舞台劇の映像化で、映画というより劇を見ているような感覚にさせられる黒人の家族ドラマ。頑固親父と彼に振り回せる家族たちの運命をつづった大人向けの映画。55点(100点満点)
フェンスのあらすじ
舞台は1950年代のピッツバーグ。かつて野球の名選手として活躍したトロイ・マクソン(デンゼル・ワシントン)には妻のローズ(ヴィオラ・デイヴィス)との間に生まれたコーリーと前妻との間に生まれたライオンズがいた。
トロイは毎日ゴミ収集の仕事をして、なんとか家族を養っていた。貧しい地区の小さな家が彼の城だった。仕事から帰ってくると同僚のボノと酒を飲み、野球の話や昔話に花を咲かせる。
トロイは自分がメジャーリーグに行けなかったのは肌が黒いからだと豪語し、いかに自分が不運だったかを嘆いた。しかし時代は変わり、スポーツの世界でも黒人が活躍し始めていた。
そんなとき息子のコーリーがアメフトでNFLを目指すためにスポーツ推薦での大学入学の話が舞い込んでくる。目を光らせて夢を抱くコーリーに、父親のトロイはアメフトよりも仕事を優先されるように命令し、二人の間に大きな亀裂が入る。
フェンスの評価
同名の舞台劇を基にした、デンゼル・ワシントン監督&出演の2017年アカデミー賞ノミネート作品。貧しくて、様々な問題を抱えた黒人家族の人間ドラマで、ほとんどのシーンが家の庭で撮影された、ほぼ会話だけで成り立っている映画です。
ストーリーに入るまでに時間が多少かかるため、前半は少し退屈ですが、デンゼル・ワシントン扮するトロイの頑固親父っぷりが分かってくると、話に引き込まれます。
ほぼほぼ家と庭だけを舞台に、脚本と演技だけで約2時間20分もたせるのはすごいです。タイトルの「Fences フェンス」を比喩的にストーリーの中にぶち込んでくるのも上手いですね。
基本的に貧しくて不幸でハードな生活を送ってきた男の話なので、華やかさはありません。苦労話と不幸話の連続に絶えられる人にはいいでしょうが、わざわざ暗い話は聞きたくないという人には向いていないですね。あれで可愛いボノおじさんがもし登場しなかったら、ただの滅入る映画ですよ。
主人公のトロイは日本で言うところの昭和の親父というより、大正の親父といった感じで、息子には敬語を使わせ、妻には怒鳴り散らし、家族を養っているのは自分だと威張りながら、外では他の女とよろしくやってる、という暴れん坊キャラでした。
そんな男の言うことがときどきやけに説得力があるかと思うと、次の瞬間には自分のミスに平然と開き直ったりするのが、なんとも理不尽、またある種の懐かしさを覚えました。今の時代もまだいるのかなぁ。ああいう男。
デンゼル・ワシントンの演技には賛否両論ありそうです。いつもだいたい安定したレベルの高い演技を見せてくれる彼ですが、本作ではちょっと喋り方にやりすぎ感がでていましたね。お喋りで、お調子者で、頑固で、教育のない貧しい黒人男性というキャラが、少しわざとらしかったです。
一方で妻のローズ役を演じたヴィオラ・デイヴィスの演技は、完全に主役を食っていました。存在感を消すときは消すし、出すときは出すというオンオフが素晴らしく、特に夫との口喧嘩のシーンは迫力があったし、主婦として長年夫を支えてきた妻の悔しさが鋭く伝わってきました。
ストーリーは終盤引っ張りすぎたためにラストにかけて失速します。最後の「奇跡」みたいなシーンもばっさりカットしてくれてたほうがよかったです。あんなのいらないから。
それでも全体的に見るとストーリーテリングの完成度が非常に高いといえますね。面白いかどうかというとまた話は違ってきますが。
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