不法移民を扱った上質のイタリア映画。一見スローな欧州映画と思いきや、無駄がなく、テンポが良く、すっと話の中に入っていける。
演出、ストーリーがすばらしく、また人間味溢れる優しい人々を描いているにもかかわらず、偽善的な感じがしないのがいい。久しぶりに見た、高得点をあげられる一本です。79点(100点満点)
映画海と大陸のあらすじ
20歳のフィリッポ(フィリッポ・プッチーロ)は、シチリア島よりさらに南の小さなリノーサ島で生まれ育った。父が2年前に他界したため、彼は70歳になる祖父(ミンモ・クティッキオ)と一緒に漁師として海に出ていた。先細りの漁業から早々に観光業にくら替えした叔父のニーノ(ジュゼッペ・フィオレッロ)は船を廃船にするよう勧めるが……。
シネマトゥディより
映画海と大陸の感想
エマヌエーレ・クリアレーゼ監督による上質のヒューマンドラマ。
ところどころに伏線がちりばめられていて、後々あのシーンはこのときのためのエピソードだったのかぁ、と感じられるのが見ていて楽しいです。
話と話がうまく途切れることなくつながっていて休ませない工夫がされているうえ、度々予想を裏切ってくれるのがいい。あのストーリーの構成力はちょっと恐ろしいですね。
この映画の登場人物たちは法律やモラルや人間性の狭間で葛藤に苦しみ、何が正義で何が悪かを判断しきれなくなります。それはこの映画を見ている視聴者もまた同じでしょう。
不法移民を扱った映画は山ほどありますが、「デザートフラワー」などの薄っぺらい映画とは大違いで、あの状況に立たされたとき自分ならどうするのか、ということを考えさせられ、友達と語り合える内容になっています。
不法移民を扱った映画が欧米に多いのは、それだけ不法移民の問題が身近にあり、また色々と考えさせられるきっかけになるからです。
その一方ですでに不法移民の問題を多く抱えながら、この手の映画が日本を代表する映画監督からほとんど扱われないのは異常で、その原因は彼らの国際性の欠如にありそうです。
僕は過去に不法滞在をしていたので、この手の映画には敏感に反応するくせがあります。
ブラジルの場合、この映画で描かれているようなイタリアの入国管理の厳しさとは無縁ですが、それでも「不法入国者なんて雇うわけにはいかない」などと職探しのときにきつい一言を言われたり、差別的な扱いを受けたことはあります。
当然と言えば当然ですが。その一方で僕が不法であることを気にもせず、仕事をくれ、助けてくれた人たちもいました。そんな人達のおかげで、なんとか今まで生き延びることができ、無事永住権までもらえることができました。
不法移民に対する人々の対応というのはその国の方針と国民性がもろに出ます。ブラジル政府の方針と国民が外から来た人に対して寛容だったのが自分には何よりの救いでした。
しかしこれが日本だったり、アメリカだったり、欧州だったりすると、話がかなり変わってきます。そしてこれだけ自分が色々な人に世話になりながらも、もし自分がこの映画の主人公と同じ立場に立たされたらどうするだろうか、と自問すると、やはり自分には不法移民を助けたり、かくまったりすることはできないだろうな、というのが正直な気持ちです。
溺れそうな不法移民が大勢自分のボートに一挙押し寄せてきたら、やはり棒で叩き落とすんじゃないかなぁ。無残で、冷酷で、つらいことだけど、あのシーンにこそ強く人間性を感じました。それにしてもあの島、不法移民あんなにわんさか来るのかよ。
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