認知症の老人と、彼を介護する娘のつらい日々をつづったフランスとイギリスの合作映画。一見、退屈そうで、あっという間に時間が過ぎていく良作です。68点
映画ファーザーのあらすじ
アンは、80歳の父アンソニーの認知症が日に日にひどくなっていくことを心配していた。介護士をつけてもアンソニーはすぐにトラブルを起こす始末だった。誰かを雇ってもすぐに辞めてしまい、またすぐに新しい人を雇わなければならなかった。
記憶力が低下しているだけではなく、被害妄想の傾向もあった。時計がないといって、ヘルパーやアンのことをまでを泥棒扱いした。アンやアンの夫の顔すら認識していないときも少なくなかった。
アンソニー自身、ときおり自分がどこにいるのかすら分からなくなる。自分のアパートだと思っていたその場所はアンのアパートだったり、他人がしている時計が自分の時計に見えたりもした。やがて何度も同じような場面が繰り返され、時間の感覚すら失っていくのだった。
映画ファーザーのキャスト
- アンソニー・ホプキンス
- オリヴィア・コールマン
- マーク・ゲイティス
- イモージェン・プーツ
- ルーファス・シーウェル
- オリヴィア・ウィリアムズ
映画ファーザーの感想と評価
認知症の老人が自分を見失っていく様子を描いたフローリアン・ゼレール監督によるデビュー作。2021年アカデミー賞男優賞(アンソニー・ホプキンス)受賞作品です。
ほとんど期待せずに見たら、期待を越えて来た、いい意味で驚かされた作品で、脚本、演出、編集、そしてなにより演技が素晴らしかったです。限られた少人数のキャストしか登場せず、またほぼほぼ同じ室内で物語が展開していきますが、それでも決して飽きないのが不思議でした。
アンソニー・ホプキンスとオリヴィア・コールマンの二人がアカデミー賞にノミネートしましたが、アンソニー・ホプキンス(受賞)の独壇場といってもいいでしょう。「2人のローマ教皇」のときも良かったけど、80歳を過ぎてあのパフォーマンスを維持しているってバケモンですね。
物語は、認知症をわずらうアンソニーが記憶を失いつつある中、娘の献身的な介護をよそに周囲に当たったり、わめたりしながら、もがき苦しんでいく様子を描きます。
認知症やアルツハイマーの映画は、「アリスのままで」、「ぼけますから、よろしくお願いします。」、「明日の記憶」などこれまでもたくさん製作されていますね。
そのいずれも重く、悲しい部分で共通しています。もう一つの共通点はどれも健常者目線で、記憶がなくなっていく病人を悲しげに見つめていくことじゃないでしょうか。
それに対し、本作が違うのは、あくまでも認知症のアンソニー目線で物語が進むという点です。そこに意外性と個性があって、作りがとても斬新になっていました。いわば認知症の人たちが普段どんな感覚で過ごしているのかを体験できる内容になっているのです。
それはただ記憶が薄れていく、といった単純なことではなく、娘の顔が別人になったり、家に知らない人がいたり、同じ時間が延々と繰り返されたり、気づいたら自分の居場所が変わっていたり、と実際に自分の身に起きたらぞっとするような出来事ばかりなのです。
そういう意味では認知症の介護ドラマにも関わらず、ホラーやスリラーのような恐ろしさが含まれてて、「これはきついなあ」という言葉から思わず口からこぼれてしまいました。
アンソニー本人の苦しみがよく伝わってくるだけじゃなく、介護にあたる娘の苦労も同じだけ分かるのもこの映画の醍醐味でしょう。もうあそこまで症状が悪化したら施設に入れてもしょうがないですよね。
突然キレ出したり、人を泥棒扱いしたり、または暴力を振られていたり、陰口を言われてるなどと被害妄想にかられる様子は見ていられないし、下手したら家を出て行方不明になったり、キッチンを使って火事を起こしたり、っていう危険性もあるわけだからね。
登場人物のうち誰も悪くないっていうのが逆に悲しくやるせないですね。これで悪人がいたらまだ責任を転嫁できそうなものだけど、みんなが最善をつくしているからこそ、どうしていいか分からない。、為す術がない、というのが強調されていて、余計に悲しくなりました。
日本にもそれこそ日々介護で疲れている人も少なくないだろうから、家族に認知症の人がいる、または過去にいた、という人にはこの映画は刺さるでしょうね。そんな人たちはアンの最後の決断に対しても一定の理解を示すんじゃないでしょうか。
介護ってしんどいなあ、と思うと同時に、自分自身認知症にはなりたくないなあ、と改めて思わされる、そんな映画でした。
コメント
低予算ゾンビ映画の「コリン」もある意味「一人称・認知症映画」と言えるような。