シリアのクルド人街に住む女子大学生ラジオDJと地元の人々の様子を追った記録映画。話を70分程度にまとめてあるのでとても見やすいです。66点(100点満点)
ラジオ・コバニのあらすじ
シリア北部のクルド人街コバニは、2014年9月に過激派組織ISによって占領されるが、クルド人民防衛隊が猛反撃に出ると同時に連合軍も空爆支援に参加し、翌年の2015年1月に解放される。
住民たちは戻ってくるが、戦闘の影響で街のほとんどががれきの山と化していた。その状況下で、20歳の大学生ディロバン・キコさんは友人とラジオ番組をスタートさせる。
シネマトゥデイより
ラジオ・コバニの感想
レバー・ドスキー監督による、クルド人が多く住むシリアの街コバニを舞台にした戦争ドキュメンタリー。
「アレッポ・最後の男」が悲劇へと向かう話なら、こちらは希望の光をかざして終わる前向きな話です。
あれだけ滅茶苦茶な情勢の中、シリアでドキュメンタリー映画を撮ればドラマチックにならないはずがないですよね。
主人公となるのは友達とラジオ番組を持っている大学生のディロバン・キコ。過激派組織ISの攻撃を受け、廃墟と化したコバニで彼女は電力もろくに通っていないような環境でラジオを始めます。
カメラはISとの激しい戦闘の模様、瓦礫の中から取り出される焼けた死体、難民キャンプで生活する家族、戦火の中、逞しく生きる子供たち、そしてDJとして地元の人々をインタビューするディロバン・キコを映していきます。
正直、もっとラジオ番組の様子を中心に話が展開していくのかと思っていたんですが、ラジオはおまけ程度で実際はコバニの街や人々の状況と戦争の中でも前向きに生きるディロバン・キコを追っています。
序盤は数々のつらい戦争体験を聞かされるせいで悲しみと苦しみで埋め尽くされた絶望の雰囲気を嫌でも感じるはずです。
それに対し、コバニがISの侵略から解放されたのを機にトーンが変わっていき、別の場所に避難していた人々は次々と街に戻り、インフラ整備は復旧し、商店のシャッターは上がり、人々に笑顔が戻っていく状況には希望を抱くでしょう。
クルド人の街ということもあってか、同じアレッポ県の話でも「アレッポ・最後の男」に映される環境とはまた全然違う印象を受けました。
あくまでも印象ですが、コバニには若い女性が多く、また彼女たちは顔も隠さず、ジーパンやトレーナーといったラフな格好で過ごしているんですね。
戦士の中には女性兵士もたくさんいて、若い女性が機関銃をぶっ放しながら笑顔で「ISをやっつけたよ」とか言っている姿は衝撃的でした。
おそらくまともな訓練を受けていない兵士もいるのでしょう。中にはマシンガンの持ち方すら危なかっしい女性もいたります。いずれにしてもタフでワイルド。
捕まったISの戦士は「コバニの人々は信仰心が薄い。イスラムの教えに逆らう者は我々にとって敵だからコバニを攻撃したんだ」などと言っていたんですが、あの辺の民俗・宗教観、価値観の違いは複雑すぎて、日本人には到底理解できる範疇じゃないですね。
しかしISの兵士もクルド人の兵士も女性や子供を殺すことに対しては強い背徳感を覚えるようです。
なんでもありの戦場においてもその点ではお互いの価値観が一致しているのはなかなか興味深かったですね。
ISの兵士でさえ、「女性や子供を殺すことがイスラムの教えなのか?」と質問すると急に言葉を詰まらせます。
クルド人のスナイパーは何人もの子供のIS兵士を殺し、その子たちの夢を見ると言います。
そんな彼らを見ていると、彼らにとってはもはや成人男性を殺すのは全く問題ないのかなぁと思っては逆に怖くなっちゃいましたね。戦場での男の命の価値低いんだなぁ。
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