稀に見る脚本の完成度が素晴らしい邦画。俳優たちの演技もいいし、もっと話題になっていないとおかしい作品です。70点(100点満点)
映画教誨師のあらすじ
受刑者に対し、徳性の育成を目的として教育する教誨師。プロテスタントの牧師である佐伯保(大杉漣)は拘置所を訪れ、悩める死刑囚たちと面会するのが務めだった。
死刑囚たちは男女それぞれの事情、背景があった。一切喋ろうとしない男。お喋りなヤクザ。支離滅裂な女。屁理屈で弁が立つ青年。読み書きのできないホームレス。気弱な父親。
佐伯保は彼らの話を聞きながらも、自分の過去の罪とも向き合い、生きること、人が他人の命を奪うことについて考えていく。そんな中、ついに死刑執行の日がやってくる。
映画教誨師のキャスト
- 大杉漣
- 玉置玲央
- 烏丸せつこ
- 五頭岳夫
- 小川登
- 古舘寛治
- 光石研
- 青木柚
- 藤野大輝
映画教誨師の感想と評価
「ソラからジェシカ」、「ランニング・オン・エンプティ」などの佐向大監督による刑務所ドラマ。
牧師が死刑囚に話を聞くだけのシンプルな設定で成り立っていて、脚本と演技のみで勝負している、知的で質の高い映画です。低予算で作ってあって、できる範囲で最大限のアイデアを活かした感じが出ていて素晴らしいです。
まず、冒頭でいきなりこんなテロップが出てきて、「へえ知らなかったぁ」となりましたね。そんな掴みも良かったです。
「日本の死刑確定者は刑務所ではなく、拘置所内の独房で生活をしている。懲役囚と異なり、原則的に髪型・服装は自由、就労の義務もない。」
つまるところ死刑が確定すると、懲役囚より比較的自由になるっていうのがなんだか矛盾しているようにも思えて興味深いですね。就労の義務もないってすごいな。刑の執行まで働かせればいいのに、どうせ死ぬんだから最後ぐらい緩くしてあげようっていうことなんでしょうか。
さて、そんなテロップから始まる本作ですが、基本的には最初から最後まで大杉漣扮する牧師が、死刑囚と面会をし、彼らと話をしていくうえで反省を促しながら生死について考えていく、という内容になっています。
会話の中からそれぞれの死刑囚が犯した事件の背景が伝わるようになっていて、一人一人のキャラやエピソードが面白いです。
強いて文句を言うなら小川登が演じる気弱な男、小川の話がつまらなかったぐらいで、それ以外の死刑囚の会話にはユーモアがあって聞いてられますね。
中でもものすごいインパクトがあったのは、無差別殺人を犯した青年を演じた玉置玲央の演技です。
目つきは鋭いし、なんでもかんでも理詰めで押してくる面倒くさい若者を上手に演じていました。ほかの映画でももっと見てみたい俳優ですね。
烏丸せつこ扮する関西人のおばちゃんもその辺にいそうなうざキャラで、感情の起伏が激しいのと、支離滅裂なのが笑えます。いちいち、「そんでなんて言ったと思う?」って質問してくるところとかうざくて最高です。
密室で会話をするだけなので、基本演技が上手くないと話にならない映画です。だけど、ちゃんとそれぞれが見ていて自然なレベルにまで仕上げているのは本当にすごいことだと思います。邦画でこのレベルまでに達していることなんてほとんどないからね。
それだけ脚本が素晴らしいということでもあるし、退屈させないように同じ部屋の中でも色々なアングルから撮ったりしていて、かなり気を使っているのが分かります。
ときどき入る拘置所以外のシーンもリフレッシュになるし、ホームレスのおじいちゃんが大雨が降ることを予言する下りとかシュールな要素も取り入れていますね。
映像はあえて古臭くしていて、現代の話のようであって、どこか昔を感じさせるものもあり、あの映像の色合いのせいで人間味がより一層増していました。
仏教のお坊さんではなく、あえて牧師さんにした理由はなんでなんですかね。公式サイトによると、「教誨師の人数は約2,000名であり、そのうち仏教系が約66パーセント、キリスト教系が約14パーセント、神道系が約11パーセント、諸教が約8パーセントとなっている」そうです。
いわば少数派の宗教と絡めているわけですが、映画の題材に関していえば、日本人ってなぜかキリスト教に惹かれるのか、あるいは憧れがあるのか、聖書の引用とか大好きだし、妙なコンプレックスが見え隠れしますね。
マイナーな宗教のほうが話に希少価値が出るという発想なのかもしれませんが、牧師を仏教のお坊さんにしたほうがより日本的になって海外にも売れるそうな気がするけどなぁ。
いい話だし、オリジナリティーがあるだけに、やや「デッドマンウォーキング」など洋画からインスパイアされた感じが出ているのがもったいない気がしました。
これでもうちょっと会話のテンポが速くで、退屈する時間帯が短かったら、言うことないんですけどね。
邦画ってなぜか喋るのすごい遅いか、早口かのどっちかじゃない? シリアスな映画は遅くて、コメディーだと早口みたいなお約束、そろそろ破ろうよ。
しかしそれを踏まえても、十分に面白いし、見ごたえのある作品でした。会話重視の映画が好きな人にはおすすめできます。
コメント
確か2回見ましたが、大杉漣の演技というか顔芸が良かったです。
誰が死刑執行されるんだろうってサスペンス仕立てなのもすごい良かったですね。
密室系の映画って、評論家が褒めてても実際飽きちゃうこと多いですが、これはちゃんと見れました。
会話劇は良し悪しがわかれますよね、これは面白かった。