コメディアンを目指す若者が暴走していく様子を描いた怖くて、気持ち悪くて、笑える映画。今見ても楽しめます。68点(100点満点)
映画キング・オブ・コメディのあらすじ
コメディアンを志すルパート・パプキンは、有名コメディアンのジェリー・ラングフォードに付きまとい、猛烈に自分を売り込もうとする。
ルパート・パプキンはジェリー・ラングフォードの車に強引に乗り、なんとか自分のスタンドアップのコメディのテープを聞いてもらう約束を取り付けることに成功した。
これで気を良くしたルパート・パプキンはそれから毎日のようにジェリー・ラングフォードの事務所を訪れ、彼と直接会おうと試みるが、受付や秘書にはほとんど相手にされず、あまりのしつこさから警備員につまみ出されてしまう。
それでもルパート・パプキンはジェリー・ラングフォードに会って彼の番組に出演させてもらうまでは決して諦めようとしなかった。やがてルパート・パプキンは手段を選ばず、自分を売るために危険な行動に出る。
映画キング・オブ・コメディのキャスト
- ロバート・デ・ニーロ
- ジェリー・ルイス
- ダイアン・アボット
- サンドラ・バーンハード
- シェリー・ハック
- トニー・ランドール
映画キング・オブ・コメディの感想と評価
読者のNomadさんのリクエストです。ありがとうございます。
「タクシードライバー」、「カジノ」、「沈黙 -サイレンス-」、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、「アビエイター」などで知られるマーティン・スコセッシ監督によるブラックコメディ。
お笑い芸人志望の男が、人気芸人に憧れてストーカー行為をし、彼の番組に出演してなにがなんでも成功しようと試みる狂人の物語です。
ロバート・デ・ニーロ扮する主人公ルパート・パプキンのキャラがあまりにも気持ち悪くて、突き抜けているせいか、怖さを通り越して、好奇心をそそり、笑えるのがすごいです。
ルパート・パプキンは自分の目的にしか目がいかず、他人の迷惑や気持ちは一切考えない超ポジティブ人間です。
自分の要求を何度断られても、前向きに捉え、チャレンジし続けます。よく言えばメンタルが強く、悪く言えば精神異常者で、今の時代なら普通にストーカーや迷惑行為として逮捕されるレベルのことを平気でやってのけます。
憧れの芸能人の車に一緒に乗り込み、自分のテープを聞いてくれと言ったり、事務所に毎日押しかけて行っては受付の席に座り込んだり、挙句の果てには招待された態で別荘にまで行き、週末を有名人と一緒に過ごそうとしたり、とやりたい放題です。
そんなルパート・パプキンは全く自分に見向きもしてくれない芸能界に怒りを覚え、ついには冠番組を持つ有名コメディアン、ジェリー・ラングフォードを誘拐する、というのがストーリーの流れです。
ロバート・デ・ニーロが演じていることもあり、ルパート・パプキンのキャラが「タクシードライバー」の主人公とも大分被ってますね。
違う点といえば、会話がほとんど成立しないところで、空想の世界を生きている人間特有のコミュニケーション能力の欠如ですね。
家に帰ると、そこにいない人たちと会話をしたり、テレビ番組に出ている態で話だしたり、かなりやばい奴なんだけど、あれぐらいポジティブで、想像力があって、ぶっ飛んでないとコメディアンとしては成功できない、という皮肉にも感じるところがあって面白かったです。
ルパート・パプキンもぶっ飛んでますが、彼の女友達、マーシャもやばかったですね。いきなり有名人に電話をかけて名前も名乗らず、「私の手紙読んでくれた?」などというところが怖いです。
当然、相手も自分のことを知っているはずだという思い込みの深さと、テレビの中の有名人に本気で恋をしている、こじらせぶりが最高でした。
基本、おっかけとかストーカーとかって暇なんですよね。マーシャにしてもルパート・パプキンにしてもほとんど仕事してなさそうだったし、ルパート・パプキンについては実家でお母さんと暮らしているというダサさがまた良かったです。
一つ気になったのは、時代性もあってか、編集が仕方が粗く、主人公の妄想シーンと現実のシーンがもはや区別がつかなくなっているところですね。それも妄想シーンが急に飛び込んでくるから、急展開が起こったのかと思ってしまうほどで、付いていけなくなるシーンがいくつかありました。
あえてそういう演出にしているといったら、そうなのかもしれないけど、カットにぶつ切り感が出ていて、シーンとシーンがスムーズにつながっていないのは問題でしょう。
あと、ストーリー上の展開でいえば突っ込みどころも多々あります。なんで誘拐犯を警察があんなに泳がせておくのか分からないし、そもそもあんな頭のおかしい奴に番組出演させないでしょ。
また、クライマックスともいえるルパート・パプキンのスタンドアップコメディの下りは、ドン滑りしてくれても良かったですね。
特に彼の喋りは面白くなかったし、あのネタで普通あんなに受けないだろって思っちゃいました。
あのラストも含めて、全ては風刺でブラックジョークだと言われたらそれまでだけど、一度の舞台で大成功できるほど甘くないでしょ。
まあ、そういう突っ込みどころがあったとしても、頭のおかしい人を見て笑えたので、十分に満足です。
映画キング・オブ・コメディのトリビア
別荘のシーンは即興
ルパート・パプキンが彼女を連れてジェリー・ラングフォードの別荘をアポなしで訪れるシーンは、ほとんどがそれぞれの俳優の即興演技によるものです。
ロバート・デ・ニーロはもちろん、ジェリー・ルイス扮するジェリー・ラングフォードの演技もそうなら、中国人支配人の演技もまたほとんどがリアルなリアクションを映したものだそうです。
また、それ以外のシーンでも多くのセリフは即興によるものであることが分かっています。
癌になってしまえ!は実話
ジェリー・ラングフォードが道を歩いているとき、ファンのおばあちゃんに止められ、サインをせがまれ、公衆電話で向こう側にいる親戚と話してくれなどと無茶苦茶なことを入れるシーンがあります。
ジェリー・ラングフォードはもちろん断って、歩き出そうとしますが、そのときおばちゃんは逆上して「癌になってしまえ」などと言いますが、実はあのセリフは実際にジェリー・ラングフォードを演じたジェリー・ルイスがファンから言われた言葉だそうです。ファン怖すぎ。
有名バンドのカメオ出演
ルパート・パプキンとマーシャが街中で口論するシーンではパンクの恰好をした三人の若者がちらっと映ります。
実はあの三人は、英国のバンド、ザ・クラッシュのメンバーであるミック・ジョーンズ、ポール・シムノン、ジョー・ストラマーです。
ダイアン・アボットはロバート・デ・ニーロの元奥さん
物語の中ではロバート・デ・ニーロ扮するルパート・パプキンがダイアン・アボット扮する黒人女性リタ・キーンに接近しますが、実は二人は実生活でも結婚しています。
ちなみに二人は1988年に離婚しますが、ロバート・デ・ニーロはその後も再び黒人女優のグレイス・ハイタワーと結婚します。
監督のカメオ
本作にはマーティン・スコセッシ監督もちょこっとだけ出演しています。彼が登場するのは、ジェリー・ラングフォードが町を歩くシーンでちょうど女性に悪態をつかれたときに横を通る自動車の運転手がそうです。グリーンのバンなので注意すればわかるかと思います。
ちなみにマーティン・スコセッシ監督が「タクシードライバー」でもタクシーの客として登場しています。
映画ジョーカーの元ネタ
DCコミックの悪役を主人公とした映画「ジョーカー」は、実はこの映画をはじめとするマーティン・スコセッシ監督の作品からインスパイアされたと言われています。
ジョーカーもまた売れないコメディアンで、精神に異常をきたしていきますが、そんな背景がルパート・パプキンとそっくりですね。
コメント
リクエスト応答、ありがとうございます!
スコセッシは重厚な雰囲気の映画が多いですが、たまにはこの映画のようなサッと見れて、深く考えなくてもいい作品を出して欲しいですね。あいにく次回作のアイリッシュマンは前者らしいですが。
妄想シーンとの区別がつかないのは、確かにその通りですね。ただそのお陰で、ラストシーンが妄想である可能性が出てくるのも非常に面白いです。「トークは観客に大受けして、獄中で書いた本もヒットした」ってのも彼の机上の空想かもしれないです。
ルパート・パプキンが、レストランで自分のサインを自慢げに彼女に見せるシーンは、ルパートのジョーク演出である上に、現実にもよくいる勘違い野郎を彷彿させるような場面で、現実味がありました。
観たのが結構前ですが、記憶が正しければ、マーシャがジェリーをあんな簡単に解放したのは納得いかないですね。やっとの事で捕まえたジェリーを、うっかり解放してしまうかね、と思ってしまいました。そもそもジェリーを解放する理由はストーリー上なかったですしね。あのままマーシャに監禁されたままでもよかったと思います。まあマーシャがバカなのを演出したのかもしれませんが。
映画ジョーカーにもデニーロがキャストとして出るそうですね。何でもベテランのトークショーホスト役らしいです。この映画のジェリーの役割に似ているのが感慨深いです。
リクエスト&コメントありがとうございます。
ジェリーを解放せず、殺すストーリーにしたらどうだという提案も出ていたみたいですね。監督が却下したそうですが。映画「ジョーカー」がこの映画にどう絡んで来るのか楽しみですね。
面白かったです!
昔の名作と言われる作品はいまいちピンと来ないことが多く、時代のせいかなと思っていましたが、時代に関係なく面白いものは面白いですね。
ルパートの成功はアメリカならあり得そうな話だなと思いましたw
ルパートも不気味でしたが、マーシャはその上を行ってましたね。
あの甲高い声で喚き散らす感じが怖ってなりましたw
これは今の時代にも通じる作品ですね