これを見たらメキシコに一生行きたくなくなるショッキングな現実を追ったクライム・ドキュメンタリー。麻薬組織が支配する地方で、無力な警察に幻滅した一般市民たちが自ら武装し治安改善にあたる物語。68点(100点満点)
カルテル・ランドのあらすじ
メキシコのミチョアカン州では麻薬組織が暗礁し、人々は恐怖に怯えて生活していた。警察は汚職にまみれ、すっかり機能を失い、治安は最悪だった。そんな中、ミチュアカン州の小さな町に住むホセ・ミレーレスは自らの意思で「Autodefensa(自警団)」と呼ばれる武装グループを立ち上げ、麻薬組織撲滅に向け活動を開始した。
自警団は勇敢な若者の志願者を次々と集め、警察の圧力にも負けずに麻薬組織を次々と壊滅していき、市民からも多くの支持を得た。しかし麻薬組織はもちろん、ついにはメキシコ政府まで法の外で活動する自警団を警戒するようになる。
カルテル・ランドの感想と評価
「プライベート・ウォー」、「J・バルヴィン・メデジンから来た男」のマシュー・ハイネマン監督による、「アカデミー賞ドキュメンタリー部門のノミネート作品」です。メキシコがどれだけ無法地帯と化しているかが良く分かるドキュメンタリーで、恐ろしいことこの上ないです。あまりにも怖いのでホラー映画として見てもいいかもしれません。
麻薬組織が支配するミチョアカン州では殺人は当たり前。彼らは子供だろうと、女だろうとお構いなしに殺しまくり、殺し方はまた体をバラバラにして、電線にぶらさげたりと容赦ないです。
漫画「北斗の拳」を見たことがある人なら、まさにその世界を連想するはずです。あの「世紀末」の世界がこの物語の舞台なのです。法律はあってないようなものだし、警察、司法が腐っているから犯罪組織が何をやってもおとがめなし。そうなると人々は諦めてビクビク過ごすか、命がけで戦うのかの二択しかなくなるようです。
ドクターことホセ・ミレーレスはそんな中で自ら銃を握り、市民に戦うことを呼びかけます。そうして集まった素人の若者たちによる自警団の活動はたちまち成功を収めます。しかし逮捕権もなければ、武器も不当所持している集団なんかに活躍してもらっては国としては面子が立ちません。
そこで彼らから武器を取り上げようと、軍隊が出動するのですが、そのシーンがあまりにも衝撃的です。怒り狂った市民たちが道を封鎖し、軍人たちを取り囲み、追っ払ってしまうのです。軍隊が市民にびびって退散してしまう国って一体どんななんだろうと思うのですが、それがメキシコなのです。
軍隊が恐れをなした自警団は、次々と麻薬組織に代わって支配勢力を広げていきます。自分たちで留置所のような場所まで建設し、そこに捕まえた麻薬組織もメンバーを次々と収容していきます。カメラは尋問というかほとんど拷問に近いシーンも隠さず映します。
もしかしたら裏では処刑したりしているかもしれません。そこでふと、「もし捕まった人たちに無実の人がいたら?」なんて恐ろしいことも頭をよぎります。しかし警察に麻薬組織のメンバーを突き出せば警察が賄賂を受けてすぐに彼らを釈放してしまうというのが普通だったら、裁判なんて糞食らえなわけで、とにかく一事が万事絶望的な状況にあるわけです。
自警団が治安の改善にあたり、成功を収め、そのままミチョアカン州に平和が訪れればめでたしめでたしなんですが、そんな単純な話ではありません。なぜなら実権を握った自衛団のメンバーの中に権力を乱用する者が現れ、押収した麻薬を売り出したりするなんていう、ありえない事が起こるからです。
こうなってくると誰が悪者で誰か正義なのかが分からなくなります。そんな中、ついにはメキシコ政府も自警団の解体に動き出します。すると、自警団の主要メンバーが仲間割れを始め、絶対的リーダーだったホセ・ミレーレスは命を狙われることになるのでした。
まったくなんていう世界なんでしょうか。こんな世界が今の時代にも存在するというのがにわかに信じられません。それもシリアなどの戦争地帯ではなく、普通の国でですよ。
日本で集団自警団をめぐって賛否両論が巻き起こっていたときこそ、この映画を上映するべきでした。自分たちで自分の命を守ることについて本当に考えさせられる映画だからです。
日本だってこの映画のメキシコ人のように、治安が崩壊したら自警団どころか一般市民も武装して戦わないといけないことになる、というのを想像できる人は今の日本に一体どれだけいるのでしょうか。
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