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17歳の瞳に映る世界は10代の中絶をテーマにした力作!感想とネタバレ

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暗くて、つらくて、痛々しい物語。何度も見たくなる映画ではないけど、とんでもない才能溢れる監督、女優たちによる渾身の一本には違いないです。82点

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17歳の瞳に映る世界のあらすじ

17歳のオータムは家に居場所がなく、家族ともほとんど口を聞かなかった。学校にも友達がおらず、唯一友達らしい友達といえば従姉妹のスカイラーぐらいだった。

そんなある日、オータムは生理が止まり、妊娠しているのではないかと疑うようになる。クリニックに行ってテストをすると陽性反応が出て、エコーを撮ると10週間だと言われた。

この歳で母親になりたくなかったオータムは中絶を考えた。しかし中絶するにはペンシルベニア州ではどこのクリニックも両親の承諾が必要だった。

両親にだけは知られたくない。そう思った彼女はスカイラーと一緒にニューヨークにまで行くことにする。ニューヨークなら未成年でも自分の意思で中絶することが可能だからだ。ところがいざニューヨークに着くと二人は思わぬ出来事に遭遇する。

17歳の瞳に映る世界のキャスト

  • シドニー・フラニガン
  • タリア・ライダー
  • テオドール・ペルラン
  • ライアン・エッゴールド
  • シャロン・ヴァン・エッテン

17歳の瞳に映る世界の感想と評価

愛のように感じた」のエリザ・ヒットマン監督による、望まぬ妊娠をしてしまった10代の女の子が中絶手術をするためにニューヨークの街を彷徨う数日間を描いた衝撃作。

海外の評価がとても興味深く、意見はプロの批評家と一般視聴者の間で真っ二つに割れています。

このスコアが物語っているように大衆向けの映画ではなく、普段から商業映画しか見ていない人はやめておいたほうがいいかもしれません。

一方で国際映画祭向けの芸術路線の映画に慣れている人にはお宝作品といっても過言ではないほど上質の出来になっています。

素晴らしい演技力と脚本に支えられたリアリティーに溢れる話で、まるで自分がこれから中絶手術を受けるかのように緊張しっぱなしでした。

決して楽しい話ではないけど、終始無口で無表情なヒロインの苦悩がこれほどまでにストレートに伝わってくる映画も珍しく、画面に釘付けにされました。

高校生が中絶するだけのストーリーといってしまえばそれまでなんだけど、その心境、心理を見事に描写していて、このシンプルなプロットでよく一本の映画に仕上げたなあ、と感心してしまいました。テイストは違うものの同じく中絶をテーマにした名作「4ヶ月、3週間と2日」と重なるものがありますね。

ティーネイジャーをヒロインにした作品というと、「ストレンジ・フィーリング・アリスのエッチな青春白書」、「エイス・グレード」、「スウィート17モンスター」、「ブックスマート卒業前夜のパーティーデビュー」など最近はコメディものばかりでしたね。

それに対してこの映画は青春とは無縁の日々を送るヒロインにフォーカスしていて、冷めた目で家族や友達、そして自分の目の前で起きているハプニングを見つめる主人公がやけにリアルです。

ニューヨークの描き方にも好感が持てます。ニューヨークって映画の中で美化されすぎなんですよね。夢の街。華やかな街。エネルギーに満ち溢れた街。

それがこの映画ではニューヨーカーの冷たさや無関心さや暗さを忠実に描いていて、僕にはこっちのほうが好感が持てます。

道を尋ねれば「あっち」みたいな感じでスパッと会話を切ってくる駅員。電車の中で少女たちを見ながらズボンのジッパーを開け出す変質者。旅行者があれだけいながらエスカレーターのない階段ばかりで、スーツケースを小さな体で引きずり回さないといけないオータムとスカイラーを見ると、本当にしんどくなってきます。

中絶手術はすぐ終わると思っていたのに複数のクリニックをたらい回しにされ、手術も二日にかけて行われるため、ニューヨークに何泊もしなくてはならなくなく少女たち。日帰りのつもりだったのかお金もあまり持ってこなかったため二人はホテルにも泊まれません。駅のベンチやゲーセンなどで時間をやり過ごし、体力的にも精神的にも消耗していきます。

そんな二人の目に映るニューヨークはただ大勢の人々が忙しくすれ違っていく無機質な場所というだけで、街の景色をあえて綺麗に映さない、あの切り取り方がユニークだし、見事です。

お金がなくなった二人が最後の手段として選んだのは、バスの中で知り合った無邪気な少年ジャスパーを呼び出すことでした。

ジャスパーはスカイラーに興味があって、積極的にアプローチしていただけに利用するには最適でした。そこでスカイラーはご飯や酒を奢ってもらい、ボーリングやカラオケに行き、時間をつぶします。オータムは中絶手術の影響もあって食べ物も口にできず、もちろんお酒も飲めません。ただ、スカイラーとジャスパーがイチャイチャするのを横目にしんどい体を休ませるが精一杯でした。

スカイラーは挙句の果てに帰りのバス代を貸してくれとジャスパーにせがみます。下心を持つジャスパーはそれすらも快く承諾し、お金を貸してあげるんですが、あれ男目線で見たら本当ふざけんなよって話だからね。事情を知ってるならまだしも、いきなり呼び出されて、食べ物や飲み物を奢らされ、金を貸せってやってることやくざじゃないですか。

結局、ジャスパーはほとんどキスと引き換えにお金を貸したみたいな感じになっていましたね。あのシーンではジャスパーとスカイラーがキスしている最中にオータムが手を差し伸べて、スカイラーとコミュニケーションを取るのが印象的です。あれは「私のためにこんなことさせてごめんね」という合図だったんでしょうか。あのくだりも最高でしたね。

あのシーンしかり、オータムは本当にコミュニケーションが下手で、スカイラーにも結局最後まで「ありがとう」の一言すらなかったのが残念です。あの状況で一番大変なのは彼女自身だというのは分かります。でもせめて一言あるでしょ。僕がスカイラーなら途中でキレて帰ってますね。

原題の「Never Rarely Sometimes Always(一度も、稀に、ときどき、いつも)」はそれだけ見ると意味不明です。しかし実はストーリー上でとても重要なワードになっていました。

というのもクリニックで患者に答えづらい質問をするときに、これらの4つの中から選択問題のように答えてくれればいいよ、という気遣いから来るキーワードなのです。

そしてそのシーンこそがこの映画のクライマックスとも言え、あの場面で流したヒロインの涙が意味するものは何かということを視聴者は皆考えさせられることでしょう。

彼女は妊娠を望んでなかったどころか、性行為も望んでいなかったんじゃないのか。悪い男たちに利用された、あるいは強要された可能性まで示唆していましたね。もしかすると、義理の父親が相手である可能性すらあります。

そう考えると、彼女が家庭内で誰とも口を聞かなかったこと、まるで人生に希望を抱いていないかのよううな冷め切った態度を取っていること、親に内緒で中絶しなくてはならなかったこと、コミュニケーション能力が著しく欠けていることなどが一本の線につながります。

もちろんそれはただの一つの解釈にすぎませんが、わずかなヒントでたくさんのことを想像させてしまうところがこの映画の凄い部分でもあります。無駄がないとはこのことですね。

このタイトルは直訳でもいいからそのまま邦題に採用するべきでした。こんなに重要なタイトル、なかなかないぞ。

コメント

  1. mebon より:

    この作品と関係ないんですが、rotten tomatoで批評家と一般人の評価が異なる場合って、差別問題とかを題材にした映画のために批評家がつまらないと言いにくいのかなあと思いました。考えすぎですかね?

    • 映画男 より:

      単純に玄人向きの映画と一般向きの映画で好みが分かれるということだと思いますよ。ただ、差別ドラマや社会派ドラマは批評家に受けやすいというのも一理あるのかもしれませんね。

  2. mebon より:

    Amazon Primeで見れるようになってました。
    女性監督らしいというか、本当に2人の体験を同じ目線で映しているだけで、素人向けのわかりやすい説明全然なかったですね。家族構成のところ、最初ジュノみたいに義理の母なのかと思ってしまいました。
    ゲーセンのよくわからないニワトリとか映画に使うセンス、NYの象徴なのかわからないけど、最高ですね。
    英語のタイトルのシーンは良かったけど、日本語のタイトルも意外と悪くないというか、そのまんまだと思いました。

  3. high-low より:

    最近観ましたが、素晴らしい作品でした。主演の方はたいへんな熱演ですね。
    原題にも関わるカウンセリングの箇所は名シーンでしたね。語らないことでより多くを語らせる演出でした。
    映画男さんの仰るように現代そのままが良かったです。