容易に感情移入できてしまう家族物語。アイラブユーで全てを済ませる、そんじょそこらのハッピーエンド映画とは一線を画した力作です。74点(100点満点)
ワイルドライフのあらすじ
1960年、ジェリーとジャネット夫婦は息子のジョーを連れてモンタナ州グレートフォールズに引っ越してきた。ジェリーはいつも仕事を転々とし、その度に家族は引っ越さなければならなかった。
ゴルフ場で使用人として働いていたジェリーは、ある日客に馴れ馴れしく接したことをボスにとがめられ、首になってしまう。
別の日になるとボスは首を撤回し、仕事に復帰してくれるように電話をかけてきたが、プライドを傷つけられたジェリーはその話を断ることに。
しかしジェリーに簡単に就ける職はなく、妻のジャネットはスーパーのバイトでもいいからとりあえず何かやったらどうかと提案する。ジェリーはそれを子供がやるような仕事はやりたくないし、そんな仕事をするためにここに来たわけじゃないと一蹴する。
仕方なくジャネットは家計を助けるためにスイミングスクールで働くようになり、14歳のジョーまで写真屋でバイトをすることになる。
そんな中、ジェリーは山火事を消すための現場労働者になると言い出す。山火事の労働者は低賃金で長期間拘束される肉体労働者に過ぎなかった。
命の危険もあり、給料も安いことからジャネットは猛反対する。ところがジェリーはジャネットの反対を押し切って山に行ってしまう。次に帰ってくるのは雪が降る頃だという。それを機に夫婦の中は冷めていき、家庭が崩壊へと向かう。
ワイルドライフのキャスト
- キャリー・マリガン
- ジェイク・ギレンホール
- エド・オクセンボールド
- ゾーイ・マーガレット・コレッティ
- ビル・キャンプ
- ダリル・コックス
ワイルドライフの感想と評価
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、「プリズナーズ」、「それでも夜は明ける」などに出演した俳優ポール・ダノの初監督作品。リチャード・フォードの同名小説の映画化です。
10代の多感な少年の目線で両親がぎくしゃくしていく様子を描いた、せつなく悲しい離婚ドラマです。
お父さんが失職したのをきっかけに夫婦の関係がこじれていき、またそれを息子が気づき、どうにか修復したくても、何もできないやるせなさをものすごいリアリティーともに表現していて、登場人物に共感できました。
両親を演じたキャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールも十分素晴らしいけど、それより圧倒的なインパクトを残したのは息子役のエド・オクセンボールドでしょう。
感情を内に秘めたあの演技はなかなかできるもんじゃないですよ。彼は「ヴィジット」にも出ていたみたいですね。
ストーリーを要約すると、次のようになります。
- お父さんが失業する
- お母さんが不安になる
- 失業の身でありながらお父さんが仕事を選ぶ
- お母さんがイライラする
- 仕方なくお母さんと息子が働くことにする
- お父さんは山火事現場の労働者として遠くに行ってしまう
- お母さんは絶望して他の男に走り、離婚を考える
男性目線で見るのと、女性目線で見るのとでは違った印象を与えるであろう話で、夫のジェリーに共感できるか、あるいは妻のジャネットの気持ちを理解できるかで、見方が変わってきそうです。
最初の夫婦関係のターニングポイントは、仕事を失った夫がプライドにしがみつき、なかなか新しい職に就こうとしない下りでしょう。
これは男に限らず、女性にとっても仕事探しにおける人生あるあるじゃないでしょうか。首になった職場からやっぱり戻って来ないかと言われても、なかなか「はい、ありがとうございます」ってならないですよね。
だから「俺はああいう人間たちとは仕事をしない」ってジェリーが言ったのもすごく分かるんですよ。人としての尊厳の問題だから。
一方で家族を養うためには働かないといけないから、妻のジャネットからすればなんでもいいからとにかく仕事をしてくれっていう気持ちも理解できます。
しかしジェリーはからすれば今更バイトみたいな仕事はしたくない。唯一自分にやりがいとモチベーションを与えてくれるのが山火事の現場の仕事で、家族と離れてでもやるしかない、という決意で家を出ていってしまいます。
そこで夫婦に次のターニングポイントがやってきます。夫のジェリーからすれば妻に反対されても、いつもの夫婦喧嘩と同じで、仕事が終わればまた家に戻ってくるから大丈夫でしょ、という考えだったのに対し、妻は夫に捨てられたと思うのでした。
そもそも夫の仕事の都合でド田舎に引っ越してきたのに、自分を置いて出て行ってしまった夫に対し、ジャネットは怒りを通り越して絶望を覚えたのです。
そして意識が他所に向くようになり、ついにはほかの男を探し始めます。やがて町に住む裕福な年増のおっさんを頼るようになり、夫のことを忘れて行くというお決まりのパターンになっていましたね。
浮気といえば浮気だけど、ジャネットがほかの男に走るのも無理はないなぁって思いましたね。男の僕から見ても、あの状況で彼女は責められないです。
夫はほとんど連絡もせず、家族をほったらかしにしてたわけだし、その間夫婦の会話もなかったわけだし、ジャネットが捨てられたと考えても仕方がないでしょう。
しかし息子のジョーからしてみれば、お母さんが日に日に化粧でケバくなっていく姿は見たくないでしょうね。だってセクシードレス着て踊り出しちゃうんだもん。
それに浮気をするにしても、息子に気づかせちゃだめだよ。ジャネットは浮気相手の家に息子を連れてディナーを食べに行ったりして、あろうことか息子の前でキスとかしちゃってたからね。あれは息子からしたらきついぞ。お母さんがお父さんじゃないほかの男とキスしてるって。
僕の友達は、ある日夜遅く家に帰ったらお母さんが別の男性と浮気していたらしく、以来その出来事がものすごいトラウマになったそうです。そんでもって「お父さんにこのこと話したら、お母さん自殺するからね」って言われたんだって。ホラーかよ。
ジャネットしかり、僕の友達のお母さんしかり、親が子供の目を気にしなくなったら終わりですね。
子供にとってはできればそんなトラウマは御免だし、両親にはせめて自分の前だけでも節度を保ってもらいたいところです。
息子のジョーはしかしあまりにもできすぎた子で、散々両親が暴走しても、お父さんのことも、お母さんのことも責めないんですよ。
普通だったらどっちかの味方をしそうなもんだけど、ずっと控え目で距離を取っていて終始優しいんだよね。その優しさが余計に悲しかったです。
たかだが14、15歳の少年にそんなふうに気を使わせている親ってバカだし、でもどうにもならない状況が苦しくて見ていられませんでした。
両親が仲良くしてくれるのが息子にとっては一番なんだけど、なかなかそうはいかないのが現実でダメな親もまた同じ人間で、男であって、女だからねぇ、と思わせる内容でした。
ラストシーンは素晴らしいの一言です。
ジョーにとっては両親の関係が崩れようと、二人が親であることには変わりがありません。それならせめて写真に家族三人でいるところを収めておきたいという気持ちには痺れました。ジョーの最初で最後のわがままがあれってどんだけいい息子なんだよ。
コメント
映画男さんの2019年ランキングに載っていたのでついさっき見ました、おかげでこんな素敵な映画を見ることができました、ありがとうございます!
ポールダノは好きな役者ですが、こんなにも素晴らしい映画を作れるということに驚きました、キャラクターに共感できるのでのめり込んでしまうほどの面白さがありました
この映画や「ドン・ジョン」などの男性目線、女性目線で印象が変わるような映画が好きなので何か他におすすめがあれば知りたいです
いつもありがとうございます、これからも映画男さんのおすすめどんどん見ていきます!
これ、面白いですよね。気に入っていただけて嬉しいです。男性目線、女性目線で印象が変わる映画が結構ありますが、ちょっとすぐには思いつかないですねぇ。過去に紹介した映画を見たらなにか出てくるかもしれないので、チェックしてみてください。
分かりました!ありがとうございます!