これを見たら、そんじょそこらのフィクション闘病ドラマが鼻くそに見えてくる渾身のドキュメンタリー。家族愛に飢えている人はぜひどうぞ。77点
ギフト僕がきみに残せるもののあらすじ
スティーブ・グリーソンはNFLニューオーリンズ・セインツの花形選手だった。体格は小柄ながら体を張って果敢に守る姿がファンに強烈な印象を与えた。そんな彼が引退後、34歳で難病のASLと診断される。ASLは発症すると、数年以内に亡くなることがほとんどだった。
そのタイミングでスティーブ・グリーソンの妻ミシェルが妊娠していることが分かる。スティーブ・グリーソンはまだ見ぬ自分の子供のために自分のことをビデオに残しておくことに決める。そうして彼は病気のこと、これまでの人生のこと、そしてこれから生きることについて子供に語りかけていくのだった。
ギフト僕がきみに残せるもののキャスト
- スティーブ・グリーソン
- ミシェル・ヴァリスコ
- ゲイル・グリーソン
- マイク・グリーソン
ギフト僕がきみに残せるものの感想と評価
クレイ・トゥイール監督による、元NFL選手で、若くしてASLを患ったスティーブ・グリーソンの闘病記録。自分の息子のためにスティーブ・グリーソン自身が撮りためた動画と家族、関係者によるインタビューを集めた感動のドキュメンタリーです。
NFLのトップ選手として長年活躍していたスティーブ・グリーソンが引退後、ある日突然体の不調を訴え、治療法が見つかっていないASLと診断されてからの大変な日々を赤裸々につづっていて、もがき苦しみながらも子供のため、家族のために生き続けようとする彼の姿に心打たれること間違いなしです。
ASLの認知と理解を深めるには最高の映像であると同時に、ドキュメンタリー映画としても被写体との距離感が近く、たちまち感情移入してしまう素晴らしい作品です。
闘病ものであることには違いありませんが、それだけに終わっておらず、スティーブ・グリーソンと父親の関係、そしてスティーブ・グリーソンと息子、妻との関係を描いたリアルな家族ドラマにも仕上がっていました。
ASLとは筋萎縮性側索硬化症のことで、体を動かすための筋肉が痩せていく病気です。筋肉そのものではなく、運動神経系が選択的に障害を受ける進行性の神経疾患として知られており、いまだ治療法は見つかっていません。「博士と彼女のセオリー」でも描かれたスティーヴン・ホーキング博士もASLを患って長年闘病しいた末、亡くなりましたね。
個人差もあるかと思いますが、スティーブ・グリーソンの場合、診断されてからわずか数か月で体がいうことを聞かなくなり、歩行すらも困難になっていきます。
そして奇しくもそのタイミングで奥さんのミシェルが妊娠していることが分かります。この夫婦がすごいのは病気だから、妊娠中だから安静にしていようと家にこもるのではなく、大切な時間を有効に使おうと、すぐに旅に出るところです。それもアラスカや氷河といった普段はなかなか行けない大自然の中に行くというのがすごいですね。
あの前向きな発想はものすごくアメリカ人的で、日本なら本人が望んでも周囲が猛反対するでしょう。「旅行中、なにかあったらどうするの?」とか絶対言う奴いるもんな。
でも今やらなかったらいつやるよっていう話で、さすが今を生きることに長けている人たちは困難を言い訳にせずにすぐに実行に移す方法を模索しますよね。
ちなみにスティーブ・グリーソンはかなり病状が進行してからもイタリアに旅行しに行ったり、マチュピチュを訪れたりしていて、多くの健康体な人々よりもはるかに行動力がありそうです。
徐々に自分の体が動かなくなり、やがて歩行できなくなり、ご飯も食べられなくなり、喋れなくなる。そんな状況にもし自分が陥ったらと思うと、怖すぎます。
スティーブ・グリーソン本人も最初はこの難病に打ち勝ちたい、むしろワクワクしているといった余裕すら見せますが、病状が悪化するに従い、弱音を吐き、絶望を口にしていくのが人間らしく、またASLの恐ろしさ、苦しさをリアルに伝えていました。
そんな彼の悲しみ、苦しみを一身に背負っている奥さんのミシェルは立派ですね。ヘルパーがいるとはいえほぼほぼ24時間、彼につきっきりですよ。愛以外のなにものでもないですよ。むしろ奥さんの心労のほうが心配になってきちゃうぐらいで、病気にならないか心配でした。
ミシェルのようなパートナーは理想だけど、たとえ私にはとても抱えきれないから離婚しましょうってなってもパートナーのことは決して責められないですよね。それぐらい大変なことだし、いつまで続くか分からない、終わりの見えない戦いをずっと続けてくって鋼の精神力がないと無理ですね。
もともとはこれから生まれてくる息子のためのビデオレターだったスティーブ・グリーソンの映像の数々もASLを世間に広めるため多大な貢献をしたでしょう。それだけじゃなくスティーブ・グリーソン自身がASL患者を支援する基金を立ち上げたのも使命感からでしょうか。
というのもASL患者の中ではスティーブ・グリーソンはかなり恵まれた治療やケアを受けられていて、これが貧困家庭だったら車いすや音声機器も買うことができないわけです。自分のことでも精一杯なはずなのにそこまで気が回るのがまずすごいし、本人も言ってた通り、他人の期待に応えるために頑張っちゃうヒーロー気質なんですね。
しかしスティーブ・グリーソンの活動がメディアに取り上げられ、講演会に呼ばれ、話題になるにつれ、プライバシーがなくなり、家族にさらに負担がかかるのはなんとも皮肉な話ですね。奥さん、もっとブチ切れていいと思うよ。
基本二人はいつも仲良しで、支え合っています。奥さんが不機嫌なシーンは一つだけでしたね。カットしたんだろうけど、できればもっと喧嘩のシーンを見たかったなあ。不満、不平が出て当然の状況だし。奥さんが私は聖人になんてなりたくない、自分自身でいたいって言っていたのが印象的でした。
奥さんが気を紛らわすために絵を描き始めるっていうくだりもいいですね。彼女は彼女なりに自分を癒そうとしていた、または治療しようとしたんですね。その方法が想像の世界であるアートだった、というのが面白いです。
この手の映画は大抵、エンディングのテロップで主人公は何年に亡くなりましたって出てきて終わるのがパターンです。しかしスティーブ・グリーソンは現在も生きていて、戦いは続いています。本編には出てこないけど、息子のリバース君だけではなく、そのあともう一人子供が生まれてるんですね。
ちなみに現在の彼と息子の姿はこちら。
とにかく家族愛が素敵すぎて、子供がいる人が見たら絶対泣くでしょう。リバース君とスティーブ・グリーソン、スティーブ・グリーソンと父親マイク・グリーソンのやり取りを見て、涙を堪えられる人なんていないんじゃないかな。いたら逆に知り合いたいわ。
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