考え方の違いで子育てノイローゼになった夫婦のリアルな物語。見る者をネガティブで、悲観的な気持ちにさせる暗い話です。44点(100点満点)
ハングリー・ハーツのあらすじ
運命に導かれてニューヨークで恋に落ちたジュード(アダム・ドライヴァー)とミナ(アルバ・ロルヴァケル)は結婚し、男の子が生まれる。だが、ミナは息子の育て方についての方針に異常なこだわりを見せ、次第に神経をすり減らしていく。やがて彼女は、息子が食べるものや接するものに敵対心と怖れを抱くようになり……。
シネマトゥデイより
読者のアズマユキヒロさんのリクエストです。ありがとうございます。
ハングリー・ハーツの感想
サヴェリオ・コスタンツォ監督による、ニューヨークを舞台にしたイタリア製作の夫婦ドラマ。愛し合っていた男女が子育てを巡って真っ向からぶつかり合い、やがて修復不能になっていく悲劇の物語です。
中華料理屋のトイレの中に閉じ込められるという運命的な出会いを果たしたジュードとミナ。一度はミナの転勤で離れ離れになりそうになったものの、子供ができたことがきっかけで結婚することになり、二人は幸せな家庭を築いていくはずでした。
ところがミナは不純な物を食べるのに抵抗があり、動物製品を一切口にしないビーガンで、生まれてきた息子にもそれを強要しようとします。
それだけでなく近代医学を信じず、薬を毛嫌いし、熱が出ても息子を病院に連れていくことを断固として拒否します。
体調の悪い息子を不憫に思ったジュードはミナに内緒で病院に連れて行くと、栄養不足から来る発達障害をわずらっていることを知り、仕方なくたんぱく質を取らせようと肉を与えます。
ところがこれを知ったミナが赤ん坊の体から不純なものを取り除こうと反栄養素オイルを飲ませ、自分の信念のために子供の命を危険にさらしていく、、、というのが話の流れです。
演技はいいし、演出もリアルだけど、ストーリーが暗いですねぇ。テンポもスローなので見ていて結構疲れました。アメリカが舞台でもテンポはイタリアンです。
もしかしたら男女、あるいは食生活のスタイルによって視点が異なるかもしれません。男性で一般的な食生活を送っていたら、ミナはただの頭のおかしい女に映るでしょう。
一方でビーガンだったり、スピリチュアルな女性にはミナの気持ちも分からなくもないんじゃないでしょうか。実際いるからね、近代医学はなんだかんだ難癖をつけて否定するくせに、タロットカードで言われたことは何の疑いもなく鵜呑みにする人とかね。
この映画が上手く表現しているのはまさにミナのキャラクターです。なぜかベジタリアンとかビーガンとかに限って思考がスピリチュアル系に行くんですよね。
なんでもかんでもナチュラルだとか、オーガニックだとか、言い出すと今の世の中ではまあ生きづらくなります。あれ食べれない、これ食べれないっていう人と付き合うとまあ苦労しますよ。
食べ物に制限が多い人は社交に適さなさないんですよね。人の家に遊びに行っても出されたものをほとんど断って食べないし、そいつを呼ぶならそいつのために特別に料理を作らないといけなくなるんです。外食したって行くところが限られるし。
お互いがビーガンならまだいいだろうけど、そうじゃなかったら厳しいでしょうね。ジュードとミナの場合はジュードがベジタリアンでミナがビーガンでしたが、近いようで両者の間には大きな隔たりがあるようです。
度合いにもよるけれど、そういうタイプの人が極端になると、融通が全くきかない、ただのわがままな人になっていく傾向にあるように思います。
やがて肉食を否定し、医学を否定し、薬を否定し、なんでもかんでも否定し始め、自分の考えが絶対になり、挙句の果てには「癌は食事や生活習慣で必ず治る」とか平気で言い出します。
ジュードはあれだけ頭でっかちの女に長らく耐え忍んだんだから大したもんですよ。何度か怒鳴ったり、引っぱたいたりしていたけど、そりゃそうするって。
できればミナの本質を結婚前に気づいておきたかったですよね。でもそれができないのが人間の間抜けなところで、恋の落とし穴ですよね。ラブラブのときは何もかも上手く行くんじゃないかって思うのは仕方ないでしょう。
二人の人生のターニングポイントはジュードが確信犯的に子供を妊娠させた場面でしょう。そうしないと彼女が離れてしまうんじゃないかという危機感があったんでしょうね。
でも結局そうやって無理してつなぎとめた関係は案の定崩れ去っていきます。もともとそうなることが決まっていたかのように。
そんな不幸な運命を背負った二人を見るのは重くて、悲しくて、しんどかったです。夫婦仲が冷え切った人がこの映画を見たら結婚したことを改めて後悔するでしょう。
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