オブラードに包みすぎて、理不尽さややるせなさが消えてしまったインドネシアの駄作。突っ込みどころ満載です。35点
映画フォトコピーのあらすじ
ジャカルタで大学に通うスールは、マタハリ劇団に所属し、ウェブ担当として貢献していた。ある日、マタハリ劇団は演劇祭で優勝し、京都のコンクールの参加権を手にする。翌日、脚本家でお金持ちの学生のラマの家で打ち上げパーティーが行われることに。
スールは次の日に奨学金に関する大事な面談があったにも関わらず、パーティーに参加し、ついつい酔っぱらってしまい、朝方に帰宅する。ところがスールは自分がどうやって家に帰って来たのかすら覚えてないほどだった。
面談に行くと、パーティーで酔いつぶれている自分の姿の写真がSNSで出回っていることを教師たちから知らさせ、スールは奨学金を失ってしまう。
スールは写真を撮られたことも、泥酔したことも全く身に覚えがなかった。パーティーで自分の身に一体なにが起こったのか。心配になったスールは劇団員に事情を聞いて回り、真相を探っていく。
映画フォトコピーのキャスト
- シェニア・シナモン
- チッコ・クルニア
- ワンジェローム・クルニア
- ジュリオ・パレングアン
- ルテシャデア・パネンド
- ラルース・マリーニ
映画フォトコピーの感想と評価
レガス・バヌテジャ監督による、ネットフリックス製作のインドネシア映画。インドネシア版metoo運動的ストーリーで、女子大生がパーティー中に薬を盛られ、勝手に写真を撮られた事件を追うサスペンススリラーです。
話題になっていたんで見たんですが、結論から言うと面白くなかったです。その最大の理由は描写が雑でストーリーが今一つ社会問題に食い込めていないからです。インドネシアの規制のせいか性犯罪をオブラードに包んで描いているのもダメところですね。
物語はヒロインの女の子が劇団のパーティーで一気飲みをさせられ、いつの間にか気を失い、気が付くと自宅のベッドにいた、というところからスタートします。
パーティーの翌日、奨学金支給の是非を問う大事な面談があり、ヒロインはそこで自分の泥酔写真を見せられます。イスラム教徒が大部分を占めるインドネシア社会で飲酒はそもそも悪く見られており、ヒロインは奨学金を失います。
これに納得のいかなかったヒロインは誰が自分の写真を流出させたのか突き止めることに。ところがその過程でヒロインは、酒に薬を盛られ、自分の身にほかにももっとひどいことが起こったんじゃないのかと思うようになります。
そして劇団員のSNSや画像ファイルを覗いていくうちに恐ろしいことを突き止めるというのがストーリーの流れです。
このストーリーでまず真っ先に思い浮かぶのは、ヒロインは劇団員の誰かから性的暴行を加えられたんじゃないか、ということでしょう。
それを散々匂わせておいて、事件を捜査していった結果、実はパーティーの晩にヒロインは劇団員から雇われたタクシー運転手のおっさんに脱がされ、背中の写真を撮られていたことが判明するんですよ。
そしてその背中の写真が演劇のパネルに使われてたっていうのが事の真相なんです。ほかの生徒たちも同様の手口で腕の傷やタトゥーなどの写真を勝手に撮られていて、犯人はなんてひどいことをするんだ、みたいなノリになっていました。
確かに誰かに薬を盛って意識を失わせて裸の写真を撮ったらダメだよ。それは分かる。でもmetoo運動映画的にはこれじゃああまりにも薄すぎるんですよ。なんだよ、パネルで使うための写真って。インスピレーションを受けるため? 目的が真面目かよ。
そこは性的興奮のためでよくない? そこを芸術のためとか言われちゃうと、問題意識がブレるんですよ。
本当は犯人は写真を撮る以外のこともしているけど、あえて描かれていないっていう余白を残しているのも嫌なところです。問題提起するならストレートに描かないとダメだから。
インドネシア映画界の規制のために性描写ができないから、一連の描き方が背一杯の暴力描写だったのかもしれません。でもそこをオブラードに包むなら映画にする意味がないよね。
だって芸術写真を撮るためにわざわざあんなことするかっていう話だし、それなら最初から目的を説明してお金を払って、誰かに写真を撮らせてもらったらよくないか? わざわざ全裸にして写真を撮って、採用する写真が腕の傷だったりするからね。あとタトゥーの写真を採用しちゃったらすぐ犯人がバレちゃうじゃん。それはいいの?
なんならパネルの写真を撮るのに対象者は劇団員じゃなくてもいいよね。快く肌を見せてくれる人にお金払って撮ればいいじゃないですか。それをなんで金持ちの息子がわざわざ犯罪リスクを冒してまであんなことをしないといけないのかちょっと理解に苦しみました。
ヒロインは薬を盛られて意識を失っていたはずなのに、自分でセルフィーを撮ることはできるとか、色々辻褄が合わないところやサスペンス性を高めるために遠回りするエピソードもいらないです。
また、なぜかおっさんは被害者の写真を撮っている様子を携帯のカメラに収めていて重要な証拠を削除することもなくわざわざ保管しているのが笑えます。
極めつけは、蚊の駆除の薬を巻きながら登場してくる犯人グループです。なぜか金持ちの息子は上半身裸で舞台衣装を身にまとって、思い切りふざけながら登場するんですよ。
そして部下を何人も引き連れて、ヒロインたちの身体を押さえつけてやることが、処刑するわけでもなく、携帯を燃やすっていうね。だったら最初から証拠消しとけよ。あんなに大がかりに仕組んで突入してそれだけってアホなの?
全部比喩だなんだって言ったらそれまでなんだけど、全体的に絵的に弱いです。テーマ的には弱者が性犯罪にあって声をあげても権力者にかき消される、というところを描きたかったんでしょう。しかしそもそも性犯罪の描き方が緩く、そこで失敗しているのでヒロインに同情も抱けなければ犯人に凶悪性や残忍性を感じるのも難しかったです。
ラストはコピー機で印刷した証拠をキャンパス内で撒いて精一杯の講義をしたみたいなエンディングになっているんだけど、あんなに文字でびっしりの見にくい紙をばら巻いたところで誰も読まなくない? なんで急にアナログなのよ。
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