隙のない構成、緊張感が伝わるガチの演技、これが賞を獲れなかったらどれが獲るんだよ、と言いたくなるほど完成度の高い家族ドラマ。87点(100点満点)
別離のあらすじ
イランのテヘランで暮らすシミン(レイラ・ハタミ)とナデル(ペイマン・モアディ)には11歳になる娘がいた。妻シミンは娘の教育のために外国へ移住する つもりだったが、夫ナデルは老いた父のために残ると言う。ある日、ナデルが不在の間に父が意識を失い、介護人のラジエー(サレー・バヤト)を追い出してしまう。その夜、ラジエーが入院し流産したとの知らせが入り……。
(シネマトゥディより)
別離の感想
「彼女が消えた浜辺」、「セールスマン」、「ある過去の行方」、「エブリバディ・ノウズ」、「英雄の証明」のアスガー・ファルハディ監督による、ベルリン映画祭で3冠を獲り、アカデミー賞最優秀外国語映画にノミネートにされた力作。
映画自体はクオリティーが高すぎて文句が出てきません。なので今回は登場人物に矛先を向けたいと思います。この映画には2人ほど引っ叩きたくなる女が登場します。一人は妻のシミン、もう一人は家政婦のラジエーです。
シミンは冒頭のシーンで離婚裁判にて夫に支離滅裂なことを言います。この国には将来がないから娘のためにも海外に行きたい。そんな私について来てくれないから夫と離婚する。これに対し、夫はアルツハイマーの父親がいるから見捨てるわけにはいかないと反論します。
するとシミンは、「あなたのお父さんはアルツハイマーだからあなたが自分の息子だってことすらどうせ分からないじゃないの」などと暴言を吐くのです。イスラム教の女は夫に従順だという偏見をこの映画は初っ端から崩してきます。
おそらくこの監督は言いたかったのでしょう。手に負えない女はどこの国にもいるんだよ、と。そうこの映画はトラブルメイカーの女たちによって人生を狂わされる哀れな男たちの物語なのです。
夫の許可がないと11歳の娘を海外に移住させることはできないと分かり、妻は仕方なく海外行きを諦め、夫の家を出て実家で別居生活を始めます。
海外について来てくれないから仕方なく離婚するなどと言っていた女が国内に残ることになってもやはり離婚の道を自ら選ぶのです。となると娘のために海外に移住したいと言っていた彼女の発言すら怪しくなってきます。
本当はただ旦那と別れたかっただけじゃないのかと。その後もシミンは夫が犯してもいない罪を巡り被害者に示談を持ちかけたりとありがた迷惑なことをして夫を困らせます。「これも全ては娘のためよ」などと言って。この女には鞭打ちの刑を。
しかしそんなシミンもラジエーに比べるとかわいいぐらいです。ラジエーは生真面目で信仰心が深い一方で自尊心が強く判断力に欠けるタイプの女で、アルツハイマーの老人の手をベッドの手すりに縛って、そのまま仕事中に外に出て行ってしまうような行動に出ます。
そのせいでナデルが家に着くと、アルツハイマーの父親は床に倒れたまま意識を失っていました。どうしても“外出”しなければならない理由があったのならナデルは電話して代わりの人を呼ぶなり、その日は仕事を休むなり他の方法があったはずです。
さらに決定的なのはストーリーの一番の争点となる流産の件です。この出来事を巡るラジエーの奇行はもう救いようがない。真面目な女ほど危機的な状況に陥るとぶっ飛んだ行動に出るという良い例です。この女には投石の刑を。
それにしてもアスガー・ファルハディ監督はただ者じゃないですね。エンディングでもジャッジを下すのではなく、ひとつ謎を残して締めくくっているところに人間的な配慮を感じます。
あれは一体どっちなんだろう、と大勢で話し合ってみたくなる、そんなラストでした。俳優陣もすばらしいですね。あんなに上手い演技ができても果たしてイランでは俳優業で食っていけるんだろうか、などとついついお節介な心配をしてしまいました。
こんなレベルの高い映画を出されたらそれこそメインのハリウッド映画のノミネート作品が廃れて見えます。完全に主要部門を食っちゃってる。自分にとってアカデミー賞をチェックする最大の理由はほかでもないこの外国語映画部門の存在です。
世界中に埋もれている優秀な映画がノミネートや受賞をきっかけに世界の人々の目に触れるようになるのならそれだけでアカデミー賞は十分に大きな役割を果たしていると言えるでしょう。
コメント
イランですか。濃いですね。
大昔一度父が倒れた国ですので、父を引き取りにイランまで出かけたことがあります。
脳梗塞でしたから異国で会う父はベッドに紐でくくりつけられていました。
忘れられない思い出です。