療の権威として有名だったドクター・ドナルド・クラインは子供を作れない夫を持つ女性患者たちには若いインターンの医師たちの精子だからと説明し、本当は自分の精子を注入していたそうです。
患者の夫の中には健康な精子を持つ人もいます。そんな人たちはクリニックで自分の精子を人口受精のために提供します。にも関わらず、ドクター・ドナルドは夫の精子と言いながら毎回自分の精子を女性患者に受精させていたのです。
当時はドクター・ドナルド本人もまさか将来的に自宅で誰もが簡単にDNAテストができるようになるなんて思ってもいなかったのでしょう。ドナーの情報を守秘義務とかいって渡さなければ事実が明るみに出ることはないと踏んだはずです。
しかし医学、テクノロジーの発展により悪徳医師の暴挙が公になります。そのきっかけとなったのが人一倍好奇心が強く、勇敢な女性ジェコバがDNAテストを受けたときで彼女は予想以上に自分に多くの親戚がいたことからなにかがおかしいと思ってリサーチを進めていったのです。
そしてドクター・ドナルドが自分の父親だと分かったとき吐き気を覚え、ほかにも大勢の被害者がいることを知ると、メディアにコンタクトに取り、ドクター・ドナルドを起訴するために動きだしたのです。
本来ならこんな酷いことが公になったら速攻医師が逮捕されそうなものですが、そうはいきませんでした。医師が自分の精子を許可なく患者に提供することが犯罪である、という法律が当時なかったからです。女性からしたら性的暴行でしかないこの行為を罰する法律がないんだそうです。
また、ドクター・ドナルドは地元では権威なだけあって彼を支持する人々が大勢いて判事まで彼に味方をするという、アメリカ司法の無能ぶりを発揮します。もうどんだけ腐ってるんだよっていう話で開いた口が塞がりませんでした。
ある日、自分が変態ドクターの子供だと知ったら、どんな気持ちになるんでしょうか。今まで本当の父親だと思っていた人が全くの赤の他人で、実の父親は頭のおかしいドクター・ドナルドだったなんて悪夢でしかないですよね。
それもドクター・ドナルドを否定することはすなわち自分の存在も否定することにつながるので、誰もがアイデンティティクライシスに陥ることは想像に難しくないでしょう。
皮肉なのはドクター・ドナルドの精子の受精率の高さですよね。わかっている限り90人以上いるんだって。下手したら数百人ぐらいいそうですね。人口受精とはいえ精子強すぎだろ。
それに実際子供ができず長年悩み苦しんでいた女性患者に子どもを授けたのは間違いないんですよ。まだ不妊治療がそれほど確立されていない70年代、80年代からじゃんじゃん人口受精を成功させていたってある意味すごいですよね。もしかしたらほかの精子ドナーだったら無理だったかもしれないと考えると複雑です。
だからこそドクター自身は罪悪感に欠け、まるで人助けをしたかのような態度なのです。これで医師だっていうんだからほんとやばいね。それもドクター・ドナルドだけじゃなくて、ほかにもアメリカでは同じことをしてた奴がいるそうですね。日本にも探せばいるかもしれませんね、こういうことやっている奴。
事実が明るみになったのが果たしてよかったのかどうかももはや分からないです。だって加害者が罪にも問われていないし、被害者は誰も幸せになってないんだから。使命感からかジェコバは死ぬまで戦い続けるとか言ってるけど、それが果たして彼女の幸せにつながるのでしょうか。
こういうのを見ると、安易な気持ちでDNAテストなんて受けるもんじゃないなあって思いました。安易な気持ちで子供に人工授精で生まれたとか知らせるべきじゃないのかもしれませんね。ほんと知らぬが仏です。
コメント
こんにちは。本作、Twitterにて偶々知りましたが、ゾッとしました。これって、本物の父親からすれば「托卵」ですけど、ある意味「托精?」と言うのでしょうか?「世にも奇妙〜」のようなブラックフィクションにはありそうな話ですが、実際に聞くと気持ち悪さしかないですね。
ぞっとする話ですねえ
本当ですね。時間があれば、見てみようと思います。
淀川長治だったら「さぁみなさん、この映画コワイ・コワイ・コワイですね〜」「でもあのドクター、なかなかいい男なんですね」!って、絶対言うだろうな。
いいそう
私は不妊治療をして子供を産んでいるのもあり、とてもとても胸糞でした。
他にも同じ事をしていた医者がいたのも驚きです。
おそらく、自分が命を創造している、と神にでもなったつもりだったんでしょうね。
ひどい奴がいるもんですねえ