自分の兄を殺された女性監督が撮った、アメリカの根強い社会問題を浮き彫りにする、ドキュメンタリー映画。全体的に苦しくて、悲しくて、やるせない内容です。55点(100点満点)
ストロング・アイランドのあらすじ
殺された兄、無罪放免となった犯人、残された家族の深い悲しみ。ヤンス・フォード監督が、実兄が犠牲となった殺人事件と、その根底にある人種差別を鋭く描き出す。
NETFILIXより
ストロング・アイランドの感想
アカデミー賞ドキュメンタリー部門のノミネート作品で、自分の兄を殺害されたヤンス・フォード監督が自ら家族や関係者らをインタビューして撮った記録映画。
アメリカで黒人として生きること、不当な警察の扱い、理不尽な裁判、家族を失くした苦しみなどを取り上げた、悲しくもやるせない話です。
ヤンス・フォード監督はフォード一家のバックグランドを掘り起こすためにまずは母親のインタビューからスタートします。
母がいかにして父と知り合ったのか。やがて二人は結婚し、ニューヨークに移り住み、家庭を築いていったことを母の言葉から振り返っていきます。
事件が起きたのはフォード家の子供たちもすっかり大きくなり、家族がロングアイランドの郊外に引越してからのこと。
ある日、兄ウィリアンが車でハイウェイを走っていると突然トラックに衝突されます。トラックは車の修理屋のもので、運転手は警察に通報しなければ、車の故障は自分が直すと約束します。
ところが事故扱いにならなかったのをいいことに修理屋側は約束を反故にしようとしてきます。それを機に店とフォード家がトラブルになります。
ある晩、ウィリアンは友人と修理屋のガレージを訪れます。そこで店員の一人と口論になり、ライフルで撃たれ、命を落としたのです。
しかしウィリアンを撃った店員は現場で警察から手錠をかけられることもなく無罪放免に。裁判になっても一般市民から選ばれた陪審員による判決で正当防衛が認められ、理不尽な結果に終わります。
家族を殺されたうえに犯人まで自由の身になった司法や社会に対し、フォード一家は強い憤りと悲しみを感じながら今も生き続けている、というのが話の流れです。
基本的にインタビューオンリーで構成されていて、昔の写真、イメージ映像などがところどころに差し込まれます。一つ気になったのは再現VTRがないことですかね。
そのせいで事件当時の状況、事件が起こるまでの経緯が想像しづらかったです。
もしかすると、監督が視聴者に判断を委ねるために偏見を持たせないためにあえてそうした可能性はありますが、それならそうと加害者や店側の供述も聞かないと説得力に欠けますよね。
加害者がインタビューに応じるとは思えないけど、せめて近い人から話が聞けたらよかったんですけどね。それがないため片方の一方的な意見や証言のみで構成されていて、感情移入するにはちょっと情報が足りなかったかな、というのが正直なところです。
確かにアメリカには黒人差別が根強く存在するし、それによってフォード一家は散々理不尽な思いをしてきたことでしょう。彼らの証言による警察のずさんな捜査や容疑者の扱い方もありえないです。陪審員だって公平に選ばれているとも限らないし。
かといってなんでもかんでも人種差別で片付けられないところが複雑なところです。事件の前にはウィリアンが店で暴れて、掃除機を投げつけるといった乱暴行為を働いてしまってるんですよね。結果、店員は脅されたから怖くなったとかなんでも言えるわけで、それがなければ正当防衛にはならなかったかもしれません。
自分を騙した相手を殴りたくなるのは分かるんですけど、暴力で解決したいのか、お金で解決したいのかがどっちつかずになってしまって、判断を誤ったのが悔やまれます。
そもそも警察にちゃんと事故の届け出を出すべきだったし、訴訟を起こすこともできたし、他の手が考えられなかったのかなぁ、と思うと気の毒ですね。
いずれにしても小さなトラブルが殺人にまで発展してしまうのがアメリカらしいです。そして暴力の犠牲者になった遺族は怒りの矛先をどこに向けていいかも分からず、永遠に消化できないイライラとトラウマを抱えることになるに違いないです。
アメリカの人種差別、警察、司法など様々な問題を取り上げているものの、ヤンス・フォード監督にとってはこの映画を撮ることは、彼女なりに気持ちの整理をつける方法だったのかもしれません。
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