笑いあり、感動あり、暴力ありの完成度の高いエンタメヒューマンドラマで、自信を持って人に勧められる映画です。77点(100点満点)
映画犬猿のあらすじ
印刷会社で営業を担当している金山和成(窪田正孝)は、刑務所から出てきたばかりの乱暴者の兄・卓司(新井浩文)を恐れていた。
一方、幾野由利亜(江上敬子)と、芸能活動をしているおバカな妹の真子(筧美和子)は、家業の印刷工場を切り盛りしていた。兄弟と姉妹の関係は、あるときから変化し始め……。
シネマトゥデイより
映画犬猿の感想
「さんかく」、「ヒメアノ~ル」、「机のなかみ 」、「愛しのアイリーン」、「麦子さんと」、「BLUE/ブルー」、「空白」の吉田恵輔監督による訳ありな兄弟と姉妹を描いた愛憎ドラマ。
脚本、演技、演出のバランスが良く、キャスティングがばっちりはまっている、稀に見る質の高い邦画の群像劇です。
セリフが自然で笑えるシーンが多々あるし、かといってただのコメディーで終わっておらず、バイオレンスや家族ドラマの要素も含んでいて、レベルの高いエンタメ映画に仕上がっていました。
物語は、やくざ者の兄と真面目な営業マンの弟、そしてデブでブスだけど仕事のできる姉と可愛くて胸は大きいけどほかに何のスキルもない妹といった二組の関係性を描いていきます。
刑務所から出てきた兄卓司は弟和成の家に半ば強引に住み始め、弟を幾度となくトラブルに巻き込みます。
そんな兄を和成はできるだけ避けようとしますが、怖いこともあり、なかなか関係を絶てずにいます。
印刷工場を経営している姉由利亜は、売れない芸能人である妹の真子を雇い、面倒を見てあげるものの仕事を覚えないだけでなく、何かと自分に反抗してくる妹をうとましく思うと同時に男性受けのいい彼女に強い嫉妬を抱きます。
そんな姉に対して真子は意図的に嫌がらせをしたり、姉の好きな男に色目を使ったりして仕返しします。
まるで正反対の兄弟と姉妹。日頃からいがみ合いが絶えない彼らですが、ある事件をきっかけにお互いの関係性を見つめなおすことになる、というのがストーリーの流れです。
違う家族である兄弟と姉妹のシーンを平行して映していく手法が面白く、終盤にはちゃんと二組が交差するように作ってありました。
MVPは間違いなく姉由利亜を演じた、女芸人江上敬子でしょう。意外な才能を発揮しましたねぇ。芸人より、女優のほうが向いてるんじゃないのかなぁ。
いますよね、ああいうお母さんみたいなお姉ちゃんって。絶対子育て経験あるだろっていうぐらいてきぱき家のこともやって、介護もこなし、バリバリ仕事もする苦労人。
絶対いいお母さんになるだろうなあっていう子なんだけど、いつも外見で損してしまうタイプね。
それでコンプレックスのせいで性格がどんどん捻じれていき家族思いなんだけど、妹だけには嫉妬全開できつく当たってしまうところなんかがリアルでした。その役に江上敬子はぴったりはまってたし、大いに笑わせてもらいました。
ただ、あの踊りのシーンは若干、滑ってたけどね。あれは「SING/シング」のブタのオマージュシーンですね。
それ以外の窪田正孝や新井浩文もよかったし、わき役の俳優たちもそれぞれ素晴らしいパフォーマンスを見せています。筧美和子はちょっと危なっかしかったけど、周りに救われた感があります。
それにしても脚本が見事でした。セリフに無駄がないし、見ていて暇にならないのがいいです。これだけ面白かったら途中でスマホを覗きたくなることもないでしょう。
ユーモア満載で、バイオレンスもあって、足りないのは色気ぐらいですかね。これで色気があったら最強じゃないかな。
個人的にはブス専の兄と、ブスな姉のベッドシーンがあったらもっと面白くなってただろうな、と思いました。
兄の卓司はいつもすごい醜い女を連れてて、自分でも誰でも行けると豪語してるぐらいなので、いっそのこと由利亜にも手を出してもらいたかったですねぇ。それで由利亜を魅力的に撮れたらもう言うことないんじゃないでしょうか。それこそ芸術だと思います。
コメント
久々の70点オーバー、嫌が応にも期待が膨らみます。
まだ観てないのに、観たような気になってしまうのは何なんでしょうか。
観終わって納得でした。
大半、笑わせてくれて、必要にして最小限の教訓を散りばめてあり見事でした。
救急車の中の告白シーンなんか、ややもすると押し付けすぎられて白けるところを、さっと切り上げてくれてよかったです。
僕としては終始無言でもよかったぐらい、演技と回想シーンだけで言わんとするところが分かったんじゃないかと思います。
それにしても、お姉ちゃん役の女優(じゃないのあの人?)いい演技ですよね。
お姉ちゃんが救急車で運ばれてるときの表情とかすごかったですよね。尊敬しました。
自分に足りないものを持ってる兄弟を疎ましくも思っちゃうんだけど、他人の口からバカにされるような発言を聞くとムッとしちゃうのがすごくリアルだなあと思いました。実際に兄弟がいることもあって2割増くらいで楽しめた気がします。
同じく吉田恵輔監督の「空白」も好きな作品です。
空白、機会があったらみてみます。