アリソン・クレイマン監督によるカリスマ中国人芸術家を追ったメッセージ性の強いドキュメンタリー。見ているうちに被写体のアイ・ウェイウェイにどんどん惹かれていく、力強い作品で、表現とは何かを考えさせられる一本。77点(100点満点)
アイ・ウェイウェイは謝らないのあらすじ
中国を代表する現代芸術家のアイ・ウェイウェイは、2008年の四川大地震における校舎倒壊と5,000人を超える児童死亡の徹底調査に着手。政府の彼への監視は日ごとに厳しさを増し、2009年には調査に訪れていた四川で地元警察に暴行される。そのひと月後、ミュンヘンで開催された個展の際にアイ・ウェイウェイは脳内出血の緊急手術を受ける。
シネマトゥディより
読者のtofuさんのリクエストです。ありがとうございます。
アイ・ウェイウェイは謝らないの感想
ネットまで厳しく監視されているような中国で芸術活動をやることの大変さが分かってとても面白かったです。
主人公のアイ・ウェイウェイは芸術家であると同時に政治活動家でもあり、隠蔽体質の中国政府を真っ向から批判していきます。
そうすることでもちろん中国政府はアイ・ウェイウェイを放っておくことはせず、車で尾行したり、家の前に監視カメラを設置したり、ときには警官を送りつけ、暴力を振るうなどして脅迫します。
その一方で中国国内で開催されるアートプロジェクトはほとんどが中国政府主導のもので、北京オリンピックのメイン会場の設計をアイ・ウェイウェイに依頼したりと、両者は不思議な飴と鞭の関係を保っているのが奇妙でした。
中国政府からすればアイ・ウェイウェイは疎ましいけれど、実力は認めざるを得ないのか、あるいは海外にアピールするときには知名度のある彼を利用したいのか、なにか様々な思惑がありそうです。
アイ・ウェイウェイは当初ブログを中心に中国国民にメッセージを配信し続けますが、政府に隠蔽された四川大地震の被害状況や死亡者情報などを公開するうちに政府にブログを閉鎖されるという憂き目に遭います。
それでも決して人々にメッセージを送ることを諦めず、ブログからツイッターに場を変えて中国政府を非難し続けます。
そうこうしているうちに正当な理由もなく警察当局に80日以上も拘束されたり、と身の危険が彼に迫ります。死をも恐れず、決して信念を曲げない彼に監督が聞きました。「なぜあなたには恐怖心がないのか」と。するとアイ・ウェイウェイはこう言います。
「恐怖心がないのではなく、私は普通の人より怖がりなだけ。怖いからこそ行動しなければと思っている。なぜなら早く行動しないと危険は強くなるばかりだから」。
この一言に痺れました。男として惚れました。アイ・ウェイウェイが放つあの強くて優しい男のオーラがたまりません。
それにあの知的で温厚な喋り方。ニューヨークにも住んでいたから英語にも堪能で、世界に向けて自信を持って自己主張できる表現力も素敵です。こんな人間が世の中にいるんですねえ。
中国では真剣に芸術活動をしていけば必ずや規制やなんだで表現の壁にぶち当たるそうです。となると本来なら切り離すべき、芸術活動と政治活動が一緒くたになるのが避けて通れないのがよく分かりました。
もしかすると、芸術だけじゃなく、宗教やほかの様々な活動が全てそうなのかもしれません。政府に屈っしていたら何の信念も持てない。かといって投獄されたらたまったもんじゃない。その葛藤の中で生きていく彼らに強い憐憫と尊敬の念を抱きました。
普段からくだらないことばかりをつづっている自分が心底恥ずかしくなる、そんな映画でした。
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