綺麗な絵に、センチメンタルなセリフを合わせれば芸術が作れると思い込んでいる監督が作った、退屈極まりない映画。ぐっすり寝れます。18点。
名もなき生涯のあらすじ
フランツ・イエーガーシュテッターは、オーストリアにある小さな村で生まれ、育ち、妻フランチスカと3人の娘たちと共に農夫として静かに生きていた。
1939年、ドイツ軍の支配下にあったオーストリアでフランツはドイツ軍に徴兵され、数か月間訓練のために家族と離れ離れになった。
フランスが降伏したことから戦争は早期に終結すると思われ、数か月で村に帰ることができたが、すぐにまた徴兵された。
しかしナチスの思想を疑問に思い始めたフランツは、ナチスドイツに忠誠を誓うことをあからさまに拒むようになり、そのせいで村人からも白い目で見られるようになる。
また、フランツのせいで、妻フランチスカや子供たちまで村人から敵対視されるようになり、フランツは信仰とナチズムのはざまでもがき苦しんでいく。
やがてフランツは、ドイツ国防軍駐屯地に出向き、兵役拒否を宣言したことで直ちに逮捕され、刑務所に送られてしまう。
名もなき生涯のキャスト
- アウグスト・ディール
- ヴァレリー・パフナー
- ミカエル・ニクヴィスト
- ユルゲン・プロホノフ
- マティアス・スーナールツ
名もなき生涯の感想と評価
「ツリー・オブ・ライフ」、「トゥ・ザ・ワンダー」、「聖杯たちの騎士」などで知られるテレンス・マリック監督による、ダラダラグダグダバイオグラフィー。
戦時中ナチスの思想に抵抗し続けた実在の人物フランツ・ヤゲルシタッターの生涯を描いた雰囲気映画。
題材はいいのに、撮り方、伝え方のせいで、とにかくストーリーが分かりづらく、つまらないものになってしまった残念すぎる駄作です。
あれ、この映画のつまらなさ、どこか「トゥ・ザ・ワンダー」に似てるなあ、と思ったら、やっぱりテレンス・マリック監督の映画だったんですね。知らずに見たので悪い意味でサプライズでした。
物語はフランツがナチズムに抵抗し、刑務所送りにされ、死刑されるまでを詩的に見せていて、相変わらず監督の自己陶酔感が半端なかったです。
「トゥ・ザ・ワンダー」や「聖杯たちの騎士」と同様、登場人物がボソボソと自分の頭の中の考えを喋ることで、ストーリーを伝える手法を取っていて、約3時間の上映時間のうちの大部分が主人公フランツと妻がお互いに書いた手紙を朗読するだけです。
「親愛なる妻よ、俺は今刑務所の中にいる。でも俺の心は君と子供たちと共にある」
「親愛なる夫へ。あなたがいなくて寂しいわ。子供たちの面倒を見るのは大変なの。ときどき叱らないといけないからね。でも心配しないでね。私たちは元気にしてるから」
みたいなやり取りが延々と続く地獄の3時間。この映画こそタイトルを「地獄の黙示録」にしたほうがいいだろ。
この映画の罪は、予告動画ではなんだか面白そうと思わせてしまうマジックにかけられるところですね。こんなに予告ぐらいテンポが良かったらまだしも、まああゆっくりだからね。
そして最大の問題点は各シーンのカットの仕方で、現在進行中の話とは関係のないシーンが突然割り込んできたり、セリフとは関係ない絵が出て来たり、なんとなく雰囲気でつなげたシーンの連続で、一本の映画にしていることです。
そしてそれをさも、「これが芸術だ!」とも思っているかのようなふしがあって、寒いです。
状況説明が全くなく、主人公の置かれた心境しか描いていないため、逆にフランツ・ヤゲルシタッターがどういう人物だったのかが全く分からないのも残念ですね。
そのせいで、ただの意固地なおっさんが、家族の安全を顧みずに、ナチズムに無謀に抵抗しているだけのように映ってしまって、あのキャラクターからは信仰心も特に感じられませんでした。
もっとそこを描かないと意味ないよね。どうしても神にだけは背を向けられなかった、という強い宗教観をどこかで見せてくれないと。ただいたずらにときどき「神様」に言及するんじゃなくてね。
なんだか最初に反対したもんだから、だんだん後に引けなくなってる世渡りが下手な頑固者になってましたよね。
おそらく監督は、権力にも屈せず、戦い続けた勇敢な男を描きたかったんだろうけど、描写がポンコツだから完全に意図とは真逆な方向に行ってしまった感があります。
死刑までを描いた話なので、間違いなくクライマックスシーンは死刑シーンなはずなのに、肝心な死刑執行の瞬間は見せないんですよ。
無実の男が無慈悲に殺されていく悲劇を伝えるなら、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のような目に焼き付く死刑シーンを持ってこないと意味なくない? あれで最後まで美しく描いたつもりになられてもね。
フランツ・ヤゲルシタッターについても賛否両論あるんじゃないでしょうか。彼自身は強い信念のもとにナチス軍に忠誠を誓うことを断固拒否したのでしょうが、それによって家族が悲しんだり、苦しんだり、迫害を受けたりすることを考えると、果たしてあの状況でナチス軍に抵抗することが正解だったか、どうか分からなくなりますね。
善悪としては彼の考えが正しくても、家族の幸せ、安全を守れないとなると、優先順位が違くないか?って僕は思っちゃいます。
僕の親父は、子供を三人も作っておいて、世の中お金じゃない。お金のために働くのなんて馬鹿げている。人生にはそれよりもっと大事なことがある、とか言いながらあまり仕事をせず、僕の母親に苦労をかけた人なので、この映画のフランツと意固地な部分では被るものを感じましたね。
一人身で社会体制と逆の道を歩もうが、自分の主義、思想を貫くのはいいんですよ。でも子供三人も作っておいて、我が道を行くはないかなぁ。
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