すごくいい映画なのに最後の詰めが甘い日本的ファミリードラマ。リアリティーのあるところとないところの差が激しいです。69点(100点満点)
鈴木家の嘘のあらすじ
引きこもりの鈴木浩一はある日、自分の部屋で首を吊って自殺する。下の階で料理を作っていた母親の鈴木悠子が息子に食べさせようと部屋に入ると、変わり果てた息子の姿を見つけ、ショックのあまり手首を切ってしまう。
浩一は命を落とし、母親の悠子は意識不明の重体となり、一生目覚めないのではないかと思われていた。ところが浩一の四十九日の日に悠子は奇跡的に目を覚まし、家族を驚かせた。
悠子にショックを与えないようにと鈴木家の家族は、浩一の死のことを伝えられず、長女の富美がとっさにアルゼンチンで悠子の弟、博の仕事を手伝っているなどと嘘をついてしまう。これが発端となり、鈴木家は嘘を嘘で塗り固めていくことになる。
鈴木家の嘘のキャスト
- 岸部一徳
- 原日出子
- 木竜麻生
- 加瀬亮
- 吉本菜穂子
- 宇野祥平
鈴木家の嘘の感想と評価
野尻克己監督による、自殺した長男と、長男が死んだことを知らない母親を軸に家族の絆を描いた人間ドラマ。
重くて悲しいストーリーですが、その中にもたくさんのユーモアが含まれていて、演技や脚本が素晴らしい、非常にバランスの取れた作品です。
引きこもりの長男が自殺したことで、ショックを受けた母親が記憶を無くし、家族が気を使って母親には長男の死を内緒にしておく様子を面白おかしく描きつつ、その一方でなぜ長男が自ら命を絶ったのかについて鈴家のメンバーそれぞれ答えを探しながら、自分の責任なのではないかと自問自答していく姿をつづっていきます。
家族の誰かが自殺することで生じる遺族のトラウマや葛藤をそれぞれの視点で上手く表現できていて、特にグループセラピーに参加する長女のシーンは見ごたえがありました。
日本でもグループセラピーの文化って根付いているんですかね? 日本人の場合、他人に自分の傷を曝け出したくないっていう感覚が強そうで成立しなさそうなイメージがあるけど、ああやって作り込まれた場面を見せられると、妙に説得力がありました。
長女が手紙を読むシーンにはジーンと来たし、ほかの参加者の話もリアルで、彼らの話から自殺のグロテスクさと、それがもたらす精神的トラウマの深さが伝わってきます。
長女役の木竜麻生はいい演技してましたね。ほかの俳優たちもそれぞれ良かったけど、木竜麻生は、生前そこまで仲が良くなかった兄を亡くした妹という難しい役回りをしっかりこなしていました。
家にいるときと、バレエをしているときのギャップもいいし、髪の毛を束ねてレオタードに身を包んでいるときには色気がありますね。
ほかにも岸本加世子、加瀬亮、あとグループセッションできゅうりの漬物を差し入れするお喋りのおばちゃん役の女優など、わき役たちもいい味だしていました。
それに対し、若干、悲しみを表現するシーンの割合が多いのが気になりました。感動狙いのシーンなんて長女が手紙を読むシーンだけで十分なのに長女が川に入って行ったり、母親が息子の服に触れながら泣き叫んだり、などドラマチックな演出は不要ですよね。
母親が記憶を無くす、という下りはベタだし、長男の死を隠すためにアルゼンチンに行っているなどという嘘もアルゼンチンじゃないとダメだったのかなぁ、という疑問は残りました。
というのも後半、叔父の博がアルゼンチン人の二十歳の子と結婚する、というエピソードがあるんですが、そのアルゼンチン役にブラジル人の女の子を起用してるんですよ。
それでブラジル人の女の子にタンゴを踊らせて、スペイン語じゃなくて、なぜかポルトガル語を話させるっていうね。なんだよフランシスカって。日本人にチャイナドレスを着させて、中国人役をさせたのに、セリフは日本語みたいな話だからね。そんなことしたら怒られるぞ、まじで。
それなら脚本をブラジルにしたらよくない? なんであえてアルゼンチンなんだよ。
「監督、すみません、アルゼンチン役のいい子が見つからなくて、ブラジル人ならたくさんいるんですけど」
「じゃあ、ブラジル人でいいよ。アルゼンチンもブラジルも同じだよ。どうせ分からねえんだから。大泉にいって適当な子を見つけて来い!」
こんなことを言ってそうで怖いです。それと同じことを外国映画で日本人役でやられたら冷めるでしょ?
今の時代、どこで誰が見てるか分からないんだから、ああいう細かいところまでちゃんとやって欲しかったですね。いい映画だけにすごくもったいないし、あの下りだけでマイナス10点です。
あと、風俗の下りもいりますかね? 引きこもりっていう設定なのに風俗には行くって元気じゃねえかよって思っちゃいましたね。
それもお気に入りの子がいて、その子に保険金まで残すってそりゃないわー。さらに保険金の受取名が源氏名のイヴちゃんって、本名も知らねえ奴に大金残すなよ。それじゃあ受け取れねえだろが。
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