洞窟で遭難した人たちが生きて帰ってきたことがどれだけ奇跡的なことかが分かる記録映画。面白いです。80点
THE RESCUE・奇跡を起こした者たちのあらすじ
2018年6月23日、タイ・チエンラーイ県のタムルアン森林公園内にある洞窟内に地元のサッカーチームのメンバーであるコーチ1人と少年ら12人の計13人が入っていったが、大雨で大量の水が洞窟内に流れたため彼らは閉じ込められて、身動きが取れなくなってしまう。
救出のためにタイの海軍兵隊が派遣された。しかし海軍の兵隊にとっても洞窟を潜る経験は皆無だった。そこでケイブダイビングの経験豊富なイギリスの一般人ダイバーが集められ、救出ミッションが企てられた。
しかし少年たちがいるところは入口から何キロも離れた場所で視界も悪く、経験豊富なケイブダイバーをもってしてもかなり危険なミッションだった。それも彼らが行き来するだけならまだしも何キロも離れた洞窟内をダイビング経験のない少年たちが潜って泳ぐのは不可能に近い。
そんな中、ケイブダイバーのリックは少年たちに麻酔を打ち、意識を失わせた状態で水中から彼らを運び出す、という仰天の案を思いつく。医師と相談したら不可能だと一蹴されたが、やがてそれ以外にいい方法がないことに誰もが気づくのだった。
THE RESCUE・奇跡を起こした者たちのキャスト
- リック・スタントン
- リチャード・ハリス
- ジョン・ボランセン
- ジム・ウォーニー
THE RESCUE・奇跡を起こした者たちの感想と評価
「フリーソロ」のエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン監督によるタムルアン洞窟の遭難事故を取り上げたドキュメンタリー映画。事故現場当時の実際の映像と再現VTRと当事者のインタビューをまとめたハラハラドキドキ感動ストーリーです。
事故当時世界中で大々的に報じられていたので知らない人はほぼいないんじゃないでしょうか。しかし実際現場の様子はどうだったのか。どんな人たちが救出にあたっていたのか。そしてどんな方法で救出していたのか、ということまで知っている人、覚えている人はおそらく少ないはずです。
そんな視聴者に向けた、分かりやすくドラマチックな構成になっていて、最後まで見終わるまでに涙を流さずにはいられないヒューマニティー溢れる話に仕上がっています。
まず知らなかったのは、タイ人少年たちを実際に救出するにあたったのはイギリス人ダイバーを中心とした外国人グループだった、ということです。そもそもタイには海軍にすら洞窟を潜れる人がおらず、世界中にいる数少ないスペシャリストたちを集めてきたんだそうです。それぐらいケイブダイビング(洞窟潜水)自体がレアでマニアックだということですね。
素人からすると、スキューバーダイビングができれば洞窟内だって潜れるんじゃないの?って思っちゃいますが、全然別物のスポーツみたいですね。それもそのはず人が通れるか通れないかっていう狭い隙間をくぐっていくので、相当なメンタルトレーニングを積んでいないとまずパニックになるんだそうです。
ちなみに少年たちが遭難した同じ洞窟では実は大人たちによる別のグループも遭難していました。彼らの場合、入口から近かったためにすぐ救出できたんだけど、わずか数十秒酸素ボンベを使って潜っただけでもれなく全員パニックになったそうです。
透き通った水の海水を潜るならまだしも、真っ暗な洞窟の中で視界ほぼゼロの濁った水の中を潜るんだからパニックにならないほうがおかしいですよね。
それなら入口から数キロも離れたところにいる子供たちはどうなんだって話なわけで、普通に考えたらまず生きて帰れないわけなんです。
そこで救出チームのリーダー的存在であるリックは、起きてるからダメなわけで、麻酔を打って意識を飛ばしちゃえばいいんじゃない?といった仰天案を提案してきます。しかし医師からは意識がないまま水の中に潜らせたらまず死ぬよ、と言われ、断念しようとするんですが、ほかに方法がないので一か八かの賭けに出た、というのが救出ミッションの裏側だったんだそうです。
ダイバーの人たちは自分の命だって危険なのに、よその国の知らない子供たちの命を救うためにどれだけのリスクを背負ったかという話なんですよ。結果的に少年全員救出できたからいいものの、実は裏ではもしこの危険な賭けに失敗していたら世論から猛烈な批判を浴び、無謀なミッションを遂行した責任を問われてタイで刑務所送りにされる可能性もあったんだそうです。
仕事でやってるならまだしも全員ボランティアですよ。それぞれの国での仕事を放り投げてタイまでやってきて、自分の命を削って人助けしたら起訴されるってありえないですよね。それぐらいリスキーだったんでタイ政府はなかなかGOサインを出さなかったんだそうです。おそらく少年を助けることだけじゃなく上層部の人たちは色んな責任問題やエゴや面子と戦っていたんだろうというのが想像に難しくないですよね。
そんな中でミッションを遂行し、見事やり遂げたレスキュー隊員の方々には尊敬しかないです。人間レベルがまるで違います。彼らはすでに一生分の善行を果たしたと言ってもいいじゃないでしょうか。
面白いのがケイブダイバーたちはみんな気の弱そうで運動神経がそれほど良さそうじゃない内向的なタイプで、そんな性格から子供のときはよく虐められてたんだそうです。
だからこそ、競争力や負けん気の強さを求められるメジャーなチームスポーツよりも、自分自身との闘いであるマイナーなケイブダイビングに魅了されたのかもしれませんね。
そして一見、オタクっぽくて頼りなさそうな男たちの内に秘めた強さと勇敢さが素敵でしびれました。人生、どこでどんな才能が開花されて、人の役に立つか分からないもんですね。人間の可能性を感じさせてくれました。
仏教国タイならでは事故に対する向き合い方も興味深かったです。タムルアン洞窟にはもともと男性に強い恨みを持って亡くなった女性の伝説があって、地元の人達からはその女性が洞窟の女神のように恐れられているんだそうです。それに加えて信仰心の強い人々だけに事故があったときはとにかくお祈りして無事子供たちが帰ってくれるように仏様に頼んでいたようですね。
挙句の果てには有名なお坊さんまで現場に招聘したそうです。そのとき本当か嘘かお坊さんがこう言ったんだって。
子供たちは無事戻ってくる。その代わり二人の命が犠牲になるかもしれない。
実際は救出時、タイの元海軍兵士だった男性が死亡し、子供たちは全員無事救出されています。お坊さんの予言が的中したと言うべきなんでしょうか。それとも外れたと言うべきなんでしょうか。いずれにしても子供たちの家族からしたら、それこそ神様にだってなんだってすがりたい気持ちになるのは当然でしょう。
おそらくこれが日本で起きていたら海外からのダイバーを拒否し、自衛隊が救助にあたり、隊員になかなか命令を下せない上層部と首相がまごまごしているうちに全員死ぬんじゃないでしょうか。あるいはいざ無事子供たちを救出できたとしても今度は世論が一斉に子供たちを洞窟に連れて行ったサッカーチームのコーチを非難し、マスコミがネガティブ報道合戦を行う地獄絵図が浮かんできます。
コメント
カッコよかったですねえ
みんな正直に自己分析してて、クリケットが苦手だったとか言ってたのは笑えました。
意識を奪わなくても、少し教えて子供を信じたらできたんじゃないの?とは思ってしまいましたが…
やっぱりこういう良くできたドキュメンタリーを見ると、戦争とか極限状態を描いた創作ものはドキュメンタリーに敵わないような気もします。
フィクションはやはり良質なドキュメンタリーにはかなわないですね。
映画男さんのレビューを見て鑑賞し、とても面白く感動しました。
良いレビューありがとうございました。
事故から一年後、海軍特殊部隊の方が一名、活動当時に患った感染症で死亡したそうです。
僧侶の二名犠牲になるという予言が当たっているようで恐ろしい気持ちになりました、、
そんな後日談があったんですね。シャーマンの予知能力すごいですね。