バフマン・ゴバディ監督による、革命で引き裂かれた夫婦の悲しい家族ドラマ。大人向けのちょっと難しい芸術路線映画です。66点
サイの季節のあらすじ
混乱のさなかにあったイスラム革命中、詩人サヘル(ビーローズ・ヴォソーギ)はいわれなき罪で投獄され、30年後にようやく釈放される。
彼の妻ミナ(モニカ・ベルッチ)はサヘルの釈放を切望していたが、夫はすでに刑務所内で死んだという悪意あるうそを信じ込まされていた。ようやく出所した後、サヘルは必死に妻ミナの行方を捜すが……。
シネマトゥディより
サイの季節の感想
イランやトルコを舞台にした大人向けの政治・人間ドラマ。セピア色の幻想的な映像に加え、現実感とシュールさをミックスさせたようなストーリーが独特で、必要以上に説明しないところに好感が持てる作品です。
政治色の強い芸術路線のマジな映画です。革命の混乱のさなかに牢獄にぶち込まれた詩人の男サヘルとその妻の愛の物語とも言えます。
サヘルは、反体制の詩を書いたとして30年の禁固刑を受け、妻のミナもまた夫に協力した罪で10年投獄されます。
二人は獄中、拷問を受けながらもお互いの安否を気にしながらなんとか生き延びていきます。ある日ミナは刑務所の中で彼女に好意を寄せる元運転手の男に乱暴され、双子を出産します。
やがて出所を迎えたミナは夫が獄中で死亡したと嘘を告げられます。そして後から出所したサヘルは自分が生きていることを知らぬミナの居場所を突き止めるために亡命先のトルコを訪れる、というのがストーリーの流れです。
序盤は現在と過去がめまぐるしく交差していくため、状況を把握するのに時間がかかりました。
現在も過去も映像が同じセピア色なため、全て同じ時代の話なのかと思ったほどです。この手の映画によくある「10年前、、、、」、「30年後、、、、」と言ったキャプションがわざわざ出てこないので、分かりにくいといえば分かりにくいです。
しかしいざストーリーの全体像が見えてくると、ストーリーの解釈を視聴者に委ねているその手法が心地良くなっていきます。
また、詩人の男があまりにも無表情で寡黙なために一体何を考えてるんだか分からないのも味わい深いところです。彼の気持ちや心境を予想、想像していくのがこの映画の醍醐味と言えるかもしれません。
猫、亀、馬など意味深な動物たちが何を表現しているのか考えるのも面白いです。一説によるとあれらの動物はバフマン・ゴバディ監督の旧作、「亀も空を飛ぶ 」、「ペルシャ猫を誰も知らない 」、「酔っぱらった馬の時間 」などからのモチーフだそうです。しぶいですね。
一方で結末にはそれほどサプライズはありませんでした。この手の映画は悲しく、しっとり終わっていくのがパターンですね。
車で海に突っ込むシーンも現実感がなく、突然サイを登場させたりしてシュールに仕上げていました。あれはあれでいいんですが、元運転手の男もサヘルも何も言わないもんだから、あとは想像で二人のやり取りや心理を汲み取っていくしかありませんでした。
それにしても一体サヘルはミナを探し出して何がやりたかったのでしょうか。いざミナを見つけたはいいが、ミナの娘と仲良くなっちゃたりして回り道しすぎな感じもしました。
一番不可解で、不思議だったシーンは、ミナがサヘルの背中にタトゥーを入れるシーンです。あれは幻かそれとも現実なのか。なぜサヘルはミナに何も言わなかったのか。
いずれにしろイラン人女性のタトゥーアーティストという設定が面白いですね。実際にイラン人の女性彫師なんているんでしょうか。
チャドル(黒装束)を着ながら裸の男性に墨を入れる女なんて、どこか官能的ですらありますね。日本はメイド喫茶とかやってる場合じゃないです。今すぐチャドル・タトゥーサロンを開けるべきです。
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