独特で、オリジナリティーに溢れる作品ではあるものの、ストーリー性や娯楽性に欠ける人間ドラマ。大衆向けではないです。35点(100点満点)
退屈な日々にさようならをのあらすじ
梶原は売れない映画監督。恋人から仕事をしていないのを咎められると、映画以外の仕事はしたくないと啖呵を切り、評判のいい別の監督の作品を本人の前で酷評するなど、荒れた生活を送っていた。
そんなある日、梶原は飲み会で知り合った男に目をかけられ、ミュージシャンのPVの仕事を紹介される。しかしPV撮影のロケーションをめぐり揉めてしまい仕事はとん挫する。
一方、双子の兄太郎は地元で父親の家業を畳もうとしていた。彼の弟の次郎はかつて忽然と姿を消し、行方不明になっていた。
次郎は実は東京で映画監督をしていた。梶原がPV撮影のロケーションのことで次郎に電話をかけると、彼はちょうど自殺を図ろうとしていた。
退屈な日々にさようならをのキャスト
- 内堀太郎
- 矢作優
- 村田唯
- カネコアヤノ
- 松本マリカ
退屈な日々にさようならをの感想と評価
「愛がなんだ」「mellow」「知らない、ふたり」の今泉力哉監督による、つかみどころのない、ちょっとシュールな群像ドラマ。
面白い時間帯はあるものの、大部分は退屈で感傷的な会話に終始する作品です。
演技の自然さとキャストの素朴な感じは「愛がなんだ」に通じるものがあって好感が持てます。
それに対し、中途半端に感動路線を行っているようなところがあって、さらに余計な人殺しのエピソードを含めているのが失敗点ですね。
ほのぼのとした平凡な雰囲気の中に自殺や殺人といったネタは全く不必要だし、失踪した末に自殺した次郎を登場人物たちが懐かしんだり、悲しんだりしているシーンに多くの時間を費やしているのが無駄でした。
序盤の出だしは最高でしたけどね。売れない映画監督が同棲中の恋人に格好つけたプライドを見せる下りとか、ベロンベロンに酔った挙句、友人の映画監督の成功に嫉妬して暴れだしたり、分かりやすい負け犬感が出ていて笑えました。
さらに酔っ払った勢いで知らない人のアパートに連れて行かれると、そこには大勢の不思議な女の子たちが待機していたり、シュールで突拍子のない展開も良かったです。
突然、音楽動画の仕事を振られて勢いで引き受けたものの、最後までやり切らないところとかダサくていいですね。監督梶原を演じた矢作優の演技とキャラは素晴らしかったです。
ところが主人公、あるいは物語の視点が映画監督の梶原から双子の兄の太郎に移行してからそれまでの面白さが嘘のようになくなります。
特に中盤から後半にかけてのテンポの悪さは際立っていたし、なにより次郎というほとんどバックグランドが見えてこないキャラクターをめぐって延々と登場人物たちがディスカッションしている風景に温度差を感じますね。
お前たちは次郎の話で盛り上がっても、こっちは次郎のこと知らないっつーのみたいな気持ちにさせられましたね。
映画監督の梶原が中心だったときは笑えるコメディー劇だったのに、太郎次郎のストーリーになってからはシリアスなドラマに変わってしまうのも退屈になった理由の一つです。
今泉力哉監督は脚本づくりが上手く、ユーモアに長けてるの対し、シリアスな話は弱いのが分かりますね。
リアリティーについてもコミカルシーンでは十分なのに、マジなシーンだと辻褄を失うようなところがあって得意、不得意が分かりやすく出てましたね。どうせなら最初から最後までふざければいいのに。
次郎の恋人が太郎たちを訪れる辺りから、もう誰が何をしたいのか分からない非現実的なファンタジードラマの様相を呈していました。
次郎の自殺を最後まで見取り、遺体を山に埋めた恋人が、次郎の地元を訪れて涼しい顔して次郎との思いでを家族と話す様子は不自然でしかないし、最後は家族もそれを受け入れるみたいな終わり方をするのが意味不明です。
この映画で一番いらないキャラが次郎の恋人でしたね。自殺幇助、死体遺棄って結構重い罪だと思うんだけど、誰も警察呼ぼうとしないし、終始警官、または警備員の恰好をしていた次郎の元彼女も何だったのかよく分からなかったです。
上映時間が2時間20分というのもないですね。あの遅いテンポと少ないエピソードでそれだけの時間はどう考えてももたないでしょ。全体的に無駄な登場人物と会話が多かったですね。
ただ、つまらない映画の中にもどこか才能の片鱗を伺わせるところがあるのは事実です。
作風はユニークだし、斬新だし、今泉力哉監督が今後注目していきたい監督の一人であることには変わらないです。
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