ネットフリックスによる見ごたえ十分の殺人事件記録。事件の詳細を知ることで犯人、被害者像が浮かび上がり、またそれぞれに対してどう考えていいのか分からなくなっていきます。70点
エリーゼ・マツナガ殺人犯が抱える心の闇のあらすじ
エリーゼ・マツナガは食品メーカー「Yoki」の執行役員である夫マルコス・マツナガを殺害し、バラバラにした遺体を森に遺棄したとして服役し、2019年に仮釈放を受けた。7年ぶりに初めて塀の外に出てきた彼女を外では多くのレポーターと共に弁護士が待ち受けていた。
エリーゼは車に乗って仮釈放中に過ごすアパートに到着する。そしてカメラの前で重い口を開いた。それはエリーゼにとって会うことが許されなくなった娘に対するメッセージだった。
エリーゼは夫との出会い、結婚、結婚生活がうまくいかなくなった当時のことを振り返る。そして一体なぜ夫のことを殺害するに至ったのかを詳しく語るのだった。そこには衝撃の事実が隠されていた。
エリーゼ・マツナガ殺人犯が抱える心の闇のキャスト
- エリーゼ・マツナガ
- タイス・ヌネス
- フラビオ・ヴァレーラ
- ジュリアーナ・サントーロ
- ルシアーノ・サントーロ
エリーゼ・マツナガ殺人犯が抱える心の闇の感想と評価
エリーザ・カパイ監督による、2012年にブラジルで実際に起こった日系人殺害事件の女性犯人をインタビューしたショッキングなドキュメンタリー。「アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録」など実録ものが好きな人におすすめのミニシリーズです。
事件もののドキュメンタリーにも様々なタイプのものがありますが、同シリーズは仮釈放中の受刑者に密着取材したのはもちろんのこと、彼女の家族、弁護士、そして被害者側の家族、友人、弁護士、検察といった両サイドの人々の声を聞いて視聴者にジャッジをゆだねているのが特徴です。
なのでエリーゼ・マツナガを擁護する内容だと解釈することもできるし、やっぱり彼女は極悪人だと受け取ることもできそうです。
犯人がエリーゼだけに劇中に「エリーゼのために」を流すところとかも含めて編集や再現VTRの作り方にもセンスがあってお金もかけていますね。なにより仮釈放の瞬間からカメラがエリーゼを追うという計画を実行しているのがすごいです。エリーゼをはじめ、出演者たちはよく出演をOKしたよなぁ。
事件の発端は夫婦関係にあるので男女で意見も変わって来そうな話であるのと同時にブラジル社会、あるいは社会そのものを映し出す非常に興味深い事件といえそうです。
夫を殺して、遺体をビニール袋に入れて森に隠す、という部分だけを聞くと、まるでサイコパスかのように聞こえます。しかしそこに至るまでに夫の浮気、脅迫、暴力などがあったとエリーゼは言います。
そして浮気調査のために探偵を雇い、証拠を掴んだエリーゼは事件当日事実を突きつけたことで再び夫と口論になり、夫に罵倒され、顔を叩かれ、何をされるか分からない恐怖から家にあった銃を撃ってしまったのでした。
マルコス・マツナガは大のピストルマニアで、夫婦そろって狩を趣味としていただけに家にはそれこそ何十丁もの拳銃があったといいます。そんな二人が喧嘩になったらどうなるか。ある意味、予想がつくんですが、精神的に追い込まれたエリーゼはついに引き金を引いてしまったのです。
そこまでは痴情のもつれで起こった突発的な事件という気がしますね。しかしそこからエリーゼはあろうことか夫の遺体を切断してスーツケースに入れ、車を何時間も運転して森に捨てに行ったのでした。エリーゼは普段から狩をして動物を捌いていた経験があり、また看護師で死体の解剖を経験していた、というバッググランドがあり、これによって金目当ての冷酷な犯行だったんじゃないのか。計画的な犯行だったのではないのかといった説が生まれることになったのです。
殺害された男がブラジルでは誰もが知る食品メーカーの大金持ちの御曹司だったことからブラジルではたちまち大きなニュースとなり、犯人捜しが始まりました。エリーゼ本人が家族、友人などに夫を心配しているメールを送るなどして最初はとぼけていたようです。
しかし遺体が発見されたことでやがてエリーゼが疑われるようになり、アパートの監視カメラにスーツケースをいくつも持って家を出る彼女の姿が映っていたために逮捕につながりました。
同事件が「アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録」と違うのは犯人であるエリーゼを100%極悪だと言い切れないところです。もし保険金や遺産目当ての身勝手な犯行であれば完全にアウトですが、殺害前に心理的、肉体的虐待、脅迫を受けていた、という背景が本当にあったとすれば印象は大分違ってくるような気がします。
また、エリーゼは夫に精神病院に無理やり入院させられそうになったり、娘を奪われ、二度と会わせなくすると言われた、ということも口にしており、様々な方向から追い詰められていたそうです。
もちろんどこまで本人が言っていることが本当かは本人と被害者のみ知ることなので難しいところです。いずれにしてもエリーゼの話を聞いている限りでは極悪人やサイコパスといったイメージからはかけ離れた性格の持ち主であることが分かって、殺人犯になるのも、あるいは被害者になるのも紙一重なのかなぁ、とも思えました。
ただ、人間には表の顔と裏の顔があるのでカメラの前ではなんとでもいえるので、どっちなんでしょうね。
裁判はお互いの人格を否定し合う過去や行動をさらけ出すドロドロの戦いになり、その様子や実際の被告人および証人たちの証言VTRも流れます。それによると、エリーゼ・マツナガはかつて風俗嬢だったことがあり、夫のマルコスは客だったんだそうです。
一方マルコスは前の妻もまた風俗嬢で、なおかつエリーゼと結婚中に浮気していた相手も風俗嬢だったそうです。
果たしてこの情報が裁判に関係あるのかどうか。しかしお互いの印象を悪くするにはもってこいのエピソードでほじくればほじくるほど、エリーゼもマルコスもお互いに名誉が汚されていき、プライベートな部分をメディアにさらすことになるのでした。
こういう事件が起こる度に真っ先に思うのは、ただ離婚すればいいじゃんっていうことなんだけど、本人たちにはすんなり別れる選択ができなかったんでしょうね。まず一度離れてみて冷静になって弁護士を立てるなりして問題を解決していったらいいのにバカだねえ。
浮気の証拠を掴んだのならなおさら娘の親権を得ることなんて難しくないだろうし、もっとほかのやり方があったんじゃないかと悔やまれます。殺す必要なんてないのに。娘と離れるのが耐えられなかった、といってあんなことしたら余計に娘に会えなくなるじゃん。
それに加えて家に銃が置いてあるから殺そうと思えば簡単に殺せちゃうっていう環境がよくないですよね。
同シリーズが視聴者に問いかけているのは、もし事件が逆に転がっていたら世間はどう見たのだろうか、ということです。通常DV事件、またはそれによる殺人事件は被害者が女性、加害者が男性であることがほとんどで、もし加害者がマルコスで、被害者がエリーゼだったらこれほど事件は大きく騒がれたのか。もし男が犯人だったら実は自分がDVの「被害者だった」という弁明が成立したかどうか。
あるいは加害者も被害者も貧乏人だったらメディアは事件をそもそも大きく取り上げたでしょうか。なかなか考えさせられる話でしたね。これ、どう思います?
コメント
殺人事件記録もの大好きなのに、こちらは後回しになっていました。
アメリカン・マーダーは忘れられない残忍な事件でした…。
実録ではないですが実話を元に作られたザ・サーペント(旅行者ばかりを狙う酷い事件)を先に見てのめり込んでしまったので、エリーゼ・マツナガは後回しになってしまいました。
時間のあるときに楽しみに観たいと思います。
(楽しみというのもどうかと思いますが…こういうの好きなので…)
実録ものは面白いですよね