内容がヘビーすぎて、とても二回は見れないシリア内戦を伝える衝撃のドキュメンタリー映画。国際映画祭などで高評価を受けている作品です。61点(100点満点)
娘は戦場で生まれたのあらすじ
ある日、ワアドは内戦が勃発したカメラを持ち、彼女の住むアレッポの現状を世界に伝えることにする。
政府軍とロシア軍は反体制派が多く潜んでいるアレッポの街に次々と爆撃を加えた。そんな中、ワアドは医師のハムザと結婚し、娘サマを授かる。
娘のためにもアレッポの街から脱出することも考えたが、ハムザが数少ない病院の医師として大きな責任を背負っていたことやワアドも自分の街を捨てたくないという思いから死を覚悟でアレッポに居座ることにする。
しかし戦火は止むどころか激しくなる一方だった。やがて病院まで攻撃の的となり、小さな赤ん坊サマを抱えたワアドとハムザは窮地に追い込まれる。
娘は戦場で生まれたのキャスト
- ハムザ・アル=カデブ
- サマ・アル=カデブ
- ワアド・アル=カデブ
娘は戦場で生まれたの感想と評価
ワアド・アル=カデブとエドワード・ワッツの共同監督による戦争ドキュメンタリー。
シリアのアレッポを舞台に繰り広げられている紛争を市民の目線でつづった貴重な記録映画です。
アレッポのドキュメンタリーといえば、「アレッポ・最後の男」が記憶に新しいですが、この映画もそれに勝るとも劣らない、社会的に意義のある作品になっていました。
主人公は、学生時代に大学で打倒アサド政権の運動を目の当たりにしてきたワアドとその夫のハムザ、そして彼らの間に生まれた娘サマの三人です。
彼らは毎晩のように起こる空爆におびえながらも、いずれ自由を手にすることを夢見て、アレッポの街を愛する人々の役に立とうと、ワアドはジャーナリズム、ハムザは医療の分野で活躍していきます。
しかし政府軍やロシア軍は容赦なく、一般市民を攻撃し、また病院を次々とターゲットにしていきました。
それによってハムザの働く病院も被害に遭い、仲間たちが殺され、そしてまた別の場所に病院を設ける、といういたちごっこのような状況が続きます。
ハムザの病院には毎日数百人もの被害者が運び込まれ、文字通り地獄絵図がそこにあります。
大人はもちろん、まだ幼い子供たちまで次々と犠牲になっていく様子は、とても見ていられませんでした。
これでもかというほど、爆撃を受けた被害者やその死体の映像を流すので、かなりヘビーであると同時にショッキングです。
なにより自分の子供を亡くし、泣き叫ぶ両親の姿は見るに堪えないものがありますね。
ヒロインのワアドはそんな紛争地帯で子供を産み、育てるということがどういうことなのかを率直に伝えていきます。
ワアドが、子供より先に死ねる母親は羨ましいと言ったのが特に印象的でした。子供より先に死ねたら自分の子供の遺体を埋める必要がないからだです。それは彼女がいつ自分の娘を埋めることになるか、と常に不安を抱えている証拠でしょう。
部外者からすると、なんであそこまで危険を冒してアレッポにいるのか到底理解に及ばないです。子供育てる環境じゃないでしょって思っちゃうんだけど、どんな状況であっても家族を持って幸せになりたい、という人の気持ちは変わらないんでしょうね。
単純にもっと安全な場所に逃げようよって言いたくもなりますが、やはり使命感が尋常じゃないんですね。もしかすると、それは彼らの持つ、死生観や宗教観ともいえるのかもしれません。
自分たちの街から逃げることは、すなわち政府軍に屈したことになる。それは彼らにとっては死ぬことと同じことなのでしょうか。それとも生まれ育った場所に対する愛着が捨てられないのかなぁ。
親戚のところに娘のサワを預け、ワアドとハムザの二人だけアレッポに戻ればいい、という案も出ていたにも関わらず、二人はあえて危険な場所に娘を置いておくことに決めた、というのもなかなか難しい選択ですよね。
どうせ死ぬなら家族一緒に死にたいという気持ちもあったんだろうし、安全になるからといっても生まれたばかりの我が子と離れるのは両親からしたら考えられないことだったのでしょう。
多くの人が死んでいく中、カメラは奇跡的な赤ん坊の誕生も捉えることにも成功しています。
妊娠9か月の妊婦さんが爆撃に遭い、病院に運ばれてきたとき、残された選択肢は緊急帝王切開しかありませんでした。
ところがいざお母さんのお腹から出てきた赤ん坊は真っ白で、息をしていないのは一目瞭然です。心臓マッサージを施しても無反応。まるで生気がありません。
しかし医療スタッフの懸命な処置によって、赤ん坊が泣き声を上げたときには鳥肌が立ちましたね。その瞬間、真っ白だった体に血が巡り、顔色が良くなっていく様子は奇跡としか思えませんでした。
あのシーンだけのためでもこの映画を見る価値は十分にあるんじゃないかな。本当、びっくりした。
一方で「アレッポ・最後の男」のようにひとつのストーリーとして上手くまとまっているかというと、そうでもなかったです。
悲惨は現状は十分に伝わってきたし、貴重な映画であることには違いないけど、編集や構成は少しバラバラな感じがしないでもなかったです。
ラストはハッピーエンドといっていいんでしょうか。てっきりあの流れだと悲劇で終わるのかなぁ、と勘繰ってしまったんですが、ああよかったよかった、といえる終わり方だったですね。いずれにしても最後の最後までヘビーでした。
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