カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したフランス映画。主人公の少年の演技が上手く、全体に文句の付けようのないリアリティーがあり、そのせいでイライラさせられたり、悲しくなったりと嫌でも引き込まれる一本。76点(100点満点)
少年と自転車のあらすじ
児童相談所に預けられたまま12歳になろうとしていた少年シリル(トマス・ドレ)は、いつか父親を見つけて一緒に暮らしたいと願っていた。
ある日、彼は美容院を営むサマンサ(セシル・ドゥ・フランス)と出会い、ごく自然に彼女と共に週末を過ごすようになる。二人は自転車に乗って街を走り回り、ようやくシリルの父親(ジェレミー・レニエ)を捜し出すが……。
(シネマトゥディより)
少年と自転車の感想
「サンドラの週末」、「午後8時の訪問者」、「ある子供」などで知られるダルデンヌ兄妹によるおばさんと少年の愛と友情の物語。
題名からして、少年が自転車に乗って遠くまで父親でも探しに行くロードムービーなのかと思っったら実際は小さな町の中で話が完結する低予算ドラマでした。
映画自体は質が非常に高いのですが、見る人を幸せにする映画ではありません。不良少年シリルのあまりの傍若無人な行動に目を伏せたくなります。こんな悪ガキはとっとと施設に入れてしまえ、とも思います。
それにしても鑑賞後に残るあのイヤァな気持ちはなんでしょうか。ラストは一応前向きに締めくくっているのにもかかわらず鑑賞後もなにか絶望感が消化されないまま尾を引きます。
「警察24時」など犯罪もののリアリティー番組を見たときと同じようなあの感覚。普段目を伏せて素通りしている社会問題をあえて目の前に突きつけられた、ありがた迷惑なネガティブパワーをずっしりと感じます。
父親に捨てられ、家族の愛情を知らないシリルの反抗的な行動の数々はよく分かる一方で、赤の他人のサマンサがなぜあそこまでシリルに肩入れするのかは自分には分かりませんでした。
一度抱きつかれたのをきっかけになにか運命的なものをシリルに感じたのは言うまでもありませんが、ナイフで刺されてもまだ彼を受け入れてあげる彼女の寛大さや覚悟は尊敬すると同時に、自分だったら絶対しないな、という共感とはほど遠いものでした。
一番気になったのは、彼氏とシリルを天秤にかけた車内でのワンシーンです。彼氏はシリルが起こしたトラブルのことで自分まで振り回される理不尽さに「こんなことが続くならもう二度と(サマンサの)家に出入りさせないぞ」と怒ります。
すると、サマンサは「あなたにそんなことを言う権利はないわ」と彼氏の発言に横槍を入れるのです。
「じゃあ、俺とこのガキとどっちが大事なんだよ」と彼氏は当然サマンサに決断を迫ります。そこでサマンサは迷わずシリルを選んでしまう。ナイフで刺されても不良少年のことは見捨てないのに彼氏はあっさり捨ててしまうあの残酷さ。
おそらく多くの女性があの状況に立たされたら、母性愛を理由にサマンサと同じ決断をしそうな気がします。だからこそ余計にあのシーンが胸に突き刺さります。子供もいいけど、もっと大人の男も大事にしてやれよって思うのです。
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