コメディだと思って油断していると、ふと泣かされる、サプライズ満載の家族ドラマ。才能の塊みたいな作品なのでとにかく見てください。84点
サンダーロードのあらすじ
母親の葬式で息子のジムは参列者を前に何を話していいか分からなかった。彼はランダムに母親との思い出を話だし、やがて母親が彼に歌ってくれた歌サンダーロードを流して踊ろうとした。
しかしCDプレーヤーは故障し、曲はかからず、仕方なくジムはBGMなしで踊るしかなかった。
ジムにとって母親を失くした喪失感は言葉で表せなかった。同時にジムは妻と離婚裁判中だった。
娘のクリスタルはジムと一緒に時間を過ごすことを面倒くさそうにし、母親のほうに懐いていた。それでもジムは娘と一緒に過ごすために共同親権を望んでいた。
母親が亡くなったことで、母親が運営していたダンス教室も閉鎖する運びとなった。ジムは人生の中の大事なものが次々と崩れ去っていくように感じていた。
まもなくしてジムは元妻がクリスタルを連れて別の街へと引っ越そうと計画していることを裁判所からの通達によって知る。元妻は共同親権ではなく、単独親権を求めていたのだった。
サンダーロードのキャスト
- ジム・カミングス
- ケンダル・ファー
- ニカン・ロビンソン
- ジョスリン・デボーア
- メイコン・ブレア
サンダーロードの感想と評価
ジム・カミングスが監督、脚本、主演をこなした、ユニークな低予算コメディ家族ドラマ。
前半はつかみどころのない会話やストーリーから始まり、中盤、後半にかけて徐々に物語が核心に迫っていき、ラストにはいつの間にか感動させられてる映画。ちなみにタイトルのサンダーロードはこの曲から来ています。
コメディ映画といったジャンルわけがされているものの、ジム・カミングスを知らない人にとってはおそらく、どこでボケているのか伝わりにくいはずです。
特に冒頭の葬式で踊るシーンはシリアスな場面であると同時に盛大に滑っているせいもあって、どうリアクションしていいのか見当がつきませんでした。
初めからジム・カニングスのキャラに対する予備知識や心の準備があればまた印象は違っていたかもしれないけど、何も知らずに見たらただの長回しのダラダラしたシーンとしか思えなかったです。
また、アメリカの笑いよりも、イギリスの笑いに近い印象で人の不幸や不運や皮肉を笑いにするタイプのユーモアになっていて、コメディ映画としてくくると、いまいちしっくりこないですね。なぜなら到底コメディの枠に収まり切らないからです。
脚本の巧妙さが活きてくるのは後半部分で、一見意味のなさそうな数々のセリフやシーンが伏線として回収されていく様子は快感で、同時にジム・カニングスという才能を発見した喜びと感激に包まれました。
前述の葬式のダンスシーンですら後々意味を成していくし、妄想癖っぽいホームレスのおっさんのセリフも、主人公が発狂したときに回収していくんですよね。無駄だと思っていたシーンが無駄じゃなかったと思わせられた瞬間のいい意味でのショックといったらなかったです。
そして終盤の全く予想がつかない展開と、思わぬ熱い友情と家族のドラマには涙しそうになりました。
なんともいえないラストも驚きで溢れていたし、最後はしっかりとハートフルな家族ドラマに昇華していて、とても不思議な体験をした気持ちになりました。
一見、ジムと娘の親子愛を描いているようで、ジムは娘に母親の姿を投影していたようなところもありましたね。そういう意味ではジムと母親の親子愛の物語とも考えられそうです。ラストに白鳥の湖の公演を娘と見たのも、それが母親の人生を左右する公演だったからなんですね。細かいなぁ。
正直、最初の数十分はつまらない映画だなぁと思ったんですよ。発達障害なのかコミュ症なのか、よく分からない落ち着きのない主人公ジムのキャラに嫌悪感を抱いたというのもあるんですが、ストーリーがどこに向かっていくのかも分からない、フワフワした部分にフラストレーションを覚えました。
それが終わるまでにはすっかりジムに感情移入しちゃってたし、物語が幕を閉じた後にはすっきりした気分になるんだから不思議なもんですね。まるで最初はものすごく嫌いだった異性の意外な一面を知って、猛烈に惹かれていくようなギャップ萌えですよ、これは。
そして惚れたら最後何日もこの映画について語りたくなるような、ものすごく個性的で斬新なストーリーテリングでした。
ふと、昔に見た「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」を思い出しましたね。「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」もやはりアダルトチルドレンっぽい主人公が失態を犯したりしながらも最後は感動の家族ドラマになっていく映画で、この作品とも共通点が多々あります。この映画を気に入ったらぜひそちらも見てみてください。
それにしてもジム・カミングスのこれからが楽しみですね。
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