嘘でしょ?っていう信じられないエピソード満載のシリアルキラーを追う事件もの。全米を恐怖に陥れた実際にあった話です。77点(100点満点)
映画ゾディアックのあらすじ
1969年、自らを“ゾディアック”と名乗る男による殺人が頻発し、ゾディアックは事件の詳細を書いた手紙を新聞社に送りつけてくる。手紙を受け取ったサンフランシスコ・クロニクル紙の記者ポール(ロバート・ダウニーJr)、同僚の風刺漫画家ロバート(ジェイク・ギレンホール)は事件に並々ならぬ関心を寄せるが……。
シネマトゥデイより
映画ゾディアックのキャスト
- ジェイク・ジレンホール
- マーク・ラファロ
- ロバート・ダウニー・Jr
- アンソニー・エドワーズ
- ブライアン・コックス
- ジョン・キャロル・リンチ
- イライアス・コティーズ
- ドナル・ローグ
- クロエ・セヴィニー
映画ゾディアックの感想と評価
「Mank/マンク」、「セブン」、「ゲーム」、「ファイト・クラブ」、「ソーシャル・ネットワーク」、「ドラゴン・タトゥーの女」、「ゴーン・ガール」、「ベンジャミン・バトンの数奇な人生」、「パニック・ルーム」でお馴染みのデヴィッド・フィンチャー監督による、未解決事件をテーマにした実話ベースのサスペンススリラー。間違いなくデヴィッド・フィンチャー監督の最高傑作です。
新聞社で風刺漫画家をしていたロバート・グレイスミスが書いた同名ノンフィクションを基にしており、そんじょそこらの小説ベースのサスペンス映画とはリアリティーと気味の悪さのレベルが違います。
それなのにまるで推理小説かのような信じられない内容になっていて、まさに「事実は小説よりも奇なり」とはこのことを言いますね。
出演キャストなんて演技派だらけじゃないですか。刑事役はマーク・ラファロ、漫画家役はジェイク・ジレンホール、記者役はロバート・ダウニー・Jr。それに漫画家の妻役としてクロエ・セヴィニーまで出ていますね。その他のわき役たちもみんないいね。
物語は、人気のいない空き地に車を停めて車内で若者の男女がお喋りしているところに突然シリアルキラーが現れるところからスタートします。
犯人の男はカップルに向けて何発もの銃弾を浴びせます。そして二人が死んだのを確認すると事件現場を離れて自ら警察に通報。さらに新聞社に犯人しか知りえない情報を含む犯行声明を送り、ゾディアックと名乗ります。
それからというものゾディアックはカリフォルニア州各地で次々と人を殺しては新聞社や警察署に暗号や事件の証拠を送り、大胆な挑発を続けます。
それに対し、警察がなかなか容疑者を逮捕できない状況を見て、新聞社の記者と風刺漫画家が独自に事件のことを調べ上げ、犯人を特定していく、というのがストーリーのおおよその流れです。
「容疑者Xの献身」でも言いましたが、刑事でもない素人が犯人捜しをする映画って基本嫌いなんですよ。ほとんどの場合、どれも嘘っぽいし、必然性を感じないから。でもこの映画は別です。
ジャーナリストが取材を進めていくうちに犯人を突き止めるというのはある話だし、この映画の場合はジャーナリストではないけれど、記者と近いところにいた風刺漫画化のロバート・グレイスミスが事件と出会い、徐々にのめり込んでいっては最終的に仕事を辞めてまでしてゾディアック事件を一冊の本にまとめている点が興味深いです。
一連の事件がどれだけ人々を魅了しては止まなかったのかが伝わるし、いつからか国民を巻き込んだ推理ゲーム大会のようになり、やがて怪しい宗教のようなカルト性を帯びていくのが面白いですね。
また、これだけ犯人が現場に証拠を残し、さらに手書きの手紙をマスコミに送って筆跡までアピールしているのに全く容疑者を特定できないっていうのが不可解すぎて、挙句の果てにはみんながみんな犯人に見えてきます。
解決できなかったのは1960年代後半から70年代に事件が起こったという時代性もあるのでしょう。インターネットはもちろん、警察署にファックスすらないような時代で管轄外の警察署とは連携がほとんど取れていなかった、という描写までありましたね。そんな時代の警察の捜査はそれはそれはずさんだったはずです。
タクシー運転手が殺されたときには黒人が容疑者だ、という間違った情報が出回り、現場付近にいた怪しい白人の男をみすみす見逃したりと警察のミスも一つや二つじゃなかったはずです。
ただ、それを踏まえたうえでも、あれだけ大胆な連続殺人事件を犯しても捕まらないってなんなんでしょうね。
ゾディアック事件と聞くと、僕は真っ先にグリコ・森永事件を思い出します。江崎グリコ社長を誘拐し、食品会社を次々と脅迫し、挙句の果てにはお菓子の中に毒を入れ、自らを「かい人21面相」と名乗った、あの事件です。あれだけやりたい放題して、あの事件もいまだ未解決。本も何冊か読んだけど、とにかく不思議な事件です。
日本やアメリカに限らず世界中に未解決事件はまだまだたくさんあるんでしょうね。しかしながらゾディアック事件が特殊なのは、大部分の人がたった一人の男を疑っている点じゃないでしょうか。
その男とはアーサー・リー・アレン。被害者と直接面識があり、事件現場の近くに住み、犯行声明がぴたっと止まった期間は、精神病院に収容されていたという偶然が重なりすぎる男。
ちなみにアーサー・リー・アレンはテレビのインタビューにも何度か応じています。
この映画のすごいところは、もはやアーサー・リー・アレンが犯人だろうという前提で描いているところで、よっぽど自信があるのか、あるいはすでにアーサー・リー・アレンが死亡しているからいいでしょ的なノリなのか、いずれにしてもなかなかの暴挙に出ています。
ちなみにアーサー・リー・アレンは心臓発作で死亡し、その後、DNA検査をしたところ現場にあった証拠とはマッチしなかった事実があります。もちろん筆跡鑑定もマッチしてません。
一方で事件の生存者がアーサー・リー・アレンを犯人だと特定したことや、アーサー・リー・アレンが死んだ後は、ゾディアックからの犯行声明もぴたっとなくなるなど、やっぱりそうなんじゃないかって思わせるところもあるんですよね。
一つ言えるのは、ここまで断定して彼が犯人じゃなかったらこの映画も元ネタになったノンフィクション本も本当バカだよね。迷惑にもほどがあるじゃないですか。キャラクター的にはIQが高くて、歪んだ趣味嗜好のあるアーサー・リー・アレンをシリアルキラーにあてはめるのは容易だけど、無実の可能性もあるしね。
とにかく不可解な点が多すぎて、またそれがこの事件を一層不気味にさせています。そのせいかアメリカではゾディアックマニアが結構いるみたいですね。ゾディアックツアーをやっている人とか、事件について語り合うサークルまであるんだって。
ゾディアック事件に関するドキュメンタリーもユーチューブで検索すれば山ほど出てきます。
上映時間2時間半を超えます。普通なら到底見る気になれない長尺ですが、この映画の場合、それも問題になりません。むしろ鑑賞直後にもう一度見ようかなって思うぐらいです。
推理やサスペンスものが好きな人はぜひ見てください。まじで「セブン」なんて見てる場合じゃないから。
コメント
映画男さん、こんにちは。
いつも様々なジャンルの映画のレビューありがとうございます!
『君に読む物語』が大好きな私ですが、この映画も楽しめました!時代背景の見せ方も上手だなぁと思いました。この頃ってシリアルキラーという概念がまだ確立されてなかったみたいですよね。(←Netflixの『マンハント』、『ユナボマー』観た限りの知識です(笑))
森永事件関連の書籍を沢山お読みになっているということで、塩田武士著の『罪の声』も興味深かったですよー。
また色々な映画のレビューを楽しみにしてます。頑張ってください!
楽しんでいただけて嬉しいです。当時はシリアルキラーの概念がなかったっていうのは知りませんでした。罪の声、面白そうですね。
コメント失礼します。
自分はこの映画、終盤に差し掛かるまでは楽しめました。特に街中で聞き込みをしているシーンで「俺の同僚が怪しい」と言い出す輩がいたり、まだ当時解決の道筋すら見えていなかったゾディアック事件をモチーフにした「ダーティー・ハリー」の上映会のシーンがあったりなど、国家規模で推理ゲームが行われてる様子が描かれてて、本当に一世を風靡したんだなと感じました。
ただ、映画マニア(ゾディアックと同じ筆跡のポスターの作者)のくだりから話の軸がずれ始めた気がして止みません。この映画ではゾディアックの正体は分からないからこそ魅力的なのに、最後は「この映画マニアの二人組が犯人で濃厚!地下室もあったしね!」と言い出したかと思えば、「犯人はアーサー・リー・アレンで濃厚!被害者もこいつの顔に見覚えがあるってよ!」と、ミステリーとして軸がブレたような印象を受けました。個人的には正体については答えがない方が良かったかなぁ…と。
映画男さんは映画マニアのくだりについてはどう思いましたか?
あの下りは、事件にのめり込んだばかりに怪しい人全員が犯人だと思ってしまう、という表現だったんでしょうね。でも確かにポスター作者を疑ってから、アーサー・リー・アレンに乗り換えるのが早すぎでしたよね。ポスター作者とリック・マーシャルのことをもっと掘り下げても良かったかなと思います。
なるほど。グレイスミスが事件に執着し過ぎたことを暗示してたのですね。