色気と、怖さと、ユーモアが融合した大人の夜の冒険ファンタジー。トム・クルーズの演技はいいし、ビジュアルは文句なしの出来だし、脚本にもこだわりを感じさせる作品です。80点(100点満点)
アイズワイドシャットのあらすじ
ニューヨークの開業医ビルとアリスの倦怠期を迎えている夫妻は、ビルの患者で友人のジーグラー夫妻が開いたクリスマス・パーティーに招かれる。
このパーティでビルはピアニストであり旧友のニックと再会し、アリスはビルと別れて個別にパーティーを楽しむことにしたが、ビルは女性たちに誘惑され、一方でアリスはハンガリー人の紳士に誘惑される。
その後、マンディという若い女性がドラッグを吸引し倒れてしまう。ビルの適切な処置でマンディは一命を取りとめたが、ビルはジーグラーによりこのことを口止めされた。翌晩ビルとアリスはふとしたことから口論になる。
そこへ患者のネイサンソンが急死したという知らせが入り、ビルは患者の家へ向かう。しかし、その道中で、ビルはアリスが海軍士官に抱かれているという妄想を抱き、懊悩する。
wikipediaより
アイズワイドシャットの感想
小説「夢小説」を原作とした、「2001年宇宙の旅」、「フルメタル・ジャケット」、「ロリータ」、「時計じかけのオレンジ」、「シャイニング」、「博士の異常な愛情」などで知られるカルト的な人気を誇るスタンリー・キューブリック監督の遺作。
終始怪しく誘惑的な雰囲気をかもしていて、いい体をした妖艶な女ばかり登場する男性視聴者に優しい官能スリラーで、キューブリック監督の作品の中では一番好きです。
トム・クルーズとニコール・キッドマンが夫婦だった頃に夫婦役で出演したのが話題になり、この映画をきっかけに離婚したとまで言われる、いわくつきの作品でもありますね。
こんな世界あるのかなぁって想像を駆り立てる演出が素晴らしく、ドキドキワクワクが止まりません。
見ごたえのあるシーンも多いし、色気もたっぷりだし、それぞれのエピソードがしっかりつながっているため2時間半を超える長尺でも許せます。
不気味さと、怖さもあるんだけど、その中にちょっとしたユーモアも含まれていて、キューブリック監督の作品の中では唯一笑えるのがこれかもしれません。
テーマはずばり性への執着と嫉妬。物語は、倦怠期の夫婦がセレブのパーティーに行き、お互いに羽目を外しそうになりながら踏みとどまるも、パーティーの出来事がきっかけで嫉妬と不満と秘密を打ち明け、崩壊の危機に陥っていく様子を描いていきます。
話が夫ビルの目線で進んでいくことを考えても、男が妻の不貞心に刺激されて、俺だって浮気してやるーと意気込みながら夜の街を徘徊し、秘密のパーティーへと誘われていく、揺れる男の心情を描いた物語と言ってもいいんじゃないでしょうか。
ビルは金持ちの医者であり、ハンサムだということもあってか登場人物の女たちはやたらと彼を誘惑してきます。
妻以外の相手と寝るチャンスは次々と向こうからやってくる。でもその度に邪魔が入って、ビルはなかなか一線を越えられません。
考えようによっては結構なジラし映画で、もういい加減一線越えろよって思っちゃうんですが、まさかこれって今日やれちゃうやつ?っていう色々なシチュエーションを投入してくれるので、男のスケベ心は数日は満たされるはずです。
これを見て、「秘密クラブ 入りたい」とか「仮面パーティー どこ?」とかで検索してる奴いますよ、絶対。
あんなパーティーあるならぜひ行きたいわーって思わす、ビジュアルと世界観を創り上げたのはすごいですよ。
ニコール・キッドマンがガチで脱いでいる姿を含め、女優たちの体が綺麗でみんなセレブ感溢れていますね。彼女たちを照らすライトの加減も絶妙で、色っぽさを越して芸術的な肖像画のようでした。
でも女性から見たらどうなんだろう。これに色気を感じるんだろうか? それとも欲望に駆られて街をさまよう男を滑稽に思うのかなぁ。女性の意見も聞きたいですねぇ。
一番の見所はなんていってもビルとアリスの口論のシーンでしょう。アリスは酒を飲んでいたせいもあって、夫に普段から抱え込んでいた思いをぶちまけます。
そこであろうことか昔すれ違っただけで一目惚れした軍人とのささいなやり取りを明かし、彼に抱かれるためなら夫も娘も捨てるつもりだったなどと仰天のカミングアウトをするのでした。
それを聞いたビルが動転して固まるんだけど、あのトム・クルーズの演技は凄いの一言です。あの二人の言葉の掛け合いのためにこの映画を見る価値は十分にありますよ。
最後の締めくくり方は、危機を乗り越えた安っぽい夫婦ドラマのようになっていて僕的にはあそこはどうでもいいかな。
夫婦愛を描いた物語とも取れるけれど、解釈やオチはどうであれラストにたどり着くまでに上質な大人の冒険を見させてもらったおかげでお腹一杯になりました。
最後のセリフが「ファック」で終わるのもキューブリック監督なりのユーモアでしょうね。
”夢”から目覚めた倦怠期の夫婦に今すぐ必要なものが何かって言われたら「ファック」の一言でまとめちゃうっていうね。遺作の最後のセリフがそれっていうのも洒落てますねぇ。
アイズワイドシャットのトリビアの解説まとめ
キューブリック監督はコアなファンが多いため、どの作品にも様々な解釈、隠しメッセージ、陰謀説などが飛び交い、話が膨らむ傾向にあって、そのおかげで大分助けられてる感がありますよね。この作品も決して例外ではないです。
僕は秘密結社やイルミナティーといった話題にはそれほど惹かれないけれど、なるほどなぁと思わせるファンセオリーは嫌いじゃないです。ではここで本作のトリビアをいくつか紹介しますね。
キューブリックのカメオ
劇中、スタンリー・キューブリック監督本人がちらっと登場しています。そのシーンとはビルが夜遅くにふらっと入っていくジャズバーの下り。
バーの中ではニック・ナイチンゲールがピアノを演奏しています。その観客の中に紛れているのが監督本人です。
舞台はニューヨークなのにロンドンで撮影された
物語の舞台はニューヨークという設定ですが、ほとんどのシーンはロンドンで撮影されたそうです。
そのためトム・クルーズとニコール・キッドマンはわざわざロンドンに引っ越して撮影に応じたそうです。撮影期間があまりにも長かったため、そうせざるを得なかったものの、スタンリー・キューブリック作品に出るためにはそこまでする二人の気合の入り方もすごいですよね。
本当は24分長かった
本作は2時間半を超える長尺映画として知られますが、実は本当はさらに24分長かったそうです。
仕方なくアメリカの視聴者向けに短くしたのが日本でも公開されているバージョンなのに対し、欧州バージョンはカットされたベッドシーンなどが多く追加されています。つまり欧州バージョンのほうが色っぽいということです。
音楽が逆
秘密の仮装パーティーで儀式のときに流れていた怪しげな音楽。あの曲は実はもともとある宗教ソングを逆から流したものです。
何語か分からない言語が話されているようで、あれは逆演奏だったんですね。ちなみにオリジナルの曲はルーマニア語だそうです。
こちらがオリジナル。
アリスには全部見えていた
アイズワイドシャットのポスターには上の画像のように夫婦二人がキスしているシーンが使われています。
よく見ると、鏡の中に二人は収まっていて、アリスだけは目を大きく開けてコチラを見つめています。
アリスの目だけは「eyes wide shut(大きく目を閉じている)」のではなく、「eyes wide open(大きく目を開けている)」状態です。
この画像が暗示しているように何でもお見通しといってもおかしくないほど、アリスには様々なことが見えています。
例えば、物語の冒頭でビルが自分の財布を探しているシーンで、アリスは見なくても夫の財布がベッドのサイドテーブルの上にあることを分かっています。
ビルが娼婦の家に行っていざ行為を始めようとしたとき、アリスは絶妙のタイミングで電話をかけて中断させます。もしあのとき止めていなかったらビルはHIVに感染していたかもしれません。
ビルが仮装パーティーから帰ってきたとき、アリスは夢の中で仮装パーティーで起こった出来事を見ていました。
それはまるで五感を超えた六感のようで、キューブリック監督の「シャイニング」に登場するダニーの能力と似たものがあります。
レインボー
物語の中で「虹」がある種のキーワードのような感じで使われています。冒頭のセレブパーティーのときビルは二人の女の子に誘惑されます。ビルがどこに行くつもりだい?と聞くとその一人がビルにこう言います。
「Where the rainbow ends 虹のふもとに(行くのよ)」
誘惑の先にある虹は、どこか別の世界への入り口や架け橋のようなイメージを与えますね。
ちなみにビルが仮装パーティーの衣装を借りに行く店の名前は「Rainbow(虹)」です。
「虹」という名の店で変装し、いざ向こうの世界へと旅立って行くビルにはその後起こる恐ろしい出来事について知る由もないんですが。
ビルはマンディーに二度助けられた
冒頭のセレブパーティーでビルが二人の女性に腕を引かれて別室(虹のふもと)へと連れていかれようとした際、ビルの足を止めたのはマンディーという女性が麻薬の過剰摂取で意識を失った事故です。
医者であるビルはマンディーのものとに駆け寄り、なんとか彼女の意識を取り戻すことに成功します。もしこの事故がなければビルはおそらく二人の女性と別室へ行って浮気をしてしまったことでしょう。
また、もう一つの仮装パーティーのほうでもビルの命を救ったのはマンディーでした。マンディーは何度もビルに危険を知らせ、最後は自らの命を捧げてビルを助けたのです。最初のパーティーでは無意識に二度目のパーティーでは意識的にビルを救ったのです。
夢
原作が「夢小説」であることもあり、「夢」も一つの重要な題材になっていますね。まるでビルが体験する一夜の出来事は全て夢かのような非日常を映しています。
考えようによっては最初のパーティーは現実の世界、仮装パーティーは夢の世界を映していると言えなくもないです。現実と夢を鏡で照らし合わせたような物語。
お互いの世界が交差し、リンクし合っているストーリーの中ではどれが本当でどれが夢の出来事だったのか登場人物ですらちゃんと理解していないようでした。ラストシーンでの夫婦の会話は夢から覚めた二人のそんな心境を描いていたのでしょうか。
コメント
アイズワイドシャットのいい感想を初めてみました。
私的には、正直意味不明全く面白くなかったと言うのが正直な印象です。
しかし、オープニングのバスルームの夫婦のやりとり、微妙に意思疎通がすれ違う感じとかは他の映画にはないのではないのでしょうか、勿論2人の演技がうまいということもあるかと思いますがキューブリック監督の細かい演出がさえていただのかなと思います。
この映画24分長いとのことですが、それを切ったのは本人のたっての意向とのこと(当たり前ですね)、元々ロードショーされてても平気で編集作業を進める方のようですから、生きていたらこの映画も短くなったり、長くなったりしたのではないでしょうか。
あのシャイニングも長いバージョンから、公開後いきなり医者の診断シーンの部分を切り短くしてしまい映画関係者から苦情がきたと言うことを何かで読みました。(長いバージョンのDVDが高値でやりとりされてますが、因みに私は持っているのですが確かに亡くてもいいかという感じです。と言うか分からない)
キューブリックは元々ポルノ映画を撮りたいという意向も持っていて、奥さんに猛反対され断念したとのこと、私の知人はこの映画を観て一言、「あれ、完全なポルノ映画だろ、でも驚くくらい見入ってしまう」と言ってました。
そのような感想を持つ人がいたということは、キューブリックのこの映画は成功だと思います。
近いうちに再度見て見ようと思います。
たらたらと長くすいませんでした。
意味不明で面白くない、という人がいても不思議じゃないです。キューブリックは当たりはずれ、好き嫌いが激しく分かれますもんね。
期待しすぎてみてしまって、意味不明というのが率直な感想です(笑)
不気味さとエロスさと、次はどうなるんだろうという好奇心で、ドキドキしながら、どこか異次元な世界を見ているようでした。
ビルが1度でも他の女性と浮気をしていたら、命が無かったというのは男として怖かったです。
トム・クルーズはマグノリアの時も思いましたが、良い演技をしますね。アクションよりももっと演技が映える映画に出て欲しいというか、見たい俳優です。
最後のファック!という言葉がとても印象的で頭から離れません。