最初の15分はつまらないけど、そこから徐々に衝撃的な話になっていく実話。ドキュメンタリーだけどアニメ。アニメだけどドキュメンタリーという斬新な作品です。58点
FLEEフリーのあらすじ
アフガニスタンで兄弟たちに囲まれて生まれ育ったアミンは戦争に巻き込まれ、家族でロシアに逃亡する。しかし彼らはロシアで不法滞在者となり、警察に捕まれば再びアフガニスタンに連れ戻されることを恐れる日々を送っていた。
そんな状況を抜け出すにはロシアの人身売買組織にお金を払って欧州諸国に亡命するしか方法はなかった。
家族全員を欧州に密入国させるだけのお金がなかったため最初に二人の姉だけが、長男のいるスウェーデンに行くことにした。しかし彼女たちはコンテイナーに何日も閉じ込められ、あわや命を落とすところだった。
続いてアミンと次男、そして母親が欧州を目指し、船で密入国を試みた。ところが途中船が遭難し、アミンたちはエストニアの警察よって逮捕されてしまう。彼らはエストニアの施設で収容され、あろうことか再びロシアに連れもどされてしまうのだった。
FLEEフリーのキャスト
- アミン・ナワビ
- ベラル・ファイズ
- サディア・ファイズ
FLEEフリーの感想と評価
ヨナス・ポヘール・ラスムセン監督による2022年アカデミー賞ノミネート作品であり、アニメとドキュメンタリーを融合させた実録サバイバルドラマ。アフガニスタン難民の青年の半生をインタビューと回想シーンでまとめた映画です。
なんでわざわざアニメにしたのかなあ、というとプライバシーや安全上の問題があるからなんですね。また、回想シーンを再現するのにも実写じゃないほうが製作しやすかったんでしょう。
ただ、ドキュメンタリー形式なのにアニメーションという新しい試みもあり、最初はなかなか話に頭に入ってきませんでした。
特に監督と主人公アミンの対話の部分が話の流れを度々止めてしまうのが気になりますね。本題に入るために最初の15分ぐらい、話が行ったり来たりするのも構成的に問題だし、あれなら別にインタビュー形式じゃなくて、時系列順でストーリーを語るのでもよかったかなあとも思いました。
絵には力を入れておらず、よくある雑な外国アニメといった感じです。動きはカクカクだし、アニメ映画として見たら、なんだこりゃっていうレベルですね。つまりストーリー重視の作品で、逆にストーリーだけでも十分に語る価値があります。
ストーリーは、アフガニスタンで生まれたアミンがどのような少年時代を送り、どのようにロシアに逃げてきたのか。そしてそこからさらにどうやって欧州に密入国したのか、ということを詳しく描いていきます。
アミンの家族は様々な事情からバラバラになってしまう不幸な運命をたどります。まず、アミンの父親はアフガニスタン政府に連行され、そのまま行方不明になり、続いてアフガニスタンで内戦が起こり、家族はロシアに逃亡。
しかしロシアはロシアで外国人に対する風当たりが強く、すぐに観光ビザが切れてしまった彼らは汚職まみれの警察のターゲットにされ、常に身の危険を感じたまま生きることを強いられます。
そんな中、二人の姉が先にスウェーデンに密入国を図り、コンテイナーに押し込まれて地獄の苦しみを味わいます。
続いてアミン、次男、母親も船で密入国を試みるも嵐に巻き込まれ、遭難し、エストニア警察に捕まってしまい、ロシアにまた強制送還されるのでした。そして今度はアミンだけが先にスウェーデンを目指し、別のルートで密入国し、ひょんなことからスウェーデンではなくノルウェーに入国するはめになる、というのが話の流れです。
見所は一連の密入国エピソードですね。LGBTの話だといった宣伝もされているようですが、アミンがたまたまゲイだったというだけで、特にそれは本題とは関係なかったかなあと思いました。アフガニスタンではゲイは”存在しない”らしく、タブー中のタブーらしいんですが、ただでさえ迫害されてきたアミンが性的指向によってさらに差別の対象となることをプラスアルファとして描きたかったのでしょうか。アミンが恋人と結婚するとかどうとかは別にどうでもいいかなぁ。
やっぱりメインは密入国ですよ。その密入国の方法が荒すぎて、とても生き延びれるやり方じゃないんですよ。まじか?としか言えないありえない越境をさせられる様子にはショックを受けました。
コンテイナーや船の床下に食料も水も与えられずに閉じ込まれ、何日もその中で過ごすって想像したら死人が出るって普通分かるじゃないですか。まるで虫けらのような扱いを受け、それでも生きるため、自由のためにリスクを冒さないといけないってやるせないですね。
もとはといえばロシア人が親切で、ロシアが住みやすかったら彼らは欧州への亡命を考えなかったでしょう。しかしソビエト連邦崩壊直後のロシアでは安全な生活を手に入れられず、特に腐りきったロシア警察の仕打ちを受けて彼らはとても生きていけないと思い、長男のいるスウェーデンを目指すのです。
本作で描かれているロシア人がまた冷酷無比な奴らばかりでウクライナ侵攻が始まったこのタイミングで見ると、ますますロシアのイメージが悪くなる内容になっています。映画のヴィランとしてはできすぎていました。
ロシア警察は外国人を見つけては不当に捕まえ、ビザが切れてるなどといちゃもんをつけて所持品を奪うのをまるでゲームのようにやっていたそうです。暴力も日常茶飯事。お金を持っていない外国人女性は他の方法で払ってもらうなどと言われ、警察による性的暴行を匂わすシーンまであり、虫唾が走りました。
ほんとにただアフガニスタンで生まれた、というだけでこれだけの苦しみや差別や理不尽な体験を強いられるのがなんとも悲しいですね。本作を通じて日本に生まれたきたことがどれだけ幸運か日本の視聴者は改めて気づくことになるでしょう。
コメント
映画男さんこんにちは。本作、私も気になってます。日本だと6月公開予定らしいです。
予告やレビューより、かなり重くて衝撃的な内容だと思いました。でも、世界にはまだ現在進行系で、本作のようなことが起こっていると思うと、一度観ておきたい作品だと思います。
確かに、アニメの技術では作画も劇伴も「良く言えばシンプル、悪く言えば原始的」ですね。ここに関してなら、日本のアニメの方がレベルは「高い」と思います。
しかし、テーマ性やメッセージは、確実に本作の方が日本のアニメより「上」だと感じました。正直、今の日本の現役のアニメ監督にこういう作品を創れる人はいないんじゃないかと感じます。※決してクリエーターさんやファンを下げるつもりはありません。私も日本のアニメで好きな作品はあるので。
例えば、近年の日本アニメ映画をみていると、小中高校生の「学園モノ」や「現実世界での異能力バトル」、「タイムスリップモノ・タイムリープモノ」、「現実から異世界への転生モノ」など、現実の延長上にフィクション世界を創る作品が量産されすぎて、もう「飽和状態」になっています。
結局、現代の日本のアニメで上記のような話が量産されるということは、悪く言えば日本が「平和ボケ」している証拠なんだと思いました。長文、大変失礼しました。
絵のクオリティーよりも、何を伝えるのかのほうが重要ですよね。
お返事ありがとうございます。そうですね、やはり作品のメッセージは大事だと思いますね。
映画男さん今晩は。本作を観ました。
とにかくこれでもかというくらい辛い場面が続くので、終始「緊張しっぱなし」になり、息が止まりそうになるくらい、観るのがキツかった作品でした。「辛い場面9割、幸せな場面1割」な作品なので、観終わってからも、感情をうまく整理できなかったです。
映画男さんの仰るように、今日本に生きる私達が如何に恵まれているか、世界の現状と併せて突きつけられました。
それでも、シンプル故に「見やすく」、またとにかくメッセージ性がとても強いので、心に突き刺さりました。
一方で「一本の映画」としてみると、「エンタメ性は弱い」ので、とっつきにくい点はあるかもしれません。また、構成についても、映画男さんが仰るように、「微妙」な点はありますね。「見やすい点」と、「見にくい点」が混在していたように思います。
正直、アフガニスタンの戦争や、ソ連の政策を知ってから観ると、また違った視点で観られるかもしれません。
日本での本作の上映館は、アニー賞効果があるとは言えど、ミニシアター中心に全国で約70館程度なのが本当に勿体ないです。内容には賛否両論あるとは思いますが、「忘れられない作品」であり、「観てよかった作品」だったので、是非色んな人に観てほしいと思いました。
ついに見たんですね。そんなに衝撃を受ける映画もなかなかないんじゃないでしょうか。
そうですね、大変衝撃的でした。
映画男さん、こんばんは!このFLEEは、気になっていたので、詳細ありがとうございます!
日本公開時は是非見に行こうと思っています!
アカデミー国際長編映画も、こちらが受賞(ドキュメントとW受賞)になり、あの日本の監督が肩すかしをくらうシナリオが見られたらいいのにな…なんて思う日々です。
まあ国際長編のみ受賞でも、「おくりびと」以来で日本初!の称号はもらえないですが、なぜかマスコミって評価に対する報道に差がある感じがして(芸能事務所に対する忖度?)「おくりびと」滝田監督、主演本木さんの現在の持ち上げ方よりも、濱口監督&主演は、異常に持ち上げそうな雰囲気があって悪寒がします。
アカデミー国際長編映画はこの作品が獲ってもおかしくないですね。そっちのほうがむしろ嬉しいdせう。
ご返事ありがとうございます!本当に、ご時世を考えてもFLEEには複数賞をとってほしいです!
ゲイが苦労する話なのかと思って観ねえと思ってたら、そんな話であったとは、これは必ず観ねば、と思います。