若い女に狂ったバカ男が犯した決して許されない家族殺人の詳細をつづった記録映画。警察の映像が臨場感半端ないです。75点
アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録のあらすじ
2018年8月13日、出張から帰ってきたシャナン・ワッツは深夜2時頃、友人のニコールに車で家まで送ってもらった。ところがそれ以降、急にシャナンと連絡が取れなくなったニコールが不審に思って警察に連絡する。
ニコールがシャナンの家の前で警察と話していると、そこに夫のクリスが駆けつけてきた。みんなで家に入ると、シャンの携帯が電源が消えた状態で家の中に置かれていた。
なぜか二人の娘の毛布がなくなっており、シャナンの結婚指輪だけが残されていた。まるでシャナンと子供たちは家出をしたような気配すらあった。
三人は一体どこへ行ったのか。何者かによって連れ去られたのか。それとも自ら姿を消したのだろうか。
事情が掴めないクリスはメディアのインタビューで、とにかく家族が安全でいることと一刻も早く帰ってくれることを祈っていると訴えた。しかし実際はクリスが妻と二人の娘を殺害していたのだった。さらに殺害時、シャナンは妊娠中だった。
アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録のキャスト
- クリス・ワッツ
- シャナン・ワッツ
- ベーラ・ワッツ
- セレステ・ワッツ
アメリカン・マーダー: 一家殺害事件の実録の感想と評価
ジェニー・ポップルウェル監督による、あまりにもショッキングで、気の毒すぎる一家殺害事件をつづったドキュメンタリー。
若い浮気相手を見つけた男クリス・ワッツが新しい人生をスタートさせるために邪魔になった家族を殺害し、妻の遺体を人里離れた乾燥地帯の砂の中に、娘の遺体をタンクに遺棄した衝撃の実話です。
見ていて胸糞悪くなるので、そういう意味では「おすすめだけど、声を大にしてはおすすめできない」作品ともいえそうです。特に娘のいるお父さん、お母さんは見ないほうがいいかもしれません。
一方で実際のSNSの映像、メッセンジャーの会話、警察のボディカメラ、取り調べ映像、ニュース映像などをまとめただけで一本の良質な映画に仕上げており、映像のチョイスや編集力が光った優れた作品には違いないです。それにしてもよくもまあ警察が映画製作のためにこれだけ映像を提供してくれましたね。
一家が行方不明になってから一番最初の通報を受けたときからの重要な記録が全て公開されています。家族を自ら殺したにも関わらず、何食わぬ顔で警察がいるところに登場するクリス・ワッツの様子が気持ち悪く、白々しくも家庭内の事情を説明する下りや悲しんでいるフリをしながらメディアに家族の無事を祈る姿などは犯人が彼であることを知ったうえで見ると滑稽でしかなかったですね。
警察が事件の真相を調べていくと、徐々にクリス・ワッツと妻のシャナンの関係性が見えてきます。
二人はSNS上でははたから見ると、ごくごく普通の幸せな夫婦でした。二人の可愛い娘にも恵まれ、三人目の子供も生まれてくる予定でした。
しかし実情はクリス・ワッツはシャナンにすっかり嫌気をさしており、シャナンもそのことに薄々気付いていたのでした。
まず、夫が自分の体に触れてくれないことを不思議に思ったシャナンはなんとか挽回しようと努力します。しかし改善されるどころか夜の営みを何度も拒まれ、浮気を疑い始めます。
シャナンはそのことを友人に相談していましたが、友人もまさかクリスが浮気をしているはずがないといった反応を見せるほどで、女性たちはクリスに一体何が起こったのか理解できません。
それに対し、クリスはシャナンが夫婦関係に苦しんでいる間、若くて、ナイスボディーの持ち主である愛人とよろしくやっていました。浮気相手と外食するために帰りが遅くなることもしばしばでもちろんシャナンはそんな夫を咎め、さらに浮気を追求しようとします。
やがて追い詰められた夫はシャナンを殺害し、どうしていいか分からなくなった末、残された二人の娘まで一緒に殺してしまう、というのが事件の流れです。
日本でもときどき同様の事件が起きますが、誰もが真っ先に思うのは、それなら離婚すればいいだけじゃん、ということじゃないでしょうか。
本当にそうなんですよね。なにも殺す必要なんて全くないんですよ。こういう状況下でまるで何かにとりつかれたかのように衝動的に殺害してしまうのはどうしてなんでしょうかね。
結局のところ性欲に振り回された末に殺人を犯した、という印象すら受けました。夫婦の間ではレスになり、妻から毎晩のようにせがまれる夫。しかしもう好きじゃないし、魅力も感じていないから夫にとっては苦痛でしかない。
逆に若くていい体をした愛人との時間は快楽に満ちていて、こんな時間が永遠に続けばいいなあ、という思いが漠然とあったんじゃないでしょうか。
犯人のクリス・ワッツの過去やシャナンと結婚し、二人の子供と幸せな暮らしを送っていた時間が嘘だったのか、というと決して偽りではなかったように思えました。
もともとクリス・ワッツがサイコパス的な人間だったかと言ったら、とてもそのようにも見えませんでした。職場での評判も良く、なにより妻のシャナン本人やシャナンの家族からも素晴らしい人間として称えられていましたよね。
二人は確かにかつて愛し合っていたし、クリス・ワッツは子供たちのことも愛していたでしょう。それがあるときから夫婦の関係性が変わったことを受け入れられなくなった二人が衝突を起こし、妻は関係の修復を望んだのに対し、夫は何もかもを消してしまおう、という極端な解決策にたどりついたようです。
しかしなんでそんなバカな結論に至ったかについては被害者遺族をはじめ、もしかすると本人も一生理解に苦しむところじゃないでしょうか。人間がいかに弱く、そして冷酷かつ狂暴になりうるかがクリス・ワッツの行動を通じて分かりますね。
なにより恐ろしいのは、クリス・ワッツが妻殺害後に取った行動です。完全に頭がいかれちゃった彼は、妻の遺体をトラックに乗せ、そこに一緒にまだ生きていた2人の娘を乗せます。
そして1時間ほど運転し、砂漠地帯に連れて行き、そこで一人ずつ娘を殺したというのだから、同情の余地はないでしょう。こんな男にはどんな汚い言葉を浴びせても足りないです。
まさかクリス・ワッツはあれで逃げれるとでも思ったんでしょうかね。彼は嘘発見器にかけられて、まんまとテストにパスできず、尋問の末に自白します。このときの警察の取り調べが見事で飴と鞭を上手く使い分けて真実を吐かせていましたね。
クリス・ワッツが警察の取り調べで動揺し、それをもろに表情に表し、体調を崩してさえいたのが、彼が本物のサイコパスではないことを物語っているようでした。
もしサイコパスだったらあの状況下でも平然としていたことでしょう。そういう意味ではごくごく普通の男が犯した異常な事件だったと感じました。それが逆に怖いですね。
コメント
旦那側は、いい人でいなければならない、という観念のために離婚が出来なかったんでしょうね。
それでいて自分は他者より上のいい人間なので(周りもそう言うので^^;)報われるべきだ、という思いあがりから、比較すると価値の低い娘を殺害することができる。
リアリティがあるのは警察に加え本人も捜査に協力的だったのかなと思います。
同様に自分はいい人間だという外面を保つためでしょうけれど・・・
言い方は悪いですが普通の幼稚な大人の内面なんて嫌悪の対象でしかなく誰も踏み込んでくれませんし、被疑者自身も映画化に喜んでいるんじゃないかと思います。
彼は彼で体裁を保つために偽り続けてきて、無理が生じたんですかね。
クリスは妊娠中だったとありますが、シャナンの間違いではないでしょうか?
ありがとうございます。訂正しました。
尋問のシーンがリアルすぎて最高でした。ちょっと疑問に思ったのは警察側は嘘発見器をクリスがパスできなかったことが科学的証拠として決め手になるんですかね?それともあれは結局、警察の尋問のテクニックありきなんでしょうか?
アメリカは嘘発見器の結果をかなり重要視するみたいですよ。もちろんそれだけでは即有罪というわけにはならないでしょうが。
白状し出す場面は圧巻でした。警察の撮影だし後ろ姿で画質も悪いのにすごいものがありました。サスペンス好きとしては衝撃の時代が来たんだなと愕然。ほぼすべての映像がリアルにリアルタイムの人生だなんて!
尋問のテクニックが見事でしたね。脅すわけでもなく、諭すように白状させるってなかなか難しそうですね。
信じられないような衝撃的な事実でしたね…。
お腹の子も含めて4人殺害したことになりますね。許せません。
邪魔者を殺害する方法しか選べないなんて、離婚で生じる多額の慰謝料や養育費を工面するのが嫌だったとしか思えません。
ただ余談ですが…浮気相手の女性は飾らないナチュラルな美しさがありスタイルも良く、女視点から見ても旦那がのぼせ上がるのも少しわかる気がします…。
浮気相手の女性も「妻とはもうすぐ離婚なんだ」と言われたら信じてしまうでしょう。
離婚後のことまで想像して、殺人に走ってしまったんですかね。バカですねえ、あの男。
サイコパスは無感情と誤解されがちですが泣いたり涙流したりは普通に出来ますよ
自己愛の歯車が人と少し違うだけで
彼は完璧と言っていいくらいサイコパスです
サイコパスは冷酷と思われがちですが実は病気をしてる人を助けるのが好きという特性も持っていて彼女が病気の時に結婚したのがそれを更に物語っています
病気をしてる人を助けるのが好きだなんていう特性があるんですね。知りませんでした。
*それにしてもよくもまあ警察が映画製作のためにこれだけ映像を提供してくれましたね。
警察が、映画化に際してNetflixに映像を提供したわけではありませんよ。
捜査段階で集まった211時間におよぶフッテージが証拠として認められ、そのうちの大半が判決手続き後の2018年12月にウェイルド郡検察局によって公開されました。
この映画の公開は2020年9月ですから、その1年9ヶ月前の時点で、ボデイカムや尋問、判決の様子はメインストリームメディアのクリッピングや、YouTubeで流され次第に話題になっていました(American Murder公開前の2019~2020年スタンプのフッテージがYouTubeに無数にアップされています)。
アメリカでは、裁判中継はもちろん、公判後に警察内の映像や電話等のオーディオなどが公開されることは珍しくないですし、数千ページにもおよぶ供述宣誓書が裁判所のサイト等からダウンロードできるなど、ハイプロファイルケースの情報は日本に比べて驚くほど手に入り安いのではないでしょうか。
このドキュメンタリーがヒットしたのは、シャナンのMLM活動を通じて、ワッツ家の幸せな家庭のフッテージが非常に多く手に入り、事件後の映像とのコントラストがよく描けていたからではないでしょうか。
私は日本で実際にあった刑事事件で、映画にできるほどの大量の映像が一般公開されたものがあるのか、とても知りたいです。
またポリグラフがアメリカで証拠として重用されることもありません。テスト結果は科学的根拠が少ないとして、裁判の際に持ち出すことは許可されていません。ポリグラフを拒否することも、途中で中止することも自由です。