刑務所から出所したばかりの男を居候させたのをきっかけに家族が不幸のどん底に落ちていく様子を描く、怖くて陰鬱な人間ドラマ。一見真面目そうな人たちが何をしでかすか分からないのが恐怖です。67点(100点満点)
淵に立つのあらすじ
鈴岡家は郊外で小さな金属加工工場を営み、夫の利雄(古舘寛治)と妻の章江(筒井真理子)、10歳の娘・蛍(篠川桃音)は穏やかに暮らしていた。ある日、利雄の古い知り合いで、最近出所したばかりの草太郎(浅野忠信)がやってくる。利雄は妻に何の相談もなく彼に職を与え、自宅の空室を提供する。
シネマトゥデイより
淵に立つの感想と評価
深田晃司監督によるカンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した芸術路線の作品です。派手さはないものの無駄なシーンがほとんどなく、ゆっくりな展開ながらじわじわと登場人物の苦しみを描いていく演出が良かったです。
物語は、人を殺して刑務所を出所してきた草太郎が、昔からの知り合いの利雄の家に転がり込んでくるところから始まります。利雄は妻の章江にろくに相談もせずに草太郎を自分の工場で働かせることを決め、家の部屋まで提供します。
最初は戸惑う章江ですが、娘の蛍の面倒を良く見てくれる草太郎に次第に心を開き、やがて好意を抱くようにまでなります。ところがすっかり打ち解けた草太郎がある日とんでもない事件を起こす、というストーリーになっています。
いわゆる「ひょんなことから共同生活を始める」映画ですが、よくある和気藹々共同生活とは違ってかなりシリアスな話です。
負の連鎖や罪と罰といったことを考えさせされる内容になっていて、そこには笑いや喜びといった要素はほとんど介在しません。一見幸せそうな風景も全てはその後の不幸な出来事の予兆かのような重苦しい雰囲気が常に漂います。
楽しい映画じゃないし、前向きな映画でもないです。でもよくできていて、見ごたえは十分にありました。なにより文学作品のような味わい深さがあってサプライズに溢れているのがいいですね。
登場人物たちはいずれも掴みどころがないキャラクターばかりで、それぞれの性格や本性は少しずつしか明らかになっていきません。
そのせいかあまりにも突然登場人物が暴走したかのように見えるエピソードも実はしっかり計算と伏線に支えられているのが分かります。
日本とフランスの合作であるせいか、どこかフランス映画のテンポを感じさせる箇所があって、またそれが日本映画としてのリアリティーを崩していないのが見事です。フランス人がいかにも好きそうな映画に仕上がりましたねえ。
一番良かったのは、草太郎が居候先の奥さんの章江に手を出した下りです。章江は真面目なプロテスタントで、犯罪歴のある草太郎にも理解を示したことで二人の仲が急接近します。
普段はあんなに礼儀正しくしている草太郎がチャンスと見るや迷うことなく章江にキスし、コロッと落してしまう手口には経験と自信を感じさせるものがありました。
お世話になっている男の妻だとか、プロテスタントとか関係ねえとでも言わんばかりの彼の強引さと、自制心と欲望の狭間で揺れる章江の絡みがいいです。
あれすらも草太郎の復讐だったんでしょうか。それともただ欲望に身を任せた末の行動だったのか。いずれにしても、もっと絡みのシーンを本格的に描いてくれたら文句なしでしたね。こういうときこそフランス側のフランス人たちがしゃしゃり出て、強く意見を言ってくれたらよかったのになんで言ってくれなかったんですか?
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