一見、未成年とおじさんがいけないことしているようで、実は至って純粋な男女の関係を描いた人間ドラマ。回りくどくなく、要点だけを、さくっと短くまとめているのがいいです。77点
この世界に残されてのあらすじ
第二次世界大戦後の1948年、産婦人科医のアルドのもとへ16歳の少女クララが叔母のオルギに連れられてやってくる。
クララはホロコーストで両親を亡くし、心に傷を負っていた。そのせいか身体の成長が遅れていた。
クララは亡くなった両親はまだ生きているはずだと信じていた。そんなクララからアルドは強い寂しさを感じ取っていた。
それはクララも同じだった。ほとんど感情を見せないアルドに悲しみを覚えていた。同時に父親に似た親近感も感じた。
クララが後日、再びアルドのもとへ訪れると、二人は打ち解けていく。それ以来、アルドはクララを自分のフォスターチャイルドとして面倒を見ることになる。しかし二人の関係は周囲に誤解を招き、二人もまたお互いが自分にとってどんな存在なのか分からなくなっていく。
この世界に残されてのキャスト
- カーロイ・ハイデュク
- アビゲール・セーケ
- マリ・ナジ
- カタリン・シムコー
- バルナバーシュ・ホルカイ
この世界に残されての感想と評価
バルナバーシュ・トート監督による、40過ぎの中年男と16歳の少女の淡い愛を描いたハンガリー映画。2004年に出版されたZsuzsa F. Varkonyiの小説がもとになっています。
わずか80分ほどの短い映画で、極力余計な登場人物やシーンを省き、主人公二人の内面だけにフォーカスしている良質の物語です。
いわば禁断の年の差恋愛ドラマで、どこか 「愛人/ラマン」を彷彿とさせるものがありますね。「愛人/ラマン」が好きな人はぜひ見てください。
ただし、「愛人/ラマン」のような性的な要素は一切なく、あくまでもおっさんと少女のプラトニックな交流に終始するのが特徴です。
本作は、作りようによってはかなり色っぽく、色っぽい映画にもなり得た気がするんですよ。ホロコーストでそれぞれ家族を失った歳の差のある男女が出会い、相手を自分の愛する家族と重ね合わせつつ親近感を覚え、寂しさを埋めていく、という状況はなかなか現実味があります。
物語の舞台であるハンガリーは戦時中はナチスドイツに何十万人ものユダヤ人が虐殺され、れ、戦後はスターリン率いるソ連の支配下にあったために戦争が終わってからも不穏な空気に包まれたままで、ソ連人に目を付けられると、連行されては消されてしまうような緊張状態です。
そんなシチュエーションで恐怖におびえながら生きる男女は当然余計に絆が強まっていくわけで、やがて理性の利かなくなった二人が猛獣のように絡み合う、という流れだったら大歓迎だったんですけどね。
しかしあえてスケベ路線に行かなかったのは原作者が女性であるがゆえに、プラトニックなストーリーを好んだのかなぁ、という気もしました。それぐらい女性的かつ文学的な物語でした。
16歳のクララはお転婆で気が強く、口が達者な女の子です。一方のアルドは穏やかで、物静かで口数が少ない、という対照的な性格の持ち主で、クララはアルドに父親的なもの感じ、アルドはクララを自分の娘のように接します。
といっても血のつながっていない二人。それが家族的な愛なのか、それとも異性に対する愛なのかごちゃごちゃになっていき、ときおりハグなどのボディタッチを交わす度に互いの心臓の鼓動が速くなるのが画面を通じてこちらにまで伝わってきます。
端から見ていると、そんな二人の言動はもれなくじれったいし、もうやっちゃえよって思うんだけど、そこを二人とも毎回堪えるわけで、いわばこの映画も「ロスト・イン・トランスレーション」や「カイロ・タイム ~異邦人~」などと同じタイプのじらし映画と呼べるかもしれませんね。
だってそもそもクララがアルドの名前を呼ぶときの呼び方がもう恋する女のそれだもんね。医者に診察してもらうとき、アルドにだけは自分の裸を見せまいとする下りも乙女丸出しだし、アルドもアルドでクララが夜出かけると、嫉妬しまくりだし、彼女が帰って来るまで緊張して眠れてないし、二人ともなんなんだよって。
特にソ連兵に連れて行かれそうになり、離れ離れになるかもしれないというとき、二人が強く抱きしめ合った場面はこの映画の最高の見せ場といってもいいでしょう。
ソ連兵が去った後、クララのほうからアルドにキスを仕掛けていくんですが、正直あの状況で理性を保てる男なんてこの世の中にアルドを含めて3、4人しかいないんじゃないかな。アルド、すごいわ。
1948年という時代なら子供を産むのも結婚するのも早かっただろうし、16、17歳の少女とおっさんのカップルもさほど珍しくないような気がするんですよね。
それでも周囲は奇異の目で二人を見る、という設定になっていて、いくらなんでもその年の差はアウトでしょ、という認識が社会にあったといった感じで描かれていました。あの部分はどうなんでしょうね。
もしアルドとクララが本当に愛し合っていたなら、二人が結ばれるほうが幸せだったんじゃないのか。二人は本当に最後、正しい選択をしたのか。それともお互いのことを諦めるために別のパートナーを選ぶのか、などあれこれ考えてしまう終わり方になっていました。
全ては二人の表情から読み取っては解釈していくことになるんだけど、登場人物が多くを語らず、にも関わらず、それぞれの心境が痛いほど伝わってくるような気がするのが、この映画の面白さと醍醐味ですね。素晴らしい。
コメント
年の差+職業の相乗効果でアウトっぽい感じがしますね。
そりゃ医者が年端も行かない患者に恋愛感情持ったらいかんでしょ?って。
でもそれがロミオとジュリエットみたいなスパイスになってるんでしょうね。
時代性もあるんですかねぇ。
お正月で時間が取れたので、真っ当な映画を観ようと劇場まで足を運んできました。
映画男さんが高い評点を付けているだけあって、良質な恋愛映画でした。「愛人/ラマン」も好きな映画なんですが、「愛人」では家族の支配から逃れたい2人、本作では家族の喪失を埋め合わせたい2人が軸にあるからこそ、作風がエロス/プラトニックに分かれたのかなと、レビューを拝読して感じています。
最後の食事会のシーンが切なかったですね。乾杯の場面でアルドが酒盃も掲げず立ち尽くしているのを、引きのカメラで映しているのが印象的でした。
ご紹介をありがとうございました。
これよかったので、見ていただけて嬉しいです。最後の食事は名シーンでしたね。
これもAmazon Primeで見れました。
のちに奥さんになる患者さんが、「子供を産む予定は?」と聞かれて、自虐的に鼻で笑うシーンが最高でした。
この映画好きです
当時の時代背景を考えると互いに失われたものを補う関係は男女であれば、歳の差関係なく恋愛感情になるのは自然の流れだろうなと思いました。
別れを選んだクララの心の奥底はわからないけど、これでいいんだ、と若さゆえの切り替えの速さでw前向きな気持ちになっている表情とは対局のアルドの表情がなんとも言えませんでしたw
けど、ラストの食事のシーンの
いつもウソをついてるよ。
というあのセリフで女性的には結ばれる以上に優越感に似た喜びみたいなところはあるんじゃないかな〜とニヤニヤして見終わりました^ ^
最後のシーンよかったですねえ