題材は悪くないのに、美化しまくりの演出やストーリーが鼻に突く問題作。主人公の妻たちに対して、申し訳なくなってくる話です。45点
キーパーある兵士の奇跡のあらすじ
第二次世界大戦終戦間近の1944年、ドイツ人兵士のバート・トラウトマンは戦地でイギリス軍に捕まり、収容所に送られた。そこでバートはほかのドイツ人捕虜たちと一緒に強制労働をさせられることになる。
ある日、収容所の中でドイツ人同士がサッカーをしていると、バートはゴールキーパーを任された。ドイツ人たちはたばこなどを賭けてPKをした。しかしバートはことごとくキッカーのボールをセーブし、話題を呼んだ。
ちょうどその場面を地元のサッカーチームの監督のジャック・フライアーが目撃し、彼をチームに引き抜くことに。バートは敵国のドイツ人ということもあり、チームメイトからも猛反発に遭うが、バートのプレーを見た彼らはバートのことを認めざるを得なくなる。
やがてバートは監督の娘マーガレットに恋をするが、終戦を迎えたために収容所が閉鎖となり、彼はドイツに帰国することが決まる。
キーパーある兵士の奇跡のキャスト
- デヴィッド・クロス
- フレイア・メーバー
- ジョン・ヘンショウ
- ハリー・メリング
- デイヴ・ジョーンズ
キーパーある兵士の奇跡の感想と評価
マルクス・H・ローゼンミュラー監督による、実在したサッカー選手、バート・トラウトマンの生涯をつづったバイオグラフィー。タイトルのキーパーはそんまんまゴールキーパーのことを指しています。
戦争映画のようで戦争映画ではなく、恋愛映画のようで恋愛でもない、差別ドラマのようで差別ドラマでもない、本当にただバート・トラウトマンの半生を薄くなぞっただけの作品です。
実話ベースとはいえ、いかにも映画的なストーリー展開が続くため、だいぶ脚色しているのが分かるかと思います。
戦時中の収容所の様子からして緩々で戦時中から終戦直後にも関わらず、捕虜のバート・トラウトマンをはじめ、ドイツ人に対する扱いが甘っちょろく感じました。
あれだけナチスがひどいことをした直後だったら、イギリスの国民感情はもっと憎しみに満ちていたんじゃないかと思うんですよね。それなのに収容所の中ですらドイツ人に厳しいのはイギリス兵一人だけだったし、全体的におとぎ話的なノリになっているのが特徴です。
特に嘘っぽかったのはバート・トラウトマンとマーガレットの出会いから恋に落ちるまでの流れですね。
二人は収容所で出会い、意識し始め、また、バート・トラウトマンがマーガレットの父親であり、地元サッカーチームの監督の世話になったことでサッカーチームでプレーするだけでなく、マーガレットが働く店で手伝いをし、急接近する、というエピソードの数々に現実感がなかったです。
特に敵国同士の市民が戦時中に出会ってあんなに簡単に恋に落ちるかなぁ、というのが気になるところでした。最初だけ敵意をむき出しにしているマーガレットが余計にわざとらしく、恋人がいるにも関わらずあっさりバート・トラウトマンに乗り換える心境もよく分からないです。
ドラマチックにするために一人の女をめぐって男同士を喧嘩させたり、わざわざ面倒な三角関係にしたのがバレバレで、そんな状況を自ら選んでいるかのようなマーガレットは僕にはただの悪い女にしか見えませんでしたね。
あれだけバート・トラウトマンにぞっこんだったのなら普通に彼氏と別れてから付き合えばいいじゃん。なんだよ、あのPK対決でどっちがマーガレットと付き合うか決めようぜとかいう勝負は。本人のいないところで勝手に勝負されてもね。
ちなみに実際、二人は終戦後の1948年に出会ったそうですね。そりゃあそうだよね。普通、戦時中の捕虜と恋してる精神的余裕なんてないでしょ。なんでそれを収容所で出会ったみたいな話に変えちゃったんだろう。
前半はバート・トラウトマンとマーガレットの恋愛が中心で、サッカーは二の次のような印象を受けます。
マンチェスターシティのスカウトに目に留まってプロ契約した後は、彼がドイツ人であることに対する差別と、それを克服してピッチで活躍するバート・トラウトマンの勇姿が物語の中心となります。
しかしどのエピソードもトントン拍子に進んでいくため、バート・トラウトマンの苦悩や葛藤がそこまで伝わってこないのが問題点ですね。
バート・トラウトマンは戦時中、上司が目の前で敵国の少年を殺害したのを黙って見ているしかなかったことが強いトラウマになっていて、それを妻のマーガレットに打ち明けられずにいます。
そしてまるで因果応報かのように二人の息子が交通事故に遭ってしまい、絶望に陥るという伏線の回収の仕方になっていました。
あれについても元ナチス兵だったら、もっとグロテスクなことを多々目撃しているか、あるいは実行しているはずだし、やっぱり描写の仕方やエピソードのチョイスが甘っちょろいんですよね。
バート・トラウトマンなんて戦時中最前線で戦ってきたうえに複数の勲章ももらっているぐらいだから、滅茶苦茶の数の人を殺しているはずなんですよ。それをまるで戦争に行ったけど、悪いことは一切していないかのような美化した描き方には違和感を覚えましたね。
そしてその違和感が最後の最後までつきまとい、エンディングではテロップでさもバート・トラウトマンとマーガレットがさも幸せに一生お互いに添い遂げたかのような解説していたのには笑いました。だって二人は普通に離婚しているからね。そこには触れないってすごいな。
バート・トラウトマンって3回結婚しているらしいんだけど、二番目の妻と三番目の妻がもし生きてて、この映画を見たら「あれ、なんで私出てこないの?」ってキレるでしょうね。
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