一つの映画の中に小説3つ分の話を盛り込んで、収拾がつかなくなった家族ドラマ。見終わった後に、「それでどうしたの?」と言いたくなること間違いなしで、腑に落ちないラストが待ち受けています。35点(100点満点)
ジュリエッタのあらすじ
スペインのマドリードで、一人生活している中年女性ジュリエッタ(エマ・スアレス)は、ある日ずっと行方がわからなかった一人娘アンティアを知人が見掛けたと聞き、ショックを受ける。ジュリエッタは、12年前自分に何も告げずにこつぜんと消息を絶ったまな娘に宛てて手紙を書き…
シネマトゥディより
ジュリエッタの感想
「私が、生きる肌」、「抱擁のかけら」、「パラレル・マザーズ」などでお馴染みのスペインで最も過大評価されている監督ペドロ・アルモドバルの家族ドラマです。アリス・マンローの短編小説の3つの物語から構想を得ているらしく、それもあってかとにかく詰め込みすぎ感が半端ないです。
これでもかというぐらいに登場人物に色んな悲劇が起こり、スペインにはもはや平和に暮らしている家族はいないのかな、と思ってしまうほどです。登場人物たちに起こる悲劇の数々をリストアップしていくとこんな感じです。
- たまたま乗った列車の向かいの席に座った男が線路に投身自殺する。
- 母親が寝たきりで部屋に鍵をかけられて生活している。
- 父親が病気の母親の目の前で、若いメイドどいちゃいちゃしている。
- たまたま列車で知り合った男の妻が植物人間で昏睡状態に陥っている。
- 男の家を訪ねたら植物人間だった妻は他界していた。
- 男の家を訪ねたら年増のメイドの性格がとにかく悪かった。
- 男と結婚したら、ある日漁師の彼が海に出て溺死してしまう。
- 男を失くした女はうつ病になる。
- 父親を失くした娘はうつ病になってスピリチュアルにはまる。
- 娘は母親を捨てて、いつのまにか結婚し、息子を産んだと思ったら、その息子も溺れて死ぬ。
これだけの悲劇が一つの映画の中で語られる、というのもにわかに信じがたいです。もっと信じられないのは、それぞれのエピソードがほぼ結びつきがなく、あるいは関連性があったとしても重大な出来事はほぼカメラの外で起こるというダラダラの回想劇になっている点です。
視聴者が抱える「どうしてそうなったの?」の疑問に答えぬまま物語は幕を閉じていくので、スイーツの食べ放題に行ったときのような消化不良を起こします。それでいて甘くもなく、苦い話ばかりが続くので誰も得しないようにできています。
スペイン人ってただでさえ早口なのに、アルモドバルの登場人物たちは、ワンシーンの中で言えるだけのことを目一杯言うもんだから、なにが大切で、なにが大切じゃないのか分からないんですよ。
そんでもって伏線のように見せられる数々のシーンもそのまま放置だったり、視聴者を欺くことには成功していても、引っ張るだけ引っ張って結局何も視聴者に与えないっていうのが嫌らしいですね。
強いて褒めるならカラフルな色使いと、ベッドシーンぐらいでしょうか。行きずりの男女が列車の中でするというのはさぞかし燃えるんでしょうね。
ただ、妻が昏睡状態に陥っている男と、今さっき自殺現場を目撃した女がやるって二人とも一体どういう神経をしているんでしょうか。
「よっしゃー、妻の意識も回復しないことだし、やるかー」
「うん、私もさっきおっさんが自殺した現場を見たから、なんだかムラムラしてきたわ」
って感じなんでしょうか。
ぜひあの心境についてスペイン人に聞いてみたいものです。
コメント
お見事なコメントに脱帽です。簡潔で本質を衝いたこの映画評は、観ていて、ずうっともやもやしていた気分を、一気にすっきりさせてくれたばかりか、当方の価値観をどやされたようで、有り難かった。
お役に立てて嬉しいです。