こんな奴、家族にいたら大変だなぁ、というのを静かに伝えていく、芸術路線の家族ドラマ。まるで登場人物の家族パーティーに自分が参加しているかのような追体験ができる作品です。62点
クリシャのあらすじ
アルコール中毒などが原因で家族と長い間疎遠だったクリシャは、久々にサンクスギビングの家族パーティーに出席する。彼女はすっかり良くなった健康状態でみんなの前に現れた。身も心も生まれ変わったと彼女は言った。
しかしクリシャの妹ロビンをはじめ、妹が面倒を見て来たクリシャの息子トレイはクリシャに対して疑心暗鬼になった。クリシャは家に来て早々、落ち着かない様子で、挙動不審だった。
トレイはまともに母親の顔を見ることができなかった。会話をしても上辺だけで話しているのが明らかだった。
やがてクリシャを歓迎してくれているかに見えた家族、親族が実は彼女のことを強く疑っていることを知ると、クリシャの精神は徐々に崩壊していく。
クリシャのキャスト
- クリシャ・フェアチャイルド
- アレックス・ドブレンコ
- ロビン・フェアチャイルド
- トレイ・エドワード・シュルツ
クリシャの感想と評価
「WAVES/ウェイブス」のトレイ・エドワード・シュルツ監督による、家族内にアルコール&ドラッグ中毒者を持つ苦悩を描いた人間ドラマ。
ヒロインに監督の実叔母、息子役に監督本人、親族役に実際の親族が出演している、リアルすぎる家族の物語です。
サンクスギビングのパーティーのために集まったファミリーの一日をヒロインのクリシャ目線で追ったもので、楽しいはずの宴会の雰囲気が少しずつ怪しくなり、最後は彼女を精神崩壊へと導いていく様子をつづっています。
見方によってはよそ様のパーティーをただ傍観するだけの映画ともいえなくもないです。ただし、一見、楽しそうに時間を過ごす登場人物たちからうっすらと張り詰めた緊張感が伝わってくるのが面白く、登場人物たちがたどる不幸な結末を「ああ、俺にはこんな家族いなくて良かったなあ」って思いながら見るタイプの映画ですね。系統でいうと、「8月の家族たち」に近いものがありますね。
しかしながらクリシャほどの問題を抱えていなくても、おそらくどこの家族、親族にもトラブルメーカーの一人や二人はいるじゃないでしょうか。もしいるとしたら、クリシャがその人と被って見えることでしょう。そういう意味では感情移入するのもそう難しくはないと思います。
会話やストーリー進行はとてもスムーズで、何気ない会話ややり取りから登場人物の背景や過去が少しずつ明らかになっていく作りになっているのが特徴で、家族の平凡な日常をただ映しているようでいて、かなり緻密に脚本が練られているのが分かります。
なによりクリシャ役のクリシャ・フェアチャイルドの演技がすごいですね。クリシャはいかにもなにかやらかしそうな、誰かと揉めそうな雰囲気を醸していて、最初は精一杯ニコニコして取り繕うとするんだけど、だんだん笑顔がなくなっていくのが怖いですね。
そしてすぐさまトイレに駆け込み、薬や酒を飲んで、精神の安定を保とうとするのがいかにも中毒者って感じでした。
クリシャが一体いつやらかすのか、というのがフリになっていて、家族喧嘩が始まるのをハラハラしながら見てしまうんだけど、それは登場人物が置かれている心境とも似ているのかもしれません。
一つ気になったのは彼女の指が一本なかったことで、あれについては特に触れていませんでしたね。包丁を使うときにいちいち指がフォーカスされるので、なんか意味があるのかと思いきや特にオチはなかったですね。もしかしたら酔っ払って料理して、自分で切っちゃったのかなぁ。
ちなみにあの指はCGではなく、実際にクリシャ・フェアチャイルドの指で、撮影直前に犬の喧嘩を止めに入ったときに噛まれて切断したんだそうです。もちろんその実体験は物語とは関係ないです。
でも指がないことで、ただならぬ過去が連想されるのは事実で、監督はそれをストーリーに生かしたんでしょうか。
パーティーのメインディッシュである七面鳥をクリシャが床に落としちゃって、一気に場が冷めてしまうシーンも印象的でした。あれが悲劇の始まりだったと言ってもいいでしょう。
そもそもアル中の経歴がある人に大事なメインディッシュを任せちゃだめだよね。アル中じゃなくてもときどきバースデーケーキとかを普通に落とす奴いるよね。
それ一つで、パーティー台無しになるからね。そういう星の人たちに大事なご馳走を担当させたら絶対ダメだからね。
コメント
自分は福祉系の仕事についているので、主人公の様な薬物中毒(広義ではアルコールも含む)の患者を腐る程見てきましたが、けっこうあんな感じですよ、みんな。
それで大概、施設や病院に入ってくる前に家族や友人の生活を破壊するレベルの迷惑をかけているのが常なので、それらの人たちの対応は非常に冷淡で、中には「死んでも連絡してくるな。」という家族もいます。
それで患者本人の事に関して言うと、施設や病院行きになるレベルの中毒者って、殆どが前頭葉委縮とかの脳変性を起こしてしまっているから、施設・病院で薬物・アルコールを断っても絶対に元には戻らないんですよね。
前頭葉委縮とか起こしている人の具体的な様子は、まあ大概は「待つ」「規則を守る」とかいった我慢するという行為が全くできません、アルコール・薬物に関係無く。
例えば、朝食とったばかりなのに「早く飯を食わせろ!」と叫んだと思えば、今度は食事をしながら「早く寝かせろ!」と一人で焦って丼にご飯もおかずもデザートも全部混ぜ込んでかき込む様な感じです。「待つ」という事が一切できないので、当然入浴の時などは浴室で順番待ちなどできないので、入る直前に起こす様な感じで、防災訓練等には参加できません。夜は妄想や幻覚に襲われて大声でなく叫んだり衣服やリネンを引き千切ったりします。
そういうわけで、自分はこの作品の主人公の悲劇を見ても、そもそも家に帰ったこと自体が間違いだろ、としか思えませんでした。
やはり家族はどこかで、治ったクリシャを期待してしまったんでしょうね。
いや~、現実だと家族が一番迷惑かけられているはずだから、アル中で施設送りになった人間に何か期待するって事はないと思いますよ。
基本「治らない」ですから。そこが結構誤解されてる。
素晴らしい映画です。道徳の授業に最適です。畜産企業や動物虐待家にとっては目障りな作品でしょうね。
リアルな映画ですよね。確かに道徳にいいかも。